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帝国と連邦と

ウェラは朝日が高くなった所で検索魔法を最後にかけた。


「不穏な動きは無し、と」


検索結果に何も出ないのを確認したウェラは皆が寝ている場所に戻った。


「あらあら」


ウェラは思わず声に出てしまった。なぜならリールは仰向けのウェルウィッチアの上に覆いかぶさるように眠っていたからだ。


「リール……リール」


ウェラが呼びかけリールを起こす。


「あ、お、おはよう……」


昨日のアレがあった後だ。当然リールはばつが悪い顔をする。


「まずは……昨日は申し訳ありませんでしたわ。実は……」


と、ウェラが真実を教えた。






「そういう事情なら仕方ないけど……これっきりにしてね」


「ボクからも謝らさせてください。ごめんなさい」


「まぁ……いいけど」


リールが恥ずかしそうに目線をそらすので何事かと思ったらウェルウィッチアは裸だった。行為の後なので当たり前と言えば当たり前だが、無防備すぎる。


「あっこ、これは……その…み、見ないで下さいっ!」


いつも通りに戻っていた。






道中は今まで通り和気あいあいと進み、街に到着した。街と言うか小さな国のようにも見える。


「この街に入るには審査が必要だよ」


門兵に言われ、案内された部屋に行く。


「では着ている服を脱いでください」



突然の脱衣命令にすぐさま従ったのはウェラだった。


「これでよろしくて?下着も?」


「それで結構」



続いてコーが脱いで、次にリールが。最後にウェルウィッチアが脱いだ。


「あの……これは何の審査ですか?」


「武器を持ってないかの確認だ」


正直下着が見たいだけにしか見えないその様子にため息を吐きながら外をみると、何やら音楽が聞こえる。その音楽を奏でながら行進している者を見て最初に疑問を口にしたのはコーだった。


「儀仗隊がなぜここにおるのだ?この街はいつから軍備を強化したのだ?」


「あぁ、彼らは帝国軍人ですよ。今、この街は帝国軍に統治されてますからね。これも、その命令に従っているだけです。連邦の統治下だったら、簡単な書面で入れたんですがね……では”入国”を許可します。どうぞ」


皆は服を着ると街の中へと入る。が、すぐに理解した。通行人はほとんど帝国軍の軍服を着ており、一般人はまるでいなかった。


「すべての情報は酒場にってね。行きましょうか」


ウェラの提案で一同は酒場に向かった。




「予想はしてましたが、閑古鳥が鳴いてますね」


「マスター、何があったか教えてくださる?」


ウェラがカウンター席に腰を下ろしながら言う。ウェラの美しい金髪と黄色を基調とした服にマスターはすぐに何者か理解したようだった。


「丁度先月、かや。帝国軍がこの街を占領しよってな。こっちゃえらい迷惑だがね。何か飲むきゃ?」


「……ひと目もありますし、ミルクを人数分」


「あいさ」



ミルクを飲みながら考える。この帝国に占領された状態では満足に宝石を加工するのは無理だ。横取りされるのが目に見えている。


「他に何か情報らしい情報はありまして?」


「天使様に色々教えてゃあのは山々なんだがね……どこに耳があるか分かりゃーせん。すまねぇが俺の口からはとても……」


「いえ、それが聞けただけで私は満足ですわ。何か軽食はお願いできまして?」


「鶏卵のサンドウィッチでえーかや?」


「十分過ぎますわ。是非」


「あいさ」







標準語だがすこし訛りのあるマスターのサンドイッチはとても美味しかった。


「美味しいですわ。今までが散々とはいえ、こんな美味しいサンドイッチも中々ありませんわ。さぞかしこだわりのある物と見ましたわ」


「ま……ね」


「そなたからはこの街を愛してやまないニオイがする」


コーがサンドイッチを頬張りながら言う。


「占領は困る。けど戦火はもっと困る。マスターの気苦労も分からないわけではありませんが……なぜこの街を突然?」


ウェルウィッチアがサンドイッチを口に運びながら言う。


「この街の裏は昔…本当に昔に飛空艇の試験場があったんだがね……帝国は既に飛空艇の技術を有しとりゃーすがね。恐らく、離着陸場と連邦領への前線基地にする気じゃにゃーかや」


「リール、地図を」


ウェラに言われすぐにリールは地図を引っ張り出した。


「えーと、この街は……ここかな?」


「冗談ではないぞ。ここは端っこではないではないか。随分と攻めてきたな」


コーが声を荒げる。それもそのはず。この街は国境線ではない。かなりの奥地まで侵攻してきている。


「なぜ連邦は何もせんのだ?」


コーの言葉に答えたのはウェルウィッチアだった。



「飛空艇は空高くから兵を送り込める乗り物です。勿論大砲だって乗ってます。空に向かって満足な攻撃ができる能力は……どこの国にだって存在しないんですよ」


それは深刻な現実だった。帝国は飛空艇で奥地まで移動できる。国境警備兵では手も足も出ない上、人の足で首都まで伝令を走らせては対応も遅れる。それに、リールの目論見もはずれた。この世界にはちゃんと大砲があるらしい。


「おみゃぁさんら、変な事は考えんといてな?俺はこの街が好きだでよ」


「分かっていますわ。私にとってこの街が滅ぼうと連邦が滅ぼうと関係ありませんもの。普段でしたらね……私は宝石を加工したくてここまで来ましたの」


「やめときゃーて。帝国にはかなわん。他の街に行きゃぁええがね」


「いいえ、マスターの話を聞いたら追い出さねば気が済みませんわ。多少、血生臭さくなりますけど、許してくださいな」



「話は聞かせてもらった!今すぐ全員手を上げて指示に従いなさい!!」


「鴨が葱を背負って来ましたわ。ウェルウィッチア、一発お願いできまして?」


「分かりました。―――風の精霊よ、我が名のもとに集いなさい。その風は雷鳴の如く。顕現せり力は弾丸の如く。風の精霊よ、今一度、我がもとに力を示しなさい。―――顕現せよ!ウィンドダート!」


杖の先に魔法陣が現れ、そこから放たれた矢は文字通り弾丸……いや、ミサイルのような破壊力を見せた。


「ふふっ、魔女らしくなってきたではありませんか」


「あ、いや、その……ごめんなさい…ここまでやるつもりはなかったのですが……」


「こういう時にリールならこう言うでしょう?うぇぽん・ふりー。おーぷん・ふぁいあ、と」


リールにとってそれは転生前に知っている言語である。だが、この世界では……


「さすが殆どの言語に精通している天使だな。古代竜語を話せるとは」


「ふふっ、任せてくださいませ」


自慢気に胸を張っているウェラには悪いが、これは正しく宣戦布告である。連邦としては売られた喧嘩を買った事になる。



どうしてこうなった




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