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打ち捨てられた工場で

バトル物を書くつもりだったのだけど、バトルがわからなくなったので路線変更へ。期待してしまった方には申し訳ないと思います。

今回もほのぼの路線です。ウェルウィッチア以外は

「あの……どうして天使様とリール君が同じベッドから出てくるんですか!?」



この返しも2回目な気がする。


「どうしてって、私達がベッドを占有するわけにいかないでしょう?」


「……それにしたって裸だなんて!」


「だって、あんな砂に汚れた服でベッドに上がるだなんて、そちらのほうが失礼ですわ。下着にしたって昨日洗濯してしまいましたし」


ぶっちゃけ言えばウェラは魔法の服なので自在なのだが……。



「怒るのは良いですけれど……貴方も裸ですわよね?ウェルウィッチア?」


頭に血が登っているのか、そのことすら忘れて怒っているあたりちょっと可愛い。



「見ないでくださいっ!」


慌てて後ろを向くウェルウィッチア。こうやってみると可愛いお尻をしている。



「で、コーはどちらに?」


ウェラが言うのでリールが探すと、表で布一枚体に巻いて干してある洗濯物を眺めていた。


「あそこで洗濯物干してるよ」




「コーは早起きですわね」


「いや、おぬしらがお寝坊なだけだぞ。もうすでに昼前だしの」


空を見上げれば、日は高いところまで登っていた。



「……それはともかく……コーは案外優しいのですわね」


「そうでもないがの」



洗濯物と言えば当然服である。が、当然下着も含まれているわけで


「り、リール君は見ないで下さいね!」


「僕……洗濯物に欲情すると思われてるの…?」


「え……あ、その……ごめんなさい」


ウェルウィッチアとリールのやり取りを見てウェラとコーは失笑していた。




「あの……もう十分乾いていると思いますので……そろそろお召し物を…ですね」


そう言えばコーは布を巻いているだけだし、残りの3人に至っては裸である。ウェラはくるりと回ると衣服を身に着けている状態になる。それを見て3人は各々の服を身に纏っていく。



「リールの服はすぐに乾いたがの……ウェルウィッチアのローブは中々乾かすのに苦労したぞ」


「通気性は良いのですけど、分厚く丈夫な布で、ある程度なら水を弾くはずなのですが……それが仇となったかもしれないですね」




「さて、では工場の方へ参りましょうか。ここから遠くはありませんので」









その工場の先にある溜池をまず見ることにした。



「ここで作っていたのは金か…銀……?」


「すみません、そこまでは……」



鉱滓ダムでそう判断したリールは時の流れ逆らうような立派な建物に入っていく。


「リール、これなんかが良いのではなくて?当時の記録みたいですわよ」


ウェラが本を持ってきた。そこには製造された金属が何がどれくらいか、が記録されていた。



「どうやらもともとこの辺りは金が取れるみただけど……そのついでみたいに銀も製造していたらしいよ」


その記録は珍しく近代標準語で書かれており、リールにも読むことができた。


「銀……儀式の一環として銀の釘が作られていたのは聞いていますが……」


ウェルウィッチアが放置されているクリップボードを見ながら言う。


「儀式?船でも作ってたの?」


ゾロアスター教の儀式で、船を作る際に竜骨に銀の釘を打ち込む、一種のおまじないがあった。それと同じようなものがあるのかも、とリールは思ったのだ。


「まさか。椅子の肘置きに手首を固定するのに使うんですよ」


多分、手首に直接打ち込んでいたであろう事は容易に想像できた


「それを……どうするの…?」




「そのまま池に放り込むのですわ。魔女なら浮かんでこれる、とね」


「この儀式を生き残った人だけが魔女を名乗れるんですよ。ボクのご先祖様も通った道らしいけど……詳しくはわかりませんね」


スパルタよりやばいな?



「銀は魔力崩壊をさせる鉱石の一つだから、魔女にとって銀の釘を打ち付けられるのは致命傷なんですよ。もし、ボクがそれをされたらと思うと……浮かべる自信はありませんね」


「あの家系に生まれておきながら嘆かわしい限りですわ」


「……それは…」


「まぁ、自信過剰よりはいいですけど」



魔力崩壊……魔力を分離する事。古くは魔気の制御に使おうと試みたその金属。今では通貨にもならず、掘り起こされもせず、今なお大地の下に眠っている。結局、思ったほどの実績があげれなかったからだ。


「魔力崩壊させるのが銀なら、魔力を増幅する物ってあるの?」



「ええ。ありますわ。宝石の殆どが魔力を増幅しますの。クオーツが一番安定してますけれど、増幅率はいまいち。一番増幅率が高いのはルビーですわ。希少性も高く、一部の魔女しか持ってないと言われていますの。もっとも、一定以上の魔力を与えなければ増幅しないどころか、減衰させてしまうのですけれども」


リールはウェルウィッチアの持っている杖を何気なく見た。そこには赤い宝石が組み込まれている。……ルビーでは?


まさか、今までの魔法はルビーの増幅を受けてなかった可能性……?




「まずは魔力不足を補いませんとね。ここなら、消し飛んでも大丈夫ですわよね?もう放棄されているのですから」


ウェラはウェルウィッチアを椅子に座らせると、その額に手を伸ばす。手の平と額の間に光が現れる。


「だ、大丈夫なの?」


「さぁ?」


リールが言うとウェラは笑みをこぼしながら作業を続けた。





「何を……しているの…?」


「記憶を一時的に書き換えてますの。存在しない記憶……この子の過去は一時的に迫害を続けられていた事にしてますの。記憶、とは言い難いですわ。体験してますの」


「どんな疑似体験も天使の見せる嘘の記憶にはかなわないとされおるからの……」


コーは机に腰を下ろしながら落ち着いたように言うが表情は曇っていた。やはり心配なんだろう。







「さ、終わりましたわ……壊れないでくださいませ……貴方は世界に恐れられる魔女なのだから……さぁ、帰ってきなさい」


1分ほどだろうか。その短い時間に何を見せたのだろう


「リール、我々には1分だが……ウェルウィッチアは10年の時を見ていたはずだ」



ウェルウィッチアを見ると、瞳孔が開いており、まだ意識が戻っていないようだった。


「さぁ、帰ってきなさい。貴方が戻るべき場所はここですわ……さぁ」


ウェラが呼びかける。その呼びかけに答えるようにウェルウィッチアは瞳に輝きを取り戻した。


「はぁ……はぁ、はぁ…ひどい…夢を見ていました…」


「おかえりなさい、ウェルウィッチア。即席ですのでそこまで上がっていませんけれども……今までよりずっと強い魔力を内包できているはずですわ。開放しすぎにご注意くださいませ」



内包する魔力が上昇しても実感があるものではないので、ウェルウィッチアは荒い息のままウェラに抱きついた。


「うふふ、夢はもう覚めてますわよ…?」


「ごめんなさい……しばらく…このままで…」


ウェルウィッチアを優しく包容し、頭を撫でるウェラ。変なところがあるウェラだけど、気を許した相手にはとことん優しいようだ。



「ところで、最初に行っていた消し飛ぶって何?」


「あの方法で魔力を底上げすると、たまに暴走してしまうのだ。盆地や池の幾つかがそうやってできたものであるぞ……」


「ダメなやつじゃん」


「生まれ持ってこなかったのだから、そうやって底上げするしかないんですの。もっとも、そのつもりで迫害を受ける魔法使いもいるらしいのだけど……結局の所、強いストレスを与えれば魔力は上がるのだから、方法は問わないという事ですわ」


つくづくエルフに生まれて良かったと思った。…あれ?


「リールもこちらの世界に来る前の記憶があるからこその魔力のようですけれど」



まぁ、仕事はキツかったよ。でも日曜日は自由だったし、マシな方のハズなんだけどな。ほとんど覚えてないし。


「殆ど覚えてないけどね」


「記憶に留めたくないほどのストレスだった、という事ですわ」



「なるほど……でも、どうしてウェルウィッチアの魔力の底上げを…?」


「言い方はアレかもしれませんけれど、よりすぐりの魔力を持った者の集まりとしてはあまりにも弱すぎる。魔女なら魔弾の一つで山をえぐりとってくださいませんと」


えらい敷居が高い場所にあるんだな、魔女ってのは。



「この工場は結局どうするの?」


リールが話を戻すと、案内してくれた翼人は腰に手をあてながら


「再建するにも人が足らず、作業員を配置するにも技術が足りません」



「では、まずは勉強会から、ですわね」


ウェラが言うと翼人はため息を一つ。


「人が足りませんけどね」


「頑張って作ってくださいませ。まさか生き残りは一人ではありませんですわよね?」


「ええ、まぁ……」



さすが世界を作った本人だけある。ウェラにとって「生命は作るもの」なんだな。


「さて、工場見学はこれくらいにして、私達は少し戻った先の人間の街に向かいますわ。何かありましたらご一報くださいな。ドラゴンへは私が言ってありますので」




復興したてとはいえ、翼人の生存が確認できたウェラは嬉しそうに


「種族の繁栄をお祈りしますわ。国交を頑張って技術者を集め、眠っている資源を資金にできると良いですわね」




「お待ち下さい」


立ち去ろうとする4人に若い女性が声をかけた。何事かと振り向くと、女性は布に包まれた宝石を差し出した。


「青い海と呼ばれるサファイアです。そちらの魔法使いさんの杖に使われているルビーほどではありませんが、魔力を増幅する効果は十分なはずです」


「そんな貴重なものをよろしいのかえ?」


コーが思わず聞き返していた。


「本当に「青い海」でしたら下手なルビーよりも価値も効果も勝りますけど……本当に…?」


ウェラも思わず聞き返していた。


「ええ。ここにあると、争いを呼びかねません。我々はもう戦う力は残されていませんから。それに、これを再加工するほどの技量もない。ならば、価値のわかる方、それもこの地に平穏をもたらした貴方がたにお渡したいと思っています」


「断る理由はありませんわね。杖に加工しましたら見せに来ますわ。それまでに1人くらい増やしてくださいませね」


その時の女性の顔は、少し恥ずかしいような、困ったような……そんな顔をしていた。



ここから北へ向かうことになる。地図で見ればさほど距離はない。彼らに手を振り、ドラゴンのキャラバンとも別れを告げると、一同は荒れた大地を進み始める。何年かしたら、この地も緑豊かになるだろう。


こうして街を目指して歩き出したのだった。










地図の縮尺は、ちゃんと読み取ろうね


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