森林エリア 結2
「エリアボスに備えろ!!」
深夜騎士団のメンバーが、洞窟エリアへと続く道で着々と準備を進めている。
彼らの表情は皆硬い。それも当然である。先ほど、二人のプレイヤーからもたらされた情報――すなわち、エリアボスの『兜王蟲』が暴れているというのだ。
彼らの仲間が足止めに残ったというが――既にやられてしまっているだろう。
いくら中級者向けエリアだとしても、相手はボスだ。それを単独で押しとどめるなど、上級プレイヤーでも容易いことではない。
「他のプレイヤーにも協力を仰げ!!」
指示をしながら、深夜騎士団の副リーダーであるドルドルは内心焦りを隠せなかった。
――人手が足りない。
彼を悩ませているのは、シンプルな悩みであった。
本来、彼はエリアボスに手を出すつもりはなかった。今日は、クランの中堅プレイヤーのまとめ役としてダンジョンに来ていたにすぎない。そのため、準備が足りていないのだ。
それに加え、彼のジョブはバッファーである。彼自身が戦闘を得意としているわけではない。
「せめてリーダーか、他のヤツが引率だったらなぁ……」
そんなことをこぼしても状況が変わることはない。
ドルドルは一つため息を吐いて、指示を飛ばし続ける。
「副リーダー!!こちらのプレイヤーたちが協力してくれるそうです!!!」
クランメンバーの一人が、数人のプレイヤーを連れて来た。
森林エリアを攻略中のプレイヤーらしく、レベル帯は中堅だろう。
彼らの顔に緊迫した様子はない。どうやら、迫るバトルを勝ち戦かなにかだと勘違いしているらしい。彼らが加わっても厳しいことは変わらないというのに。
(これも有名になった弊害か……)
自分のクランのネームバリューに辟易しながらも、それでも彼らの参戦はありがたかった。
彼らの参戦により、プレイヤーの配置が変わる。それを伝えるためにドルドルが口を開こうとしたとき、彼は話しかけられた。
「ドルドルさん。俺たちも参加させて下さい!!」
それはソウタとレンと言ったか……深夜騎士団にエリアボスの暴走を教えてくれたプレイヤーだった。
「それはありがたいが……そっちの君は虫が苦手なんだろう?」
「それでも……!カガチが!!」
ソウタと視線が交錯する。
すでに覚悟は決まったようだった。それなら、断る理由はない。彼らなら脚を引っ張ることはないだろう。
「なら、ぜひとも力を貸してもらいたい」
「は、はい!!」
「それと敬語は辞めてほしい。ここはゲームで、僕らは戦友になるからね」
そういって、ドルドルは一つ疑問が浮かんだ。好奇心からの些細な疑問だった。
「……一つ聞きたいんだけど、カガチっていうプレイヤーは強いのかい?ああ、単純な疑問だよ。別に手の内とかを知りたいわけじゃないんだ」
多少は嫌な顔をされるのかもしれない。
そう思っていたドルドルだったが、回答は予想の斜め上のものだった。
「さぁ?」
「強いには強いんですが……正直、よく分からないです」
二人とも土煙と轟音が響く方向を眺めながら答える。
すでにカガチはやられてしまったのか……それは分からない。だが、轟音と土煙は近づいてきていた。それが全てだ。
「ただ……」
「ただ?」
ソウタとレンは、顔を見合わせて笑ってから続ける。
「アイツがエリアボスを倒しても、不思議じゃないです」
その瞬間――木々をなぎ倒して、『兜王蟲』とカガチが現れた。
◆
現れた『兜王蟲』は、凄惨な姿だった。
身体が燃えており、外骨格は所々ひび割れている。
「アレを一人で……?」
ドルドルは『兜王蟲』と対峙しているプレイヤーを見る。そのプレイヤーは鶴橋を持っていた。
「まさか……アレで?」
見たところ、良質なものではない。素材も特別性というわけじゃないだろう。
それであの『兜王蟲』を追い詰めているらしい。
ソロで倒すだけなら、深夜騎士団にも出来るものはいる。だが、鶴橋で追い詰めることが出来るのは……どうだろうか?少なくとも相当なプレイヤースキルがないと無理だろう。
「カガチ!」
「無事だったのか!!」
ソウタとレンが声を掛ける。
あのプレイヤーがカガチというプレイヤーらしい。
「お……無事だったか!!あ、でもこれじゃ逃げられないな……」
そうだ。
レンとソウタの話だと、カガチはあの二人を逃がすために囮をかって出たらしい。その目論見も二人が逃げるのではなく、自分たちと迎え撃つことを選択した時点でなくなったわけだ。
だが、それならば協力は出来るだろう。
彼の協力があれば、確実に『兜王蟲』は倒せる。もちろん、しっかりと協力できなければ負けるだろうが……
まあ、それを何とかするのが自分だ、とドルドルは口を開こうとして……
「なら倒すしかないな」
馬鹿な言葉を聞いた。
限界を迎えた鶴橋を、カガチは捨てる。そして、取り出すのは一振りの剣。
それこそは、カガチが忘れに忘れていた産物。かつてグラーフの誘いに乗り、ゴードンというプレイヤーと戦って得た武器。聖気畜一角馬のユニークモンスターの素材を加工して作られた武器は、聖気ではなく太陽光を蓄積して放つことができる。それをゴードンはレーザー照射のように発射して使っていた。
戦っている最中に、そういえば……と思い出したのだ。
もっと早くに思い出せ、とハクロが袖の中でぺちぺち講義しているのを感じながらカガチは水晶のような剣を振るう。
水晶の剣が輝き、光が放たれる。
――――!!!!??
その熱量は相当なものだ。
それに少し驚きながらも、カガチはなるほどと一人納得していた。
ヌルゲーになりかねない、と。遠くから放射するだけで、モンスターを倒せる。いや、倒せてしまう。そりゃあ、ゴードン君のプレイヤースキルが低いのも仕方ない……
一人納得するカガチをよそに、ドルドルは驚愕を隠せなかった。
カガチが『兜王蟲』を圧倒していることにではない。彼が、その剣を持っていることに驚愕していた。
なぜなら、あまりにも有名な武器だったのだ。
高火力、広範囲の攻撃を連発できる武器などレアものである。ゴードンの性格も相まって、数々のプレイヤーの垂涎の的でもあった武器なのだ。知らない方が少ない。
では、なぜの武器をカガチが持っているのか。
一つ、似ているだけで別の武器である。
それもあり得るだろう。似たような性能を持つ武器はある。だが、一度は目にしたことがある武器だ。渇望したことがある武器だ。似た武器で片付けるには、装飾等が似通っていた。
「なら……」
アレは本物だ。
だが、そうなるとゴードンから貸し出されたのだろうか。その仮定が正しいとなると、彼は帝国寄りのプレイヤーになる。『兜王蟲』を鶴橋だけで追い込んだ実力を見れば、なにかしらの陰謀を感じざるを得ない。
しかし、あのゴードンがあの武器を貸し出すのだろうか。それはあり得ないことだ。あの剣へのゴードンの執着は相当なものだった。まあ、彼は実力の大半を武器に頼っていたのだから仕方のないことだろう。
「なら……あのプレイヤーは」
ドルドルは、熱線を放ち、『兜王蟲』を圧倒するカガチを注視する。
可能性は一つしかない。
あのプレイヤーがキルして奪った。PKがあるゲームだ。PKされて武器や防具がなくなった話なんて、溢れている。
「ありえない……」
ドルドルは、ゴードンの強さを知っている。いくらプレイヤースキルが低いとはいえ、ゴードンを倒すことは難しい。少なくとも自分は出来ない。リーダーなら可能だろうが……それでも、レベルが対等なら、だ。
ドルドルは知らない。
ゴードンが性格の悪い伯爵の掌で踊っていたことを。まともに力を出しきれずに倒されたということも。
何も知らない。
―――カガチという男が、どのような男であるかも。
「は?」
だからこそ、ドルドルはカガチが水晶の如き剣をアイテムボックスに納め、腰に佩いていた刀を抜刀したことに驚きを隠せなかった。




