森林エリア 結
『兜王蟲』が重心を落とし、攻撃体勢に移る。
『兜王蟲』の雄々しい角が、俺に向けられた。
あの角で外敵を排除するのが、『兜王蟲』の戦い方であるのだろう。脚を使っての攻撃など、まさしくハエを払う程度に違いない。
その角が地面に向けられる。そうなると、『兜王蟲』の姿勢は地面を這うような形になる。
あまりにも分かりやすい攻撃表示。
いまから攻撃すると言っているようなもの。おそらく、あのまま突っ込んでくるつもりだろう。
昔、カブトムシの全身は筋肉であると聞いたことがある。全身が筋肉になっているからこそ、体格差のある昆虫も投げ飛ばせるのだと。
この話をしてくれたのは兄さんだったか、ウォルターだったか……それとも、高校の友人だったか。誰から聞いたかは定かではないが、その話はよく覚えている。
「なら……」
『兜王蟲』の攻撃はどうなってしまうのか。
あの巨体だ。そこから生み出される力は……洒落にならない。
『兜王蟲』が動いた。
「っ!?」
とっさに使った『縮地』で、『兜王蟲』の動線から外れる。
『兜王蟲』は俺を捉えることが出来ず、横を通り過ぎていく。ヤツはそのまま、木々をなぎ倒して消えていった。
もちろん、あの程度で死ぬような柔なモンスターではない。
すぐに木々を押し倒して戻ってくる。
無傷、か。
見る限り、ダメージを負っている様子はない。
突進して、木々をなぎ倒した程度ではヤツの外骨格は揺るがないのだろう。
矛と盾を備えたトラックのようなもんか……嫌だな。
「さてさて……どうするか」
スピードはなんとか躱せるくらい。
いまは『縮地』で躱したが、次は使わなくても回避できるだろう。なにせ一度見た。途中で方向転換を行わない限り避けられるだろう。
まあ、それもヤツの『金縛り』が解けるまでだろうが……
それに厄介なのは、スピードだけじゃない。あのパワーはともかく……どうせ紙装甲だ。一撃喰らったら致命傷なのはいつものことだから、な。まったく威張れることじゃないが。
問題は外骨格だ。腹の弱点はあるものの、それ以外は硬いだろう。それに腹が弱点とはいえ、露出させる手段がない。腹に潜りこむという手はあるが、そもそもあのスピードに姿勢だ。悲惨な目に合うのは目に見えている。
「あれ……?」
詰んでね?
い、いや……なんとかなるはずだ。節を狙えば、あの外骨格は関係ない。後ろ脚を斬り飛ばしたときのように、攻撃は通るだろう。
とはいえ……
「ぐっ……!?」
木をなぎ倒し、縦横無尽に『兜王蟲』は突進を繰り返す。
さながら、暴走するロードローラー。
そんなヤツの節を狙うのは至難の業だ。
『兜王蟲』が止まったとしても、それは俺から離れたところであるし、距離を詰めようにもその間に再び突進してくるものだから……下手に近づくと命取りになる。
だから、出来ることは苦し紛れの斬撃を放つことだけ。まあ、それも外骨格に阻まれてダメージが通らない。
それに爆走する『兜王蟲』に攻撃をするのは、命を捨てるようなこと。俺の紙装甲なら殊更だ。
クソッ。まともなボスしてやがるな。パーティーで攻略するのが前提にありやがる。
「仕方ない」
まあ、俺はソロじゃない。隠れているが、相棒はいる。
「ハクロ、サポート頼む」
「もういいの?」
「まあ……それにこのままじゃあ、ジリ貧だしな」
これで戦況が変わってくれるといいんだが……
「『炎呪の蛇』」
短い韻と共に炎蛇が姿を現した。
その突如現れた炎蛇に一瞬『兜王蟲』は怯んだものの、ヤツは変わらず突進を開始した。それは王の矜持が故か。
生物としての恐怖をねじ伏せた『兜王蟲』は、炎の蛇を貫いていた
「おい!?」
その勢いのまま、俺たちに向かってきたのを間一髪で避ける。回避の動きがヘッドスライディングになったのはご愛敬ってことで。
「硬いね……アイツ」
「ハクロ!?」
「……君だって有効打がないだろ?」
いや、頑張ればあるし……死ぬ気になれば、外骨格貫けるし……その代わり、『纏雷』の反動で死ぬけど。
それに……とハクロは続ける。
「僕の呪いはここからだからね」
炎蛇が鎌首をもたげる。
実体がないため、『兜王蟲』の突進を喰らってもピンピンしている。だが、特筆するべきはそこではない。
炎呪――その呪いは、生命力を糧にして燃え盛る炎である。つまり、それは強固な外骨格を持つ『兜王蟲』にとっては致命的である。
「――――――!?!?」
『兜王蟲』が狼狽する。
『兜王蟲』でも消えない炎を喰らうのは初めてだったらしい。
まあ、気持ちは分かるよ。ハクロは正直言って強すぎる。イベントで参加する強NPCのようなもんだ……七帝の系譜だと考えると妥当なんだろうが。
だから、ハクロにはサポートをメインにしてもらっている。それでも強いから、ズルしている気分になるんだけども。
「さぁて、と」
呪刀を納刀する。
代わりに取り出したるは、いつか買った鶴橋だ。
「コッチの方がダメージはいるだろ」
なにも刀縛りで戦っているわけじゃない。
状況に応じて、武器を変えるくらいはする。まあ、本音を言うならこんな鶴橋よりもハンマーの方がよかったんだけど。
もともとが鉱石を掘るようの鶴橋だからな。それに安かったから、品質は良くない。使い続けるようなものではなく、使い潰すのが前提のものだ。まあ、そっちの方が扱いやすくていい。
「――――――!!!」
『兜王蟲』が狼狽をやめ、再び暴走を始める。
ロードローラーのような巨体で突進する様は、変わらず危険極まりないが……すでに見切っている。
転回の隙を逃さず、鶴橋を振るう。
外骨格こそ貫けなかったものの、確かに傷を残す。もう一度同じところに攻撃を重ねれば、貫けるだろう。
刀でも突きなら同じ結果が得られたのかもしれないが、それはそれで刀がダメになりそうだ。
鶴橋を構える。
手には痺れが残っているが……相変わらずリアルすぎて気持ち悪い。
この戦いも既に終わりが近い。
そう遠くないうちに決着がつくだろう。




