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ストレンジアルカディア  作者: 東夜 空
天を仰げ、地に伏せろ、汝らの屍を超えて我らは行かん
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森林エリア 序


 森林エリア……フィーエルのダンジョンの第二エリアである。第一エリアの花畑を抜けた先にあるのが、森林エリアだ。

 森林エリアの難易度は高くない。初心者から脱したプレイヤーであれば、苦戦こそすれ、負けることはないだろうと言われているレベルだ。

 しかし、このエリア。プレイヤーによっては、ひどく嫌われてる。

 理由は至極単純。生理的に無理だからである。

 

 昆虫。男児にとっては、好物かもしれない。しかし、大人や女性の大半は違う。少なくとも、平然であるという人は少ないだろう。

 カブトムシなどは大丈夫であっても、芋虫は無理というのも多い。


 まあ、なにかというと……


「子供くらいの毛虫はオカシイだろ……!?」

「うげぇ!?気持ち悪い!!!」

「おい!ソウタ……!!しっかり走れ……!!」


 ソウタがリタイアしかけている。

 ちくしょう、虫ムリなのかよ……お前っ。

 まあ、アレが気持ち悪いのは同感だ。せめて、ただの芋虫なら良かったんだが……毛虫はなぁ!?


 前後に伸縮を繰り返して進むのが、芋虫だ。その歩みは、牛歩の如く。しかし、子供くらいの大きさになるとそれなりの速さになるらしい。とはいえ、遅いことには変わりないが。

 見た目のキモさに目をつぶれば狩りやすいモンスターなんだろうなぁ。


「……!?なにやってるんだ?」


 レンが唐突に足を止めた。それに倣って俺も足を止める。

 後ろを見れば、毛虫たちが何やら身体を丸めていた。追いかけてくる様子はない。

 ……諦めたか?


 だが、その考えは過ちだったとすぐに気づくこととなる。


「性格終わってんだろ……!?」


 針が飛ばされる。おそらく、毒針だ。

 それが毛虫たちから四方八方に拡散する。


「ちょ!?」


 回避する間もなく、俺たちは毛虫の針を喰らう羽目になった。

 幸いにして、一撃一撃は弱いらしい。俺のステータスは兎も角、装備を抜くほどじゃないようだ。それでも三分の一ほど減っているHPが悲しい。

 なにやら、装備を脱いで喰らったら死ぬ自身があるのが悲しいところではあるが……それは後に考えよう。


「チ……毒か」


 予想はしていた。

 なにせ毛虫と言えば、毒針だろう。かぶれる、腫れる……色々あるが、毛虫は毒を持つものだろう。

 あらかじめ用意しておいた解毒薬とポーションを飲んでおく。


「……面倒だな」


 逃げるのは、悪手だったらしい。

 正直、俺とレンのステータスなら逃げきれる気がするが……ソウタが遅い。気が動転しているのもあるだろうが、ソウタだけ重装備だ。それにステータスの割り振りも違うだろう。まあ、逃げきれないってことはないだろうが、俺とレンには劣る。


――『纏雷』


 使う必要はないが、速さを重視すれば使わない理由はない。

 『縮地』で距離を詰め、一刀のもとに伏せる。想像通り柔らかい。これならば、あまり十秒もあれば足りる。

 事実、毛虫を殲滅するのは十秒ほどで終わった。


「ふぃ……ったく」


 雑魚じゃん。まだ、ゴブリンの方が面倒だったぞ。

 けどまぁ、見た目が最悪だ。虫嫌いなヤツは、発狂ものに違いない。

 現にソウタは発狂しているしな。


「おい、ソウタ。終わったぞ」


 かたくなに後ろを見ようとしないソウタに声を掛ける。

 肩に手を置くと、ソウタはビクリと身体をこわばらせた。


「ほ、本当か……?」

「本当だ。本当に倒した」


 畜生。何が悲しくて、男を慰めなきゃならん。

 というか、レンめ。俺に任せやがって……一人でドロップアイテム確認してんなよ。

 恨めしい思いでレンを見ると、レンはぐっと親指を立てて来た。


「アイツめ……」


 覚えてろよ。



・・・・・ソウタが落ち着いて(少し経って)



「……このエリアの主なモンスターは蟲だ」


 俺がソウタを落ち着かせていた間、レンはシーフらしく偵察をしてくれていた。

 まあ、偵察というよりも暇だから周りを見ていたような気もするが、そこは偵察としておこう。そっちの方が、耳障りがいいし、なによりそう思いたい。


「採れるアイテムは、植物や樹液、果実が主ってところ」

「ほぉん……それはそれは」


 なんやかんや、しっかりと調べてくれたらしい。

 植物アイテムなんかは、シンプルに嬉しい。薬草も嬉しいし、毒草であっても嬉しい。

 そういう訳で、俺にしてみればこのエリアは宝の山のようなものだ。


 それに俺は、蟲も苦手ではない。流石に人間サイズ、もしくは超える蟲に関しては嫌悪感を覚えるが、見れないレベルではない。全然、戦える。

 さっきの毛虫もそうだが、蟲には毒があるもの。それだけで価値があるが、毛虫だけが蟲じゃない。カブトムシやクワガタムシなどの昆虫からは、外骨格がある。あとは、カマキリなんかも蟲だな。カマキリは……鎌か?

 ま、まあとにかく、俺には森林エリアを探索しない理由はない。それは、俺の袖の中に居るヤツも同じらしい。袖の中で、嬉しそうにしてるのが伝わってくる。


 だが、俺は大丈夫でも、他の者がそうだとは限らない。

 俺がまだ見ぬアイテムたちに心躍らせている間、ソウタは顔を青くしていた。

 その様子をレンはやれやれと肩をすくめていた。

 

「はぁ……ソウタもこんな調子だし、先に進もう。念のために次のエリアへの道は調べてある」


 その提案に、俺もソウタも頷いた。

 このエリアで探索をしてみたいが、それは今じゃなくてもいい。

 今度、ゆっくりと調べてみればいい。

 いまはパーティーで遊んでいるんだ。楽しく遊べる方を選ぶべきだろう。


 それじゃあ、コッチな。とレンは歩き始めた。

 一体何を目印にしているのか、この樹海の中でレンの足は止まることない。その中で、レンは次のエリアの話をしてくれた。


「次のエリアは洞窟だ。洞窟だから、アイテムは鉱物系が多いらしい。モンスターは蝙蝠とか、土竜がいるんだと」


 簡潔に、要点だけを教えてくれたレン。

 なるほど、と頷きながらも、俺は気になったことを一つ。


「つーか、レン。お前、下調べしていたのかよ。だったら……」


 ソウタが役に立たない(こうなること)を知っていたんじゃにないか。

 ソウタを思って、その先を言わなかった。だが、少しだけソウタに視線を向けたお蔭で、レンは気が付いたらしい。


「……忘れてた」

「へ?」

「いや、だから忘れてたんだよ。男の好き嫌いなんて、わざわざ覚えておかないって」


 それに、と続ける。


「下調べはしてると思うだろ、ふつー。それに、ソウタとは近々森林エリアに進もうと話をしてたんだ。調べるだろ、簡単にでも」


 どうやら、俺にも耳が痛い話だった。

 下調べをしない俺からすれば、耳が痛いなんてものじゃない。基本的に、ネタバレは喰らいたくはないからな。こういうのは初見がいいんだ……

 とはいえ、ダンジョンはまた別の話だろう。採取できるアイテムはともかく、エンカウントするモンスターは調べておいて損はない。

 特にこうしてパーティーで遊ぶ場合、些細なことで軋轢を生みかねない。であれば、ベストを尽くすべきなのだろう。


 まったく、我が身を顧みなければならない言葉だった。


「ま、まあ……ソウタはネトゲに慣れていない訳だし、あまり責めてやるなよ。そういうセオリーを知らないのも仕方がないだろ」


 前にソウタが話してくれたのだが、ソウタはこの手のMMORPGは初めてらしい。ならば、知らなくも仕方ないだろう。

 そうなると、この手のゲームをやった経験があり、下調べをしていない俺は言い訳のしようがないアホということになる。


「……それもそうか」


 どうやら、納得してくれたようだった。

 しぶしぶというようにレンは頷いている。


「ま、虫嫌いはどうにかして欲しいけどな……」

「ア、アレは仕方ないだろ!!あ、あんな大きさの蟲は初めてだったんだからぁ!!」


 少し声が裏返りながら、ソウタが再起動した。


「安心してくれ。俺も初めてだ」


 俺もだ、と協調してくるレン。

 あの大きさの蟲は、まともな感性をしているなら寒気を感じるだろう。


「なら、慣れていこうな」


 おっと、レンが鬼畜なことを言い始めたぞ。


「む、無理だ!!アレは無理だ!!絶対に無理だ!!!」

「いやいや、千里の道も一歩というし……大事なのは、チャレンジすること。そうじゃないか?」

「い、いや、挑戦するのは大事だ。間違いない……で、でもだ!!無理なことはあるんだ!!」


 にやにやとレンが笑う。対する、ソウタは慌てふためいている。

 明らかにレンは、ソウタを弄って楽しんでいる。多分、いつものやり取りなんだろう。なんだかソウタも、それを理解している節がある。


 賑やかに、そして和やかな二人のやり取りを聞いていると唐突に、レンが話を終えた。


「あともう少しだ」


 もう少しなのか。

 ちらりと横のソウタを見ると、ソウタの顔が柔いでいた。さっきの茶番の最中であっても、ソウタは強張っていた。そうとう精神的にきていたようだったが、終わりが見えて緩んだのだろう。


 それにしても……そこそこの時間、歩いたがエンカウントなしとは。

 まあ、それも一重にレンのお蔭なのだろう。

 途中、何度かレンが見当違いの方向に歩いたことがあった。俺たちは、レンに従うほかなかったのだが、いま思えばアレはエンカウントを避けていたのかもしれない。


「どのくらいなんだ?」

「本当にすぐそこだぞ。ほら、そこに大木が――」


 その瞬間だった。


「うわああぁあぁぁああ!!!!」

「ど、どけ!!!」


 背後から怒号と悲鳴が聞こえてきたのは。


「な、なんだ!?」


 弾かれたように後方を確認する。

 一瞬で確認できた情報は、シーフと剣士ということだけ。特筆するような特徴はない。殺気立っている様子もない。

 おそらく、PKではない。それは、『壬生浪』で培った勘が告げている。


――なら、奇襲ではない。


 すなわち、彼らは逃げていることになる。

 彼らの焦燥と悲鳴からして妥当だろう。


「ってことは、だ」


 問題はナニから逃げているのか、だ。


 バキバキと木が倒れる音が遠雷のように聞こえてくる。

 それが近づいてくる。


 そして……ソレは現れた。


「ちっ……!?」


 土煙と轟音を伴って、それは姿を現した。

 硬質かつ巨大な体躯。全てを貫くような兜。


 傍にいたレンがその名を呟く。


「エリアボス……『兜王蟲(キングビートル)


 すなわち、巨大なカブトムシの名を。

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