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ストレンジアルカディア  作者: 東夜 空
天を仰げ、地に伏せろ、汝らの屍を超えて我らは行かん
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いつかの約束を


「お疲れ」

「うん」


 デュラハンを倒したソウハに、そう声をかけた。

 ソウハに疲労した様子はなく、消耗した様子もない。

 傍から見ていた俺としては、超常的な戦いなんだが……あの戦闘が普通なのか。いや、それはないと信じたい。あのデュラハンは、おそらくであるがユニークモンスターだろう。

 唯一個体との戦闘が普通であると?

 そんな訳がない。それにソウハとて、『刀姫』と名をつけられたプレイヤーだ。それもプレイヤーキラー(PK)として名を馳せたプレイヤー(ヤバい奴)である。そんなソウハとデュラハンの戦闘が普通であるものかよ。


「はあ……」


 先が長い話だ。いづれはあのレベルに辿り着きたいものだが……はてさて、俺があのレベルに到達するのは、どれだけ先になることやら。


 とりあえず、ハクロを回収しておこう。

 少し離れたところで、呪刀に呪詛を注ぎ込んでいたハクロを呼ぶ。

 首無し馬(デュラハン)との戦闘で一度中断していたが、首無し馬を倒したあと再び作業を続けていたのだ。


「…………」


 ハクロと呪刀を回収して、ソウハに話かけようとするが、なにやら考え込んでしまっている。こういうときは放っておくに限る。

 大方、デュラハンのドロップアイテムで悩んでいるのだろう。

 まあ、俺もドロップアイテムを確認しておくか。


――栄誉喪失の骸馬ロストグローリーデッドホースの精霊核

 呪詛により汚染された炎の精霊馬(エレメンタルホース)の精霊核。

 精霊の心臓であり、命の源である精霊核が重度に汚染されたもの。もとは綺麗な炎を放出する器官であったが、今は青い炎を放出する。

 気をつけろ。呪詛とは人の憎しみ、怨念。それに汚染された炎が人に善いモノであるはずがないのだから。


「うっげ……」


 また厄介そうな。

 どうして厄災になりそうなモノしかないんだ。まあ、何かに使えるだろ。

 とりあえず、しまっておいて……

 アイテムボックスに栄誉喪失の骸馬の精霊核をしまい込んだところで、ソウハから声を掛けられた。


「ねえ」

「うん?」

「カガチってさ……貴族に伝手ある?」


 貴族ねぇ……そこらへんの伝手はないような……

 いるにはいるが……姫様だしな。役に立てそうにないか?


「姫様なら……あ、いやあるわ」

「ほんと?」

「それもとっびきりの人とな」

 

 ふふ、驚くがいいさ。

 まあ、この瞬間まで忘れてたけどな!





「帰れ」


 目の前で、商人らしき男が門番に冷たく告げられていた。

 ここは王都ローレル。その中心にある王城へと続く門だ。門には、王城に用があるだろう人達が列をなしていた。

 だが、登城の許可が簡単に下りるはずがない。多くは来た道を戻っていく。

 いまは商人らしい男が門番を説得している最中である。


「そんな!そこをどうにかしてくれませんか!陛下のために遠路はるばる来たというのに……!!」


 唾を飛ばしかねない勢いで、商人は捲し立てている。

 商人の表情は必至そのものだ。商品を売るためだろうか。だが、商人の口ぶりはそれだけじゃないように思える。


「国王って、なんかあったのか?」

「知らないの……国王は先の戦争のあとから床に伏しているって話」

「へぇー」


 そうだったんだ。

 あー、そういえば王子様も忙しくしてたな。国王が伏せっているっていうなら、納得だ。そりゃあ、忙しくもなるだろう。


「次」


 ソウハから王国の内情を聞いていたところ、俺たちの番が回ってきた。

 商人の人は粘ったようだが、許可は下りなかったようでスゴスゴと帰っていった。


「要件は?」

「王子様に用があってね」

「……殿下に?」


 王子様という言葉に門番の顔が険しくなる。


「名前を聞いても?」

「ソウハとカガチだ」

「……そんな来訪者は知らされてない」

「そりゃあアポなしで来たからな」


 ますます門番の表情が険しくなる。

 腰に佩いた剣に、静かに手が掛けられる。

 物騒なことになる前に、さっさとコレを提示しよう。

 懐からアクセサリーを出して、門番に見せた。


「そ、それは……」


 門番の表情が目に見えて変わる。

 ドヤ顔で出した手前、門番に知らぬと突き返されてしまえば恥でしかなかったのだが……本当に良かった。

 このアクセサリーは、ウィルス伯爵誘拐のおり王子様から直々にもらったもの。一度も使わないゴミだと思っていたが……まさか使う機会が来るとは。

 王子様曰く、売ることも捨てることも出来ないという代物であったが……ゴミと断ずるのは早かったらしい。


「失礼しました。お入りください」


 門番が流麗に頭を下げ、道を譲ってくれる。

 その門番の行為に、後ろから羨望と疑いの視線が向けられる。

 悪いな。


「本当に入れた……」

「ウソは言わねぇよ」

「…………本当にカガチは何をやったの?」


 剣帝を倒したり、帝国のプレイヤーと戦ったりかな。






「久しいな。先日はマリーが世話になった」


 王子様――ノーザ・ I・レイクは前回と変わらず、自身の執務室で俺たちを迎えた。


「それで?要件は。やっと仕事を手伝う気になったか」

「生憎と忙しんでね……それは遠慮させてもらうよ」


 そうか、と王子様は淡泊に答えた。

 どうやら王子様にとって、俺の答えは予想の範疇であったらしい。

 手元の書類から視線を外し、笑みを消して真面目な表情で王子様は言う。


「では、蛇国(じゃこく)の女帝の言葉でも届けに来たのか?」

「あ……?」


 蛇国の女帝……?

 その言葉に反応するように袖の中でハクロが震えた。その感じからして、どうにも姐さん――ヤトのことを言っているのだろう。だが……どうして王子様が知っている?

 ……考えようにも情報が足りない。クソッ、一方的に見透かされているのは気持ちが悪いな。


「……いや、姐さんは関係ないさ。今日はコイツ……ソウハが用があるようでね」


 名前を呼ばれて、ソウハが軽く下げた。


「ああ、『刀姫』か。噂はかねがね……次の大会には出るのか?」

「そのつもりはない……どうせ面白い相手がいないから」

「まあ、そうだな。有名な異邦人たちは大会には参加しないだろうからな。では、カガチ。お前はどうだ?」


 大会……?


「なんだ、知らんのか。大会とはな、来月にドライドで行われる闘技大会のことだ。毎月行われているんだが、来月の闘技大会は特別でな。三か国合同で行われる大規模なものとなる。お前も、暇ならば参加してみるといい」

「そう。『剣聖』のジョブに手っ取り早く就く方法だから、参加者も多い。まあ、面白半分に参加する人もいるけどね」

「へー」


 出なくてもいいかな。

 どうせ、上級職に就くにはまだ経験値が足りないし……戦士で遊びすぎたんだよなぁ。


「それで?」


 王子様の言葉に、ソウハはアイテムボックスから大剣を取り出す。

 見覚えがある。アレはデュラハンが振るっていた大剣だ。


「これを返しに来た」


 大剣を受け取った王子様の眉が跳ね上がった。


「これは……どこで?」


 刹那、部屋に満ちる緊張感。

 返答の如何によっては、首が文字通り跳びかねない。そんな殺気だ。


「屍谷のデュラハンが持ってた」

「…………」


 ソウハから大剣を受け取って、王子様は大剣を眺める。

 その手はわずかに震えていた。怒っているのか、それとも悲しんでいるのか。俺には推し量れない。まずあの大剣がなんなのかも、デュラハンが何者だったのかも知らないのだ。


「そうか……感謝する」


 大剣に向けられていた視線が、ゆっくりとあげられる。

 そして、王子様は語り始めた。


「……よく聞かされたよ。不世出の英雄。彼の才能を妬んだ貴族によって亡き者にされてしまった悲劇の人。父が好きだったからな。よく寝物語に聞かされた」


 それは英雄譚。歴史に刻まれることもなく、ただ口伝だけで伝わった悲しき英雄の話だった。

 長く続く王国の歴史の中で、間違いなく名を刻むはずだったあのデュラハン。その活躍はまさに一騎当千、万夫不当。かの英雄が出陣した戦は全戦全勝。遠くないうちに、騎士団長として王国の軍を率いるだろうと誰もが噂し、かの英雄の活躍に耳を傾けていたときに、突然英雄が叛旗を翻したという情報が駆け巡った。無論、無実無根のデマであった。

 英雄からすれば凱旋も、謀反を信じた国からは攻めてくるように思える。英雄は直ちに捕らえられ、民衆の前で首を刎ねられた。

 悲しいのは、下手人が英雄の友人だったこと。かの英雄は、下手人に最後まで信じてくれと訴えていたことだろう。


 友人の家は、公爵家であった。その権力は王をして無視できるものではなく、今まで口伝としてのみ伝わって来た、と王子様は物語を終えた。

 よくある歴史の一幕。ただ、それを知ってしまえば……やはり無念を果たしたくなるのが人間というものだろう。


「その大剣は、王家が下賜したものでしょ?」

「そうだ。とはいえ、百年以上昔の話だ。気にしなくていい」

「私が気にする。その大剣を返すことは、約束だから」


 一瞬だけ、驚いたように王子様の眉が跳ねた。


「そうか……ならば、受け取ろう」


 大剣から光が発せられる。暖かな光だ。まるで大剣が喜ぶような、そんな光。

 時を超えて、かつての約束が、契約がここに順守されたのだ。もはや果たされぬと思われていた契約が。

 ああ……あのデュラハンは律儀な男だ。まったく、約束を果たせなかった無念で死後も動き続けるなど。普通は裏切られた憎悪を抱くだろうに。


 暖かな光が収まってから、王子様は笑みを浮かべて口を開いた。


「とはいえ、ただという訳にはいかないな。多少金を出そう」


 王子様が右手をあげると、見覚えのある婆さんが部屋の奥から現れた。


「相変わらず、元気すぎるようで何よりですよ。カガチ様」

「ん、俺?」

「ええ、ええ。先のウィルス伯爵の件、哀れなる呪いの落とし子――そして、ライガの後継」


 最後の言葉は、あまりにも衝撃的だった。ライガのことはグラーフと姐さん、ハクロくらいしか知らない。

 いや、NPCのことだ。誰が知っているのかなど、大して問題ではないのかも知れない。

 だが、一つだけ謎が解けた。グラーフの奴がどこからライガの情報を得たかが不思議だったのだったが……そうか。王子様達からか。


 俺と婆さんの間に緊張が走る。理解できていないのは、ソウハのみ。


「揶揄うのは、そこまでにしておけ。婆や」

「すみませんの。若者を揶揄うのは、いつになっても止められないもので」

「はあ……それで」


 持ってきましたよ、と婆さんは布袋を二つ取り出した。

 片方をソウハに、もう片方を俺に。


「いいのか?俺まで」


 もらっておけば、とソウハが隣で囁く。ソウハは貰えるものは、貰っておけというスタンスらしい。


「いいさ」


 爽やかな笑顔を浮かべて、王子様は答える。

 その笑顔が黒く感じたのは、おそらく勘違いだろう。勘違いだと思いたい。


「それじゃ、帰ろ」

「うん」


 すでにソウハは、部屋を出ようとしていた。

 俺もそれに倣って部屋を出ようとすると……王子様から声が掛けられた。


「カガチ、お前は残ってくれ」

「…………」


 なんだよ。帰してくれないのか。

 文句を言いたかったが、さっき受け取ってしまった金を考えると口出すことはできない。

 畜生め。やっぱり、腹黒じゃねえか。


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