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ストレンジアルカディア  作者: 東夜 空
天を仰げ、地に伏せろ、汝らの屍を超えて我らは行かん
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ああ、我が主に栄光を……


 デュラハンが首無し馬に手をかざした。労わるようなその動きからは、首無し馬とデュラハンの絆の深さがうかがい知れる。

 もしかしなくても、生前からの付き合いなのだろうか。

 かざした手がぼうっと光る。その光は首無し馬を包み込むと……


「回復魔法……!」


 腹、脚の切り傷がどんどん塞がっていく。

 クソ、まじかよ。アンデッドでも、回復魔法を使えるのか!

 ああ、それはどうでもいい。そんなことは、あとから考えればいいことだ。今重要なのは、首無し馬のダメージがチャラになったこと。状況が振り出しに……いや、首無し馬が怒っている分、悪化したと言える。


「こりゃ、近づけるのは無しだな。出来るだけ離さないと……!」


 厄介な。その一言に尽きる。


「来いよ」


 首無し馬の前脚が、地面を軽く蹴る。それは突進の前準備だ。

 身体の黒い炎が、勢いを増す。それはエンジンを吹かすように。

 そして――首無し馬は地面を強く蹴って、突撃を開始した。ヤツの軌跡に黒い炎が地面を焼く。


 首無し馬が迫る。デュラハン(荷物)から解放された首無し馬の突進は先ほどよりも速い。

 だが、強化された俺の身体はそれに喰らいつける。


「見えてるんだよ!」


 馬鹿真っ直ぐに突っ込んでくるだけならば、対処は楽だ。

 首無し馬の突進を回避し、ヤツがすぐ傍を通りすぎる瞬間に刀を振るった。刀は首無し馬の横腹を裂く。

 生物ならば、疑う余地もない大ダメージ。しかし、アンデッドたる首無し馬に変わった様子はない。


「不死者ってのは……想像以上に厄介だな!」


 しかも首がない。それに身体は死んでいる。つまり、急所がない。

 さて……どうすれば殺せるのか。

 浄化?ノー、浄化できるような魔法は覚えておらず、アイテムも持ってない。


 アイツを殺すための策を練らなければならない。さもないと、死ぬのは俺のほうだ。


「…………!!」


 首無し馬が再び地面を蹴る。それは先ほどと変わらない仕草。

 だが、首無し馬は突進をしなかった。前脚を上げて、地面を強く叩く。その衝撃は地面を揺らし、()()()()()()()()


「なッ!?」


 地面に揺れる黒炎が、突如として牙を剥く。

 消えかけとは思えない黒炎が燃え盛る。メラメラと火山の噴火のように燃え盛る黒炎。


「クソが……お前も厄介じゃねえの」


 止められない突進に、その跡の黒炎。それが意味するのは……首無し馬が動けば動くほど俺の逃げ場が無くなるということだ。

 地面に残る軌跡(黒炎)が一回限りのモノならよかった。だが一度燃え盛った黒炎の軌跡は、変わらず地面に揺れている。

 再び首無し馬の命令があれば、燃え盛ると考えるべきだ。どんなときも最悪は考えておかねばならない。そう言っていたのは兄さんだったか、ジジイだったか……


「突進は防げない。防ぐには、ステータスが足らない。それじゃあ……自由にさせないのが一番か?」


 首無し馬が蹄で地面を掻く。

 再び突進してくるつもりなのだろう。

 デュラハンは……ソウハに釘付けになっている。位置的には……十分離れているな。


 突進を防ぐ方法は簡単だ。

 突進の強みはそのスピードである。首無し馬の突進を迂闊に迎え撃てないのが、ヤツのスピードによるところが大きい。

 しかし、だ。突進にはある程度の距離が必要である。自動車であっても、飛行機であっても、最高速度で走りだすことは出来ない。スピードに乗るためには距離が必要であり……それは首無し馬であっても例外ではない。

 ならば、首無し馬の突進を防ぐのは単純。間合いを詰めればいい。


「この距離なら……すぐに詰めれる」


 首無し馬はトップスピードまで、恐ろしい速さで加速することが出来る。だが、最初からトップスピードではない。

 ヤツが突進を始める直前に、『縮地』で近づいた。


「!?」


 俺を見失って、突進をやめた首無し馬に斬撃を放つ。

 アーツでもない攻撃は、しかし首無し馬に確かなダメージを与える。

 そのダメージで俺を捉えた首無し馬は、前脚で俺を踏み潰そうと脚を振り上げる。


「そんなの喰らうかよ!!」


 ステップで回避して、後ろ脚を斬りつける。

 一撃、二撃……だが、首無し馬は斬撃を無視して前脚を振り下ろした。

 ズンッ!と地面が砕けた。


「危ね……ッ!?」


 安全地帯だと思っていた場所が、一瞬にして黒炎に包まれる。

 黒炎の出所は地面に燃える軌跡……ではない。さっきの振り下ろし攻撃によって生じた地面の亀裂。

 いや、もっと言うならば地面に沈んだ首無し馬の脚からだ。


 クソッ、そりゃそうか!

 地面に燃えている黒炎で出来ることが、身体に燃えている黒炎で出来ないはずがない。


 首無し馬の身体で、炎が燃えているのは……両脚首、首、鬣、尻尾。

 そこには気を付けないといけない。


「……本当に厄介だよ」

「…………」


 首無し馬の首から洩れる炎が、ヤツの心境を表すように乱暴に荒れる。

 距離は、目と鼻の先。


「火炎放射かよッ!」


 ヤツの首に揺れる黒炎が吹き出した。

 彼我の距離を一瞬にして、燃やし尽くして俺に迫る。それを何とか躱して、懐に入る……その瞬間。


「ぐっ!?」


 どこからともなく炎が爆発した。

 なんだ!?何が起こった!

 分からん。なんの予兆もなく、突然黒炎が爆ぜた。

 首無し馬に何かした様子はなかった。ならば……その前の攻撃。あの火炎放射に種があると見るべきだ。


「…………!!!!」

「チぃ!」

 

 いきなりの爆発によろめいた俺を、首無し馬が放っておくはずがない。

 首無し馬の側面にいる俺に、ヤツは尻を向けた。

 ……誰でも知っている話だ。馬の後ろには立ってはならない、と。


 首無し馬の後ろ蹴りが、俺を襲う。


「こんの……!!」


 上体を逸らして、後方に回避した。

 ヤツの後ろ蹴りが鼻先を掠める。だが、回避した。避けてやったぞ!!


 そのまま距離をとって、ポーションを飲み干した。

 赤く点滅していたHPバーが回復していく。


「……かなり危なかった」


 後ろ蹴りを躱せなかったら、ポーションを飲むのが遅かったら……死んでいた。

 落ち着きたいが……それをコイツが許してくれるはずがない。

 再び黒炎が猛る。今度は火炎放射ではない。首無し馬を黒炎が覆い、球を描く。首無し馬の姿が黒炎に完全に包まれると、その炎球は転がり始めた。

 炎球は黒炎を撒き散らして迫り、あっという間に辺りは地獄と化す。


「下手に攻撃出来ねぇじゃねえか」


 畜生め。アレで見えてんのか、と言いたいが見えているんだろう。

 それはいい。攻撃できないなら、それはそれで丁度いい。回避に専念すれば、考察に頭を回せる。


 さっきは何をされた?やはり、心当たりは火炎放射だ。

 仕込みは恐らくそこにある。だが、何をされたかは予想がつかない。


 そのとき、地面で燻っていた黒炎が爆ぜた。


「遅延攻撃かよ……」


 撒き散らされた黒炎が、連鎖的に爆発していく。一見すると不規則に爆発しているようだが、よく見ると首無し馬の周りの黒炎は爆ぜていない。だが、じきにその黒炎も爆ぜるだろう。予測が正しければ、撒き散らされて時間が経った黒炎が爆ぜているのだから。

 果たして、黒炎は爆ぜた。

 近くにいた首無し馬を巻き込んで爆発した。

 とはいえ、アイツが怪我を負うことはないだろう。その証拠に煙が晴れると、何も変わらない様子で現れた。


「そうか、さっきの攻撃の正体は」


 目の前で、こんなに分かりやすくネタ晴らしされれば気づける。

 さっきの攻撃の正体も黒炎だったのだろう。今のように、その黒炎が爆ぜた。

 やはり仕込みは火炎放射。おそらくだが、俺はそれを避け損ねた。身体にはあたってないから、服のどこかを掠めたのだろう。間抜けにも俺はそれに気づかず……あの瞬間に爆ぜた。


「確実に躱さないといけないってことか」


 『纏雷』によるスリップダメージに加え、俺の紙装甲じゃあ、まともに喰らった瞬間にアウトだ。

 気を引き締めなければ。


「さて、どうする?」


 距離は少し離れているとはいえ、首無し馬がモーションを瞬間に攻撃に移れる位置だ。


「…………」


 首無し馬の選択は待つことだった。

 じっと俺を見つめて動かない。


「そうかい……!」


 リキャストの終わった『縮地』で一気に距離を詰める。

 正面には立たない方がいい。とはいえ、後ろからもダメだ。やはりここは、攻撃されにくい側面だ。まあ、黒炎があるから、そこまで変わらないのが面倒なんだが……


「ほら、よッ!!」


 今度は速く対応してきた。

 火球が発射された。空に向かって撃つとは……エイムが終わってんな、と終わればよかった。アレは次の攻撃の準備にすぎない。火山弾の如く、空から降ってくるだろう。

 言うなれば回避不能の全方位攻撃。逃れるためには、攻撃範囲から出るしかない。


「それは悪手だぜ……!!」


 判断は正しい。火炎放射であっても、地面から噴出する黒炎であっても捉えきれないのなら、逃げ場を塞いでしまえばいい。

 だが、しかし。それは他の攻撃よりも時間が掛かる。


 跳躍。


「ハクロ!!寄越せ!!」


 少し遠くの黒い渦の中から、刀が飛んでくる。

 呪刀『無銘』が、俺の手に収った。


「ナイス!!」


 抜刀。


 コイツの使い方は考えてあるが……まだ思索の域を出ない。ぶっつけ本番という博打は打つべきじゃない。特に、少しあとには火球が降ってくるような状況じゃあな。


「コイツは効くだろ」


 呪術使いの上位ジョブは、呪術師だけではない。ネクロマンサーも、呪術使いから派生するジョブだ。

 ネクロマンサーとは何か。屍使い、アンデッドの使役者。ストレンジ・アルカディアにおけるネクロマンサーとは、野生のネクロマンサーを使役する存在。もしくはアンデッドを作り出す者である。

 ならば、アンデッドを動かしている動力は何か。

 決まっている。

 呪詛だ。

 この屍谷という立地、呪術使いから派生することを考えれば、その推察は外れていないはずだ。


 呪詛。つまり――この呪刀はアンデッドに対して、特攻武器になる。


「…………!!!!!」


 呪刀が首無し馬を裂く。

 その斬撃は今までの斬撃と変わり映えはない。だが、首無し馬は痛みに悶えるように反応した。


「じゃあ、終いだ」


 一撃、二撃……『纏雷』を最大にして、斬撃を叩き込んだ。


「…………!?」


 後先を考えない攻撃。


「これで倒れてくれなきゃ……死ぬんだが」


 『纏雷』によるスリップダメージのせいで、カスダメでも死ねる。加えて、その『纏雷』も解いた。生きていたとして、次の攻撃は避けられない。

 果たして……


「…………」


 ぐらりと首無し馬の身体が倒れて……光となって消えた。

 よかったと一息つきたいところだが……そうは問屋が卸さない。

 あとに残ったのは――射出された火球。


「こりゃあ、死んだか」


 ポーションを飲む暇は残されてない。かといって、普通に逃げても安全圏には間に合わない。

 『纏雷』を起動したら、スリップダメージで死ぬし、『縮地』のリキャストは終わってない。

 ほかに移動系のスキルはないし……こりゃあ詰んだな。


 それが降り注ぐ瞬間。


「おわッ!?」


 一際鋭い風が吹いて、火球は一掃された。


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