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ストレンジアルカディア  作者: 東夜 空
天を仰げ、地に伏せろ、汝らの屍を超えて我らは行かん
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幸運の女神は邪神の類


 悪夢でも見ているかのようだ。

 信じがたいほどの力、技、経験の隔絶。枯れ木のような細腕、吹けば飛んでしまいそうな身体。間違いなく全盛期ではない身体のどこにこんな力があるのか。


「まだ無駄があるのぅ。こんな爺も倒せずにおる」


 うるさい、この化け物め。

 うちの爺ちゃんも相当だったが、この爺さんもヤバい。最初にこの御堂の家で稽古をつけてもらった時から、この爺さんは勘を取り戻すように剣が鋭くなっていやがる。

 そろそろ身体も厳しいだろうに、それを露ほども感じさせない。


「ああッ!!」

「若い」


 竹刀が肩を打った。鋭い痛みが身体に走る。

 それが終わりの合図だった。疲れ切った身体、酸素にあえぐ口を何とか動かして、「ありがとうございました」と礼をした。


「いやー、案外わしも動けるもんじゃの」

「もうおじいちゃん、やりすぎですよ。修斗くん大丈夫?」

「はーはー、大、丈夫です……」


 あー、ヤバい死にそう。身体も疲れてるが、精神の疲労も半端ない。

 倒せる気がしない、という感覚は精神的ショックが大きいのだ。なんというか暗闇でもがくような苦しさに似ていると個人的には思う。


「修斗くん、夕飯はうちで食べていきなさい」

「え、いや……」

「遠慮しなくていいから。食卓は賑やかな方が楽しいもの」

「それじゃあ、お言葉に甘えて……」





「ごちそうさまでした。おいしかったです」

「ありがとう。そう言ってもらえると、嬉しいわ」


 一週間に一度、御堂の家で稽古をつけてもらい、夕飯をもらうのが日課となってしまった。申し訳ないと思いつつも、春香さんのご飯は美味しく、できれば毎日食べたいほどだ。

 御堂の爺さん――蒼蓮さんは、夕飯どきはテレビを眺めている。変わり映えのしないバラエティー番組か、格闘技だったり時代劇を動画サイトで見ている。

 春香さんはゆっくりとお茶を飲んだり、携帯端末を眺めたりして過ごしている。

 残る一人、秋穂ちゃんは携帯端末でゲームなりなんなりをしているが、今日は珍しく動画を見ていた。しかもイヤホンを自室に忘れたようで音がよく聞こえる。

 何かゲーム実況のようだった。内容を聞く限り、ストアカのようだ。流行っているゲームだし、彼女がプレイしていてもおかしくないだろう。


「秋穂ちゃんもストアカやってるの?」

「え?」


 一瞬、呆けた顔をしたが、すぐに彼女は頷く。


「俺もやってるんだ。まあ、まだ初心者なんだけどね」


 初心者、うん初心者みたいなもんだろ。

 まだ一か月も経ってないし。


「じゃあ、力になれるかも。私、それなりにやり込んでるから」

「すごいね。俺も結構頑張ってるんだけど、最近やられかけてね。レベリングしようかと思ってたんだ」

「なににやられたの?」

「PK。昔やってたゲームの知人でね。アイツというか、アイツらというか。厄介な知り合いしかいないんだけどね」


 グラーフといい、ウォルターといい、ソウハといい……厄介なヤツラしかいないんだよなぁ。


「……PKは苦手?」

「全然、そういう遊び方もあるし。まあ、俺はPKというか……対人戦は少しお腹いっぱいなんだよね。前やってたゲームがそういう関係のゲームだったからさ。けど……対人戦自体は好きだから、よくやるし」

「そう……じゃあ、明日一緒にやろうよ。初心者なら、アインセン?ツヴァイド?」

「アインセン。いま、ギルド登録が終わったところ」

「あ、アインセンなら、私もいるや。ギルド前なら、分かるよね?」


 ギルド前なら、大丈夫かな。

 なんていう感じにとんとん拍子で話は進み、最近の近況報告へ。


「いやー、知り合いのヤツに爆撃されかけたりね……」


 グラーフという悪友がどれほど性格が悪いかを語り、


「あのプレイヤーは強かったね。スキルを上手く使ってきて……」

「そんなスキルが……」


 貴重なプレイヤー情報を聞き、


「まさか『壬生浪』もやってたなんてなぁ……」

「うん。おじいちゃんが時代劇が好きで、『壬生浪』のソロプレイのストーリーは史実に沿ってて、面白いって聞いたから」

「……うん。ソロプレイは、ね。マルチプレイは酷いけど……」


 『壬生浪』の話を語り合った。

 その日は、熱も冷めやらぬうちに解散することになった。




 翌日。

 俺の姿は変わらずアインセンにあった。


「で?君は、その知り合いと待ち合わせすることになった、と」

「そういうこと」


 アインセンの大通りを歩く。この通りを少し歩けば、ギルドに着くはずである。


「また、騒がしいねぇ」

「お、ハクロも分かるようになったか」


 ハクロの言う通り、今日も今日とて道行く人々の様子は忙しない。まるで昨日のようだ。


「昨日の人が、同じことをしているんじゃないの?」

「あー、どうだろ」


 多分、違うよなぁ……。

 ギルドに近づくほど、人が増していく。まるで、今日はギルドで待ち構えている、と言わんばかりに。 

 はてさて……


「うわ、なんでギルド前にいるのさ。これじゃあ、待ち合わせ場所変えた方がいいじゃん」

「いや、多分変えたとしても同じ結果になるんだよなぁ」

「え?」


 人混みを縫って、ギルド前に顔を出した。

 ギルドという人の出入りが多い場所のため、群衆は完全に囲うことはしていない。ただ、不機嫌そうに待つ女性――ソウハを遠巻きに見るだけだ。

 そのため、ギルドに入ろうとする人は数多の視線に晒されるという可哀そうなことになっている。

 けれど、まあソウハに罪はあるまい。罪があるというならば、それを囲う群衆だろう。


「……めんどくさ」


 あの群衆に晒されなきゃならんの?


「というか、早く逃げようよ。昨日はたまたま上手くいっただけで……ちょ!?」

「ええい、躊躇するならいってしまえ!」


 こんなものガチャと一緒だ。

 引くか、引かないかで悩むなら、引いてしまえばいい。どうせ目当てのモノを引けるかどうかは、幸運の女神が握ってるんだ……そう考えると、幸運の女神は邪神の類だろ。


「ソウハ……お前の祖父は?」

「……アンタの祖父と同じ化物」


 意を決して、昨日決めておいた合言葉を言う。この合言葉を決めたとき、蒼蓮さんがコッチを向いた気がしたが……気のせいだと思いたい。

 果たして、符合となる言葉が返ってきた。ということは、やはりソウハが秋穂らしい。ちなみに、昨日のうちに呼び捨てでいいと言われた。


「やっぱりか……『壬生浪』の話といい、PKの話といい、うすうすお前じゃないかって思ってたんだよ」

「私も。でも、あの場で名乗る勇気はなかったから……」

「俺もそんな感じ」


 袖の中で、ハクロが尻尾で腕を叩いてきていて鬱陶しい。

 わーった、わーった。あとから説明してやるから。やめろって、微妙にくすぐったいんだよ。


「とりあえず……さ」

「うん……」

「「場所変えよ?」」






「さて、と」

「うん」


 場所を変えて、街の外。

 ちょうどツヴァイドに続く道である。

 ここに来るまで情報交換をしていたが、おそらく互いに重要な情報を漏らしていない。俺の知らない話は多分にあったが、どれもネットで検索、もしくは掲示板を覗けば得られる情報だ。

 それにしても……『村』か。近いうちに喧嘩を売りにいきたいものだ。

 いい感じに街から離れたことだし……ここなら、周りを巻き込まないだろう。


「そろそろと出て来いよ」


 アインセンからついてきていたヤツラが、ぞろぞろと姿を現す。俺たちを尾行してきていた連中は、大方、初心者装備と明らかに上位装備と二分できた。初心者装備の連中はただの賑やかし、上位装備の連中はソウハに恨みを持つヤツラだろう。

 俺に恨みはないだろ。なんたって、恨みを持たれるまえに人と関わってない。関わったのはウォルターとグラーフ、そしてソウタとレンくらいだろう。

 ウォルターとグラーフは場合によっては即、敵になるが、ソウタとレンはそうじゃないだろう。

 うん。やっぱり、ソウハのお礼参りだろう。


「カガチ、だったか?お前が手を出さないなら、俺らも手をだせねぇ。だが!お前が手を――ぐべッ!?」

「うるさいよ。お前」


 全く……敵を前に長々と無防備に口上を述べてんじゃないよ。せめて、いきなり斬り掛かられるくらい警戒してろ。

 さて『縮地』を使い、距離を詰めたはいいが、敵の目前。しかも敵は多数。まあ、いつものことだ。

 一人持って行けたのは大きい。


「掛かってきな。全員のしてやるよ」



 



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