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ストレンジアルカディア  作者: 東夜 空
Born out of blood
78/104

血より産まれしモノ 12

『ヤツ』=『統率者』です。


 適度にHPを回復しつつ、攻撃に転ずる。

 呪刀を振るって、『ヤツ』の腕を、腹を、首を、頭を殴打する。いくつか骨を折った感触があったが、それもすぐに再生されてしまう。

 骨を削ったような大剣が周りのゴブリンを巻き込んで、俺に迫る。

 それを呪刀で逸らして、距離をつめる。もう一方の武器。俺の『雷光』が、袈裟斬りの軌道で迫ってくる。あの刀の切れ味は、所有者である俺が身に染みて知っている。

 酷使されすぎて、そろそろ壊れそう。グラーフの爆撃にさらされ、馬鹿力で扱われ……畜生!刀は壊れやすいんだよ!

 『雷光』を作るために、どれほど奔走したと思ってんだ……。


「ああ、くそッ!!」


 絶対に取り返してやる!

 手元にある武器は『纏雷』、『呪印』、呪刀『無銘』、その他のアイテム。前に使ったスクロールの類は、グラーフに返してしまった。

 まだ初心者である俺に、必殺技と呼べるものはない。ライガだったり、姐さんだったりと、関わってる面子は濃いが、こんなものは運にすぎない。『カガチ』というキャラを育てるためには、時間が足りてないのだ。

 強い魔法だったり、派手な武技。それは一日程度で得られるものではない。強くなるためには、時間をかけなければならない。それがMMORPGというジャンルだ。

 前に見た兄さんの技が、脳裏に蘇る。

 全てを焼き尽くすような熱の奔流。アレがあれば、『ヤツ』を倒すことなど簡単だろう。


「……どうするかね」


 一撃必殺は無理だ。かなり追い込んだはずだが、俺の主武器である斬撃は通らない。というか、首を落としても死なないんじゃあどうしようもない。

 だが、それも勝利条件はある。

 俺の場合であるが、呪刀『無銘』でヤツの再生能力を支えている呪詛を吸いつくしてしまえばいい。おそらくであるが、それで『ヤツ』の不死性はなくなるはずだ。

 だが、どうやって?呪詛を根こそぎ吸い取るためには、呪刀を刺しこむ必要がある。しかし、生憎と『ヤツ』は大剣と刀を両手に担いだ状態だ。


「下手に飛び込むと、なます斬りにされるな……」


 どちらか一本は奪っておきたい。個人的には『雷光』の方を奪いたい。……もともと俺のもんだし。


「うしッ」


 まずは、武器からだ――そのときだった。

 ヤツの咆哮を皮切りにして、ゴブリンどもが同士討ちを始めたのは。


「は?」





 そのゴブリンは追い込まれていた。そのゴブリンは王の資格を持っていた。ゴブリンという種族をまとめる力を持っていた。

 しかし――足りない。力が足りない。

 ゴブリンをまとめたところで限界がある。人間どもの街に侵攻したところで、より強い敵が出てくるだけだ。

――自分では敵わない。

 ならば――もっと、強い王を。強い種族を。

 そのために敵である人間の呪術に身を染めた。ゴブリンという種族はより強くなった。あとは……『王』だけだ。

 だというのに――タイミング悪く、この人間が来た。いや、異邦人という輩か。

 強い呪を身に刻んだ男。紫電をまとう奇妙な男は、異邦人らしく一騎当千の力を見せた。

――だが、好都合でもある。

 あの男の呪いがあれば、『王』は誕生する。これまでのどの『王』よりも強い王が。

 『王』の降臨。

――そのためであれば、あらゆる手を使おう。




 ゴブリンたちが、互いを食い始めた。手に持つ武器で互いを攻撃し、命を奪いあう。

 突如として、始まった同士討ちにカガチは呆然とその光景を眺める。


「は?」


 何が起こったのか、まるで分らない。

 共食いはあった。だが、それは回復のためだ。しかし、この同士討ちは意味がわからない。

 ここにハクロが居たのなら、何が起こっているのかを理解できたのだろう。この同士討ちが何を意味するのか、何の目的で行われたのか――一体、何の儀式なのかを理解できただろう。


「おい……」


 同士討ちは激しさを増していく。ゴブリンの数が少なくなるにつれて、彼らはより強く武器を振るい、残虐に命を奪う。

 一匹のゴブリンが、熱狂したままカガチを襲う。


「ギャギャギャ!!」

「……うるさい」


 錆びた剣を呪刀で受け止め、弾く。そのまま、カガチはがら空きとなった胴体を呪刀で薙いだ。

 呪刀では胴体を斬り裂けず、横に吹き飛んでいく。


「……何が起こってるんだ」


 カガチが呆然と呟く。

 ――蟲毒。

 それが、この儀式の名前だ。

 蟲毒とは古代中国の呪術である。壺に毒虫を入れて、互いを食い争わせる。残った一匹に強力な毒が宿るというものだ。

 今回の儀式において、毒虫とは呪を宿すモノ。それはカガチも例外ではない。仮に、この儀式を生き残れば、彼の呪印は大きく成長することだろう。


「―――!!」

「―――!!」

「!?」


 数を減らしていくゴブリンたち。

 命を諦めるような輩はおらず、誰も彼もが生き残ろうと必死に足掻く。たとえ相手が統率者であろうとも、武器を構えて襲い掛かる。無論、敵うことはない。刀の一振りで、大剣の一振りで血肉となっていく。

 それを見て、『統率者』は笑みを浮かべるのだ。

 蟲毒の儀に、手心はいらない。他人を蹴落とし、自らだけが助かろうとする純粋な生存本能。それが呪いを生む。敗者の『呪』は、敗者の感情により増幅され、勝者に還元される。

 敗者は勝者の力となり、勝者は新たな勝者に跪く。

 そしてたった一人の勝者が決まったとき、『王』は生まれ落ちる。

 それを『統率者』は疑わない。そして――勝者が自分であることも。

 手に持った刀と大剣を振るって、仲間であり、いとし子であり、臣民であり、敵を殺す。

 身体に『呪』がみなぎるのを感じて、『統率者』は声をあげた。それは悲嘆の声かもしれない。それは歓喜の声かもしれない。それは憤怒の声かもしれない。それは怨嗟の声かもしれない。

 自分がどんな感情なのか、『統率者』自身も分かってはいまい。ただ、『統率者』は見据える。純粋たる敵を。『王』の誕生の最大の障害を。

 そして――激突した。

 困惑を顔に浮かべるカガチと笑みを浮かべる『統率者』。


「シッ……!!」

「――――!!!」


 『統率者』は刀と大剣を振るい、カガチは呪刀を振るう。膂力は『統率者』が間違いなく勝っている。だが、カガチの守りを崩さず、それどころか徐々に押され始めている。


「――!?」


 カガチは足りない手数を、持ち前のスピードでカバーしている。そのため両者の力を決定づけているのは、互いの技量――そして、互いの恐怖である。

 カガチは『統率者』を冷静に分析した。対して、『統率者』はカガチを路傍の石として扱っていた。倒すべき敵と認識したのは、つい先ほどのことだ。

 つい先ほど――あの『呪』を吸収する刀を取り出してからだ。

 あの刀は、『王』の誕生を妨げるものだ。産声を上げようとしている『王』の存在そのものを消し去るものだ。ならば、自分が排除しなければならない。

 それを自らの責務として、『統率者』は敵を排除しようとする。だが、『統率者』は呪刀を危険視しすぎているのだ。

 それが両者の力の差を作っていた。『統率者』は呪刀を防がねばならず、その分防御に大剣と刀を回す。『統率者』の皮膚であれば、痛くも痒くもないというのに。


「―――ガ!?」

「ぎゃ!!?」


 カガチと『統率者』の戦いは、周りを存分に巻き込んで続けられた。

 振るわれた大剣はカガチを捉えることなく、近くのゴブリンを斬り裂く。カガチの呪刀が、ゴブリンを殴打する。

 気が付くと、ゴブリンの数は数えられるほどになっていた。

 そのころには、カガチはある程度儀式の内容を理解出来ていた。『蟲毒』という名前には辿り着くことはなかったが、それでも敵を倒すことで自身の『呪』が強まっていることは感じていた。

 まあ、カガチは『王』の誕生という『統率者』の悲願には気づくことはない。先の『共食い』のような回復手段だろうと考えていた。


「そろそろ!倒れとけ!!」


 呪刀と大剣、呪刀と刀が打ち合い、金属音を戦場に響かせる。時折、紫電が爆ぜる音が混じる。

 異邦人とゴブリン、その戦いの終焉はすぐそこにまで迫ってきている。

 呪刀が、『統率者』の身体を掠める。『呪』を吸われたのか、露骨に嫌な表情を『統率者』は浮かべた。だが、それはすぐに憤怒へと変わり、激情のままに大剣と刀を振るう。

 見え見えの剣筋。少し身体をひねるだけで躱せてしまうだろう。しかし、それを理解していながらカガチは動かなかった。否、このチャンスを失いたくはなかった。


「―――!!」


 勝利を確信した『統率者』の顔が驚愕にそまる。

 大剣と刀が、カガチの命を奪う瞬間、『統率者』の身体が爆炎に包まれたのだ。

 何が起こったのかを理解できない『統率者』。『統率者』は、頭上のドローンに気が付かなかったのだ。


「――――!?」


 爆炎が晴れた瞬間、『統率者』の顔が歪む。

 爆炎が晴れた先にカガチが居なかったのだ。

――マズイ。

 いま、あの男を、あの刀を見失うのは――

 唯一、自分を殺しうる方法。『王』の生誕を防ぐ持ち主。

 カガチを見失ってはならない理由はいくらでもあった。

 刹那、陽光が翳った。

 反射的に『統率者』は空を見上げる――宙にカガチはいた。


「――」


 あそこまでどうやって昇ったのかは分からない。それはどうでもいい。

 『統率者』は顔を笑みで歪める。

 重要なのは、十分に防御が間に合うということだ。

 刀と大剣を空に向けて構えようとする。カガチの落下速度を考えると十分に間に合うタイミングだった。


「いや、それじゃあ遅い!」

「――――――!!!!」


 加速した。カガチは宙を踏みしめて、加速したのだ。

 すでにその身体には、凄まじいほどの紫電が迸ってる。

 遠くで女の絶叫が聞こえる。そんな必要のないことを考えながら、『統率者』は呪刀に貫かれた。


 

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