表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ストレンジアルカディア  作者: 東夜 空
Born out of blood
77/104

血より産まれしモノ 11



 アイテムボックスから取り出したのは、一振りの刀だ。

 黒い刀だ。この刀は呪刀『無銘』。あのライガが振るっていた刀である。

 鞘はなく、柄も古びている刀。刀身は全くの鈍ら状態であるが、利用価値はある。


「もう知らん。第二の『獣』が生まれたら、そん時はそん時だ」


 この刀は本来ならば歪みをただし、呪いを祓う刀に戻すつもりだった。だが、背に腹は代えられない。別に死んでもリスポーンするだけだが……なんかコイツには負けられない。

 負けず嫌いなのは自覚していたが……なんだろうな。どんどん負けず嫌いになっている気がする。


「グラーフは?」


 少し遠くで爆炎が上がった……あそこか。派手だねえ、アイツ。

 『ヤツ』は先ほどの場所で、コチラを見ている。いや、見ているというよりも目を離せないようだ。

 ……ああ、アレも呪を孕んでいるんだ。この刀の潜在的な恐ろしさを感じたのか。


「よぉし、やろうか」


 そう言った瞬間、『ヤツ』の身体が黒く染まる。もとから黒かった肌が、深淵を思わせるような漆黒に変わっていく。


「……?」


 どういう変化か、まずは様子見を……などと考えていた俺の思考は瞬く間に消えることになる。

 

「ッ!」


 瞬間移動を疑うような速度で、『ヤツ』が眼前に現れた。そのまま、刀が振られる。

 鉄と鉄の打ち合う音が響く。


「殺しに来てんねぇ!!」


 もう手加減はしてられないということか。

 なんとか呪刀で防ぐが、このままじゃあ近いうちに押し切られてしまうだろう。


「フルスロットルだ。コッチも正真正銘、隠し玉はなしだ」


 『纏雷』を起動させる。無論、全力でだ。コイツ相手に手加減などしていたら、コッチが死ぬ。

 強化された五体が、『ヤツ』の行動を捉える。さっきも思ったが、コイツ自身、自分の肉体を把握しきれていないらしい。動きの隅々にぎこちなさが見られる。


「オラぁ!」


 『雷光』を弾いて、ヤツを斬り裂いた。

 だが、斬撃ではヤツを傷つけることは出来ない。というよりも、この刀自体、今はただの鈍らなのだ。そもそも斬り裂ける道理はない。

 もしかしたら、鈍器として幾ばくかのダメージは与えられたのかもしれない。だが、そんなことは些細なことだ。

 この刀の能力は、たしかに発動したのだから。


「なるほど、こういう感覚なのか」


 刀越しに何かを吸収した感覚があった。呪刀『無銘』のフレーバーテキストによれば、呪詛を吸収したということだ。

 祓うのではなく、溜める。その結果、呪詛を糧として何か産まれようとしている。

 まあ、何が産まれるかなど、終わってから考えればいい。たとえ、それが世界を脅かすような化物だろうが、知ったものか。


「続きだ」


 刀を構えて、ゆっくりと息を吐いた。

 最初に動いたのは俺。アイツはどうか知らないが、俺にはタイムリミットがある。少しも時間を無駄にしたくはなかった。

 『縮地』で直前まで距離をつめる。そこからターン。フェイントを織り交ぜた攻撃を放つ。ヤツの攻撃に当たるたびに、呪詛が刀に吸収されていく。だが、微々たるものだ。致命的ではない。

 やっぱ、体内に刺しこまないといけないか。

 眼前を『雷光』が空気を斬り裂いて通過していく。それを横目に距離をとる。ヤツを中心にして、円を描くように移動しながら、隙を伺う。隙だらけのように思えるが、罠だろう。再生能力を活かして、攻撃してきたところをカウンターするつもりか。

 なら、その算段を潰してやる。


「―――!」


 投げつけたのは、グラーフからくすねた爆弾だ。耐性はついているだろうが、目潰しには十分。アイテムボックスからポーションを取り出してHPを回復。それと共に黒煙を突っ切って、掌底を放つ。無論、ただの掌底ではない。高圧電流つきの掌底だ。


「――――!!!!」

「これで終わっておけ!!」


 痺れた様子のヤツに、呪刀を刺しこんだ。短剣じゃ通らないが、刀なら通るようだった。刀がヤツに沈み込んでいく。それと同時、呪詛がかつてない速度で吸収されていく。

 ――ビキッ!

 呪刀から嫌な音が響いた。知ったものか。産まれるなら、産まれてしまえ。

 産まれるなら歓迎しようとも。いつになく、思考が刹那的になっている。今の俺は、面白いからと全てを許容してしまうだろう。後のことなど考えずに。

 ――ビキビキッ!!


「ぐうッ!!」


 刀に集中しすぎた。これ以上は吸収されてたまるかと、ヤツが拳で振りはらった。それを回避できずに呪刀を抱えたまま、宙を舞う。砂煙を上げながら地面に墜落した。


「うおッ!!」


 もはや甘さはないようだ。無様に地面に横たわる俺に容赦なく追撃をかましてくる。拳で、刀で、脚で。確実に殺そうとしてくる。

 いいね、やっと必死になったか。なんて言うが、生憎と攻め手に欠ける。耐性が厄介すぎる。攻撃が通らないと、どうしようもない。


「さてさて」


 なんとか命からがら攻撃の雨を抜けて、体勢を直す。

 グラーフは、まだ戦ってんな。むしろ、よく持ちこたえてるよ。アイツ戦闘が得意じゃない癖に。なら、簡単に負けてられない。乙ったら、煽られるのは目に見えてる。

 ああ、いやだ。煽られたくねぇ。煽りてぇ。というか、ウォルターのヤツはどこでなにしてんだ。アイツも巻き込みたい。なんで俺らが大変な目にあってんのに、アイツはいないんだ。ウォルターに不幸あれ!!


「――――!!!」

「あん?」


 くだらない思考に耽っていたが、集中は切らしてない。こんなことで隙を晒してたまるか。

 ヤツが咆哮をあげた。威嚇か?

 いや、どうにも違うらしい。周りで観戦しているだけだったゴブリンどもが騒ぎ出した。奇妙なことに、黒いゴブリンはヤツの周りに、通常ゴブリンは前面に分かれた。


「?」


 戦闘力で劣るゴブリンをけしかけるつもりか?俺を殺すつもりなのに、そんな悠長なことを?ヤツとて、俺が無視できないとは感じているはずだ。温いな。温すぎる。別の思惑があると疑うべきだ。

 答えはすぐに分かった。


「えげつない……」


 共食い。黒いゴブリンが、ヤツの口に運ばれていく。

 俺に吸収された呪詛の補給が目的か……!なら、防ぐべきだ。ヤツの状態を詳しくは知らないが、補給が必要になったということは、相当にマズイ状態のはず……!この機会に一気に叩く!!

 通常のゴブリンには構ってられない。

 合間を縫うように、跳び越えるように通常ゴブリンどもの壁を越えて、黒いゴブリンたちの下に辿り着いた。


「死んどけ!!」


 呪刀を振るう。鈍らである呪刀は、正直いって鈍器だ。到底斬ることはできず、再生能力に優れているヤツラを殺せない。内臓を潰した程度じゃあ、起き上がってくるに決まっている。

 それでも時間は稼げる。ここに爆弾でもあればいいが、うちの火薬庫(グラーフ)は絶賛働いている最中だ、さっさとコッチに来て欲しい。

――ビキッ。

 再生の最中に漏れ出た呪詛が、刀に吸い込まれていく。一つ一つは微々たるものであるが、塵も積もればなんとやらだ。


「オラァ!!」


 『ヤツ』の首を鈍器たる呪刀で振りぬいた。硬い感触だが、手ごたえはあった。

 『ヤツ』の首があらぬ方向に折り曲げられ――それが瞬く間に再生される。やはりこの程度じゃ、意味がない。

 瞬間、嫌な気配を感じて、距離をとった。


「あぶなッ!」


 目の前を『雷光』が通りすぎていく。巻き込まれた哀れなゴブリンが、光となって消える。

 なるほど。首を折られても行動不能にはならない、と。再生しながら、平然と動いてくる。まったく……悉く、常識が通じない。


「うっそ……それは欲張りってもんだろ」


 『ヤツ』は手下のゴブリンから武器を受け取っていた……最初に持っていた大剣だ。一方に俺の『雷光』、一方には大剣。それなら、『雷光』は返して欲しいものだ。

 『ヤツ』と視線が交わった。

 なるほど。これが、最終フェーズか。


「……最後にナニが立っているんだか」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ