血より産まれしモノ 11
アイテムボックスから取り出したのは、一振りの刀だ。
黒い刀だ。この刀は呪刀『無銘』。あのライガが振るっていた刀である。
鞘はなく、柄も古びている刀。刀身は全くの鈍ら状態であるが、利用価値はある。
「もう知らん。第二の『獣』が生まれたら、そん時はそん時だ」
この刀は本来ならば歪みをただし、呪いを祓う刀に戻すつもりだった。だが、背に腹は代えられない。別に死んでもリスポーンするだけだが……なんかコイツには負けられない。
負けず嫌いなのは自覚していたが……なんだろうな。どんどん負けず嫌いになっている気がする。
「グラーフは?」
少し遠くで爆炎が上がった……あそこか。派手だねえ、アイツ。
『ヤツ』は先ほどの場所で、コチラを見ている。いや、見ているというよりも目を離せないようだ。
……ああ、アレも呪を孕んでいるんだ。この刀の潜在的な恐ろしさを感じたのか。
「よぉし、やろうか」
そう言った瞬間、『ヤツ』の身体が黒く染まる。もとから黒かった肌が、深淵を思わせるような漆黒に変わっていく。
「……?」
どういう変化か、まずは様子見を……などと考えていた俺の思考は瞬く間に消えることになる。
「ッ!」
瞬間移動を疑うような速度で、『ヤツ』が眼前に現れた。そのまま、刀が振られる。
鉄と鉄の打ち合う音が響く。
「殺しに来てんねぇ!!」
もう手加減はしてられないということか。
なんとか呪刀で防ぐが、このままじゃあ近いうちに押し切られてしまうだろう。
「フルスロットルだ。コッチも正真正銘、隠し玉はなしだ」
『纏雷』を起動させる。無論、全力でだ。コイツ相手に手加減などしていたら、コッチが死ぬ。
強化された五体が、『ヤツ』の行動を捉える。さっきも思ったが、コイツ自身、自分の肉体を把握しきれていないらしい。動きの隅々にぎこちなさが見られる。
「オラぁ!」
『雷光』を弾いて、ヤツを斬り裂いた。
だが、斬撃ではヤツを傷つけることは出来ない。というよりも、この刀自体、今はただの鈍らなのだ。そもそも斬り裂ける道理はない。
もしかしたら、鈍器として幾ばくかのダメージは与えられたのかもしれない。だが、そんなことは些細なことだ。
この刀の能力は、たしかに発動したのだから。
「なるほど、こういう感覚なのか」
刀越しに何かを吸収した感覚があった。呪刀『無銘』のフレーバーテキストによれば、呪詛を吸収したということだ。
祓うのではなく、溜める。その結果、呪詛を糧として何か産まれようとしている。
まあ、何が産まれるかなど、終わってから考えればいい。たとえ、それが世界を脅かすような化物だろうが、知ったものか。
「続きだ」
刀を構えて、ゆっくりと息を吐いた。
最初に動いたのは俺。アイツはどうか知らないが、俺にはタイムリミットがある。少しも時間を無駄にしたくはなかった。
『縮地』で直前まで距離をつめる。そこからターン。フェイントを織り交ぜた攻撃を放つ。ヤツの攻撃に当たるたびに、呪詛が刀に吸収されていく。だが、微々たるものだ。致命的ではない。
やっぱ、体内に刺しこまないといけないか。
眼前を『雷光』が空気を斬り裂いて通過していく。それを横目に距離をとる。ヤツを中心にして、円を描くように移動しながら、隙を伺う。隙だらけのように思えるが、罠だろう。再生能力を活かして、攻撃してきたところをカウンターするつもりか。
なら、その算段を潰してやる。
「―――!」
投げつけたのは、グラーフからくすねた爆弾だ。耐性はついているだろうが、目潰しには十分。アイテムボックスからポーションを取り出してHPを回復。それと共に黒煙を突っ切って、掌底を放つ。無論、ただの掌底ではない。高圧電流つきの掌底だ。
「――――!!!!」
「これで終わっておけ!!」
痺れた様子のヤツに、呪刀を刺しこんだ。短剣じゃ通らないが、刀なら通るようだった。刀がヤツに沈み込んでいく。それと同時、呪詛がかつてない速度で吸収されていく。
――ビキッ!
呪刀から嫌な音が響いた。知ったものか。産まれるなら、産まれてしまえ。
産まれるなら歓迎しようとも。いつになく、思考が刹那的になっている。今の俺は、面白いからと全てを許容してしまうだろう。後のことなど考えずに。
――ビキビキッ!!
「ぐうッ!!」
刀に集中しすぎた。これ以上は吸収されてたまるかと、ヤツが拳で振りはらった。それを回避できずに呪刀を抱えたまま、宙を舞う。砂煙を上げながら地面に墜落した。
「うおッ!!」
もはや甘さはないようだ。無様に地面に横たわる俺に容赦なく追撃をかましてくる。拳で、刀で、脚で。確実に殺そうとしてくる。
いいね、やっと必死になったか。なんて言うが、生憎と攻め手に欠ける。耐性が厄介すぎる。攻撃が通らないと、どうしようもない。
「さてさて」
なんとか命からがら攻撃の雨を抜けて、体勢を直す。
グラーフは、まだ戦ってんな。むしろ、よく持ちこたえてるよ。アイツ戦闘が得意じゃない癖に。なら、簡単に負けてられない。乙ったら、煽られるのは目に見えてる。
ああ、いやだ。煽られたくねぇ。煽りてぇ。というか、ウォルターのヤツはどこでなにしてんだ。アイツも巻き込みたい。なんで俺らが大変な目にあってんのに、アイツはいないんだ。ウォルターに不幸あれ!!
「――――!!!」
「あん?」
くだらない思考に耽っていたが、集中は切らしてない。こんなことで隙を晒してたまるか。
ヤツが咆哮をあげた。威嚇か?
いや、どうにも違うらしい。周りで観戦しているだけだったゴブリンどもが騒ぎ出した。奇妙なことに、黒いゴブリンはヤツの周りに、通常ゴブリンは前面に分かれた。
「?」
戦闘力で劣るゴブリンをけしかけるつもりか?俺を殺すつもりなのに、そんな悠長なことを?ヤツとて、俺が無視できないとは感じているはずだ。温いな。温すぎる。別の思惑があると疑うべきだ。
答えはすぐに分かった。
「えげつない……」
共食い。黒いゴブリンが、ヤツの口に運ばれていく。
俺に吸収された呪詛の補給が目的か……!なら、防ぐべきだ。ヤツの状態を詳しくは知らないが、補給が必要になったということは、相当にマズイ状態のはず……!この機会に一気に叩く!!
通常のゴブリンには構ってられない。
合間を縫うように、跳び越えるように通常ゴブリンどもの壁を越えて、黒いゴブリンたちの下に辿り着いた。
「死んどけ!!」
呪刀を振るう。鈍らである呪刀は、正直いって鈍器だ。到底斬ることはできず、再生能力に優れているヤツラを殺せない。内臓を潰した程度じゃあ、起き上がってくるに決まっている。
それでも時間は稼げる。ここに爆弾でもあればいいが、うちの火薬庫は絶賛働いている最中だ、さっさとコッチに来て欲しい。
――ビキッ。
再生の最中に漏れ出た呪詛が、刀に吸い込まれていく。一つ一つは微々たるものであるが、塵も積もればなんとやらだ。
「オラァ!!」
『ヤツ』の首を鈍器たる呪刀で振りぬいた。硬い感触だが、手ごたえはあった。
『ヤツ』の首があらぬ方向に折り曲げられ――それが瞬く間に再生される。やはりこの程度じゃ、意味がない。
瞬間、嫌な気配を感じて、距離をとった。
「あぶなッ!」
目の前を『雷光』が通りすぎていく。巻き込まれた哀れなゴブリンが、光となって消える。
なるほど。首を折られても行動不能にはならない、と。再生しながら、平然と動いてくる。まったく……悉く、常識が通じない。
「うっそ……それは欲張りってもんだろ」
『ヤツ』は手下のゴブリンから武器を受け取っていた……最初に持っていた大剣だ。一方に俺の『雷光』、一方には大剣。それなら、『雷光』は返して欲しいものだ。
『ヤツ』と視線が交わった。
なるほど。これが、最終フェーズか。
「……最後にナニが立っているんだか」




