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ストレンジアルカディア  作者: 東夜 空
Born out of blood
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血より産まれしモノ 8

「こりゃあ……凄いな」

「そうねー。ここまで大きいなんて思ってなかったわ」


 眼下に広がるのは、ゴブリンどもの()()。やたらとゴブリンとエンカウントするから、巣は大きいのだろうろ思っていたが、想像以上だ。いくら繫殖力の高いゴブリンであっても、ここまで大規模なものになるとは考えてもいなかった。

 絶望を通り越して腹を抱えて笑いたくなるレベルだ。このレベルの数を相手にするのは、馬鹿か殲滅できる強者だけだろう。

 生憎と俺たちには、この軍隊を殲滅する手段などない。そうなると必然、俺たちは馬鹿ということになる。

 それについては、その通りと素直に認めておこう。いや、まあ……実際その通りだからな。彼我の戦力差を知っておきながら、なおも歯向かうのは大馬鹿以外の何物でもない。


「さて、と」


 隣でゴブリンどもの軍隊を傍観していたグラーフが腰を上げた。


「そろそろ始めますかぁ」






 平原に轟音が響く。

 轟炎と土煙が平原を蹂躙する。

 これは戦いにあらず。虐殺である。石器を振りかざす原始人相手に、銃器を用いるようなもの。いや、もっと酷い。

 戦いというのは、互いに生死をかけて行うものである。しかし、今行われているものは虐殺。一方的な命のやり取り。

 爆撃を行っているグラーフという女は、何のリスクを負うことなくここで佇むだけだ。

 このグラーフという女は、云った。

『私は戦闘はトコトン駄目でね……』

 けれど、と女は続ける。

『虐殺は出来るんだよ』

 そう凄惨に笑った。

 そんな女が隣で鼻歌混じりに、何やらデバイスを弄っている。


「あれも魔道具か?」

「まあね。ほら、前にウォルターと君に見せたの覚えてる?」

「ああ、あの蜂型の」

「そうそう。それ系統の魔道具でね、中に爆薬とかを詰めて……」


 ドカンっていう訳。

 凶悪すぎるだろ。コイツだけ、やってるゲーム違くねぇ?俺たちはせこせこと刀とか短剣とか振ってんのによぉ。

 ……いや、それは今更か。兄さんだって基本の装備は銃だったが、明らかにオーバーテクノロジーな武器もあったしな。アレのこと聞き忘れたな。どこからどう見ても、普通じゃなかったし。聞くのを躊躇っていたが、今度会った際に聞いてみるか。

 ……気になって仕方ない。


「で?」

「あん?」

「あんじゃないよ。あんじゃ!君も働くの!」

「ええー」


 十分じゃね?

 ここに俺が突っ込んだところで、吹き飛ばされて終わりでしょ。


「私が働いて、カガチが働いていないのが気に入らない」

「なんだその。感情百パーの反論」

「カガチが働かないなら、あの爆薬代とか持ってもらうからね」

「は?」

「ええと……爆薬だけで二百、いや今の相場だと四百かな?それに魔道具補填のために鉱物や魔石も欲しいから……」

「今すぐ行ってくるわ」


 そんな高い金払えるか。アイツのことだ。二百だの、四百だの言っているが、桁は万とかだろう。前にこんな子供だましみたいな手に騙された奴(ウォルター)を知っているからな。

 そそくさと一際高い丘陵を下る。下るごとに全身を爆風が撫でていく。

 俺とグラーフ、そしてアーデルハイトさんが立てた計画は至ってシンプルなものだ。俺とグラーフが陽動を担当し、アーデルハイトさんが救出を担当する。陽動など必要ないと思うのだが、必要なのだと。

 ま、単純にアーデルハイトさんの救出を邪魔されないためだ。それに、姫様が連れていかれたのは洞窟だとらしい。洞窟ならば、数を揃えるだけ邪魔になるということもあり得るしな。


「さてさて……」


 焼け野原になりかけている平原には、まだ幾つか影が見える。運よく生き残ったゴブリンか、それともあの程度では死ななかったゴブリンか。どちらにせよ、手間には変わらないだろう。


「三……いや、五体か」


 生き残っていたゴブリンは、どれも普通のゴブリンに思える。運よく生き残ったということか。

 『雷光』を抜刀する。そのまま一番近くのゴブリンまで駆けて、袈裟斬りに両断した。細い断末魔が、戦場に響く。だが、轟音にすぐにかき消されてしまう。それでも生き残ったゴブリンたちには聞こえたようだ。一斉にこちらを向いて、襲いかかってくる。

 手間が省けた。こちらに向かってくるのなら、都合がいい。

 一番最初に駆けて来たゴブリンの首を斬り飛ばして、続くゴブリンの心臓を突く。三匹目は、ナイフを投げて倒す。ニードルビーの短剣を使おうとも思ったが、ただのゴブリンには勿体ない。ラストは、胴体を横なぎに両断した。


「ふう……」


 この程度では、さすがにダメージは食らわんよ。ただ、まあ……爆撃が当たりそうで怖い。

 あのグラーフという女は、やるときは平然とやる。

『ごめーん。手がすべちゃった!!』なーんて平然と嘯くはずだ。何事もなかったように、へらへらと笑みを浮かべて。

 そう考えると、宙を自由に飛ぶ魔道具たちの動きが気になってくる。不意に俺の方へ向かってくるんじゃないかとビクビクしてしまう。

 とはいえ、そうなったらそうなった、だ。幸いにして、今は俺一人。いつもは引っ付いているハクロが居るわけじゃない。死んでも痛手は負わないだろう。

 大人しく仕事に従事するとしよう。やられたらやられたで、あとで報復すればいい。


「次はお前らか」


 黒いゴブリン……それが何匹か。だが、五体満足という訳ではないらしい。見たところ、即死は免れたという感じだ。明らかに致命傷であるが、尋常ではない再生力を持つコイツらには関係のない話らしい。再生速度こそ、それほど速くはないが、確実に傷が塞がりつつある。


「でも、まあ……」


 動ける奴はいないようだ。再生こそしているが、動けるほどではないようだ。なので、動けるようになる前に確実に倒しておく。光となって消えていくゴブリンども。

 そのとき、


「―――――!!!」


 音もない、空気の振動が肌を震わす。爆撃による轟音の中であっても確実に聞こえた。鼓膜が破れるような咆哮を幻聴した。


「――――チ、逃げ――!!」


 後ろから、グラーフが何かを言っていた。だが、距離も離れているし、この轟音の中だ。聞こえるはずのない。


「あ、なんだって?」

「だーかーらー!!」


 おお、さっきよりもよく聞こえる。

 だが、グラーフの忠告は、警告は少し遅かった。

 グラーフはまだ、あの丘陵にいる。あそこからなら、戦場の全容と言わずともある程度は見ることができる。だから、アイツは気づくことが出来たのだろう。


「逃げろって言ってんの!!!」


 響くグラーフの声は、やはり少し遅かった。

 平原を埋め尽くすような『黒』。以前見た黒蟻どもの軍勢が脳裏によみがえった。幸いにして、あの蟻たちよりは無際限ではない。見渡す限り……という訳でない。


「いやぁ、面倒だ」


 数に関しては幸いなのだが……質は違う。ただの黒いゴブリンではなく、その上位種。通常のゴブリンの変異ではなく、その上位種……おそらく、ジェネラルあたりだろう。そして、ここからでも見える一際大きい個体はキングの変異種か?アレが、巣のリーダーならいいんだが……


「おっと……」


 黒い軍勢に向かって爆撃が開始される。

 爆炎と黒煙によって視界が遮られるが、それは一瞬。グラーフとしては偵察程度の攻撃だったらしい。先ほどの爆撃に比べれば、今回の爆撃は十秒も満たないうちに終わった。

 爆炎と黒煙の紗幕の向こうから、黒い影が近づいてくる。そして黒煙と炎が晴れる。その向こうには、爆撃前と大して変わらぬ軍勢の姿。ダメージがゼロではないのが救いだな。

 再生しながら此方に向かってくる軍勢の姿からは悍ましい寒気を感じざるを得ない。不死の兵隊など悍ましいだけと直感が囁いているのか、それとも俺が不死というのを嫌っているだけなのか。


「まあ、不死は言いすぎか」


 死ににくいだけだ。死なないわけではない。

 ゆるり、ゆるりと軍勢が近づいてくる。その動きは、先のゴブリンどもや黒蟻とは全く違う。鍛えられた軍隊とまではいかないが、それでも統率がとれている。それだけで十分に危険だ。いや、黒蟻たちも別の怖さがあったな。命を無視した集団戦闘。アレはアレで危険なものだ。

 まあ、あの蟻たちにはいつか借りを返すとして……今はコチラだ。

 遠くから咆哮が聞こえた。肌を震わす大音声。それはおそらく命令だ。威厳ある命令、有無を言わせぬ命令だろう。

――かかれ。

 そんな命令にゴブリンたちは進軍を始めた。

 

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