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ストレンジアルカディア  作者: 東夜 空
亡き友に盃を
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剣帝


再び視界を取り戻すと、そこは荒野だった。砂塵舞う荒野。地面には無数の武具。あれは……ツヴァイヘンダーだったか?それにショーテル、果てには薙刀まである。武具の墓場、そんな言葉が浮かぶ。

古今東西ありとあらゆる刀剣類があるんじゃなかろうか。

そして……その中で仁王立ちする男。


『剣帝:ライガと遭遇しました』


 明らかに雰囲気が違う。

 間違いなく、あいつがライガだろう。

 そいつは徐にこちらに視線を向ける。たったそれだけ。他に変化はない。


「……くっ!?」


 それなのに、途端に雰囲気が変わる。息が詰まり、呼吸が出来ない。


「お前はここにいろ」

「シャア!?」


 蛇の癖に睨まれた蛙だった白蛇にそう伝える。驚きの声が上がるが無視だ。こいつらNPCは俺らとは違い、生き返れない。だったら、俺が戦った方がいい。


「いいか、隠れてろ。終わるまで」


 情が移ったのかもな。出会って数時間程度だが………時間は関係ないのか。

 まあ、勝てる確証もないわけで、死ぬのが遅くなるだけなのかも知れない。ただの自己満足かも知れないが、なにもしないよりはいい。


「…シャア?」

「理由?そんなものはねぇよ。強いて言うなら……」


 目の前で殺したくないというのは確かにある。それに、こいつを生かしたい。


 だが、それと別に理由が一つ。


「…………あいつと一対一、サシでやってみたい」


 白蛇がこいつ馬鹿じゃないのかという視線を向ける。戦闘狂?馬鹿言え。ウォルターとかにたまに言われるが、そんなものじゃない。それに戦闘狂になる原因は、間違いなくウォルターにあるしな。


「まあ、心配するな。俺はどうせ生き返るしな」

「…シャ」


 おい、ならいいか。みたいな反応をするんじゃない。まったく……。







「……待たせたな」

「………」


 やはり返答はない。虚ろな目が、静かにカガチを見つめるのみ。

 しかし、その代わりとでも言うように前に男は進んだ。それに答えるかのようにカガチも前に進む。


「………」

「………」


 二人の距離が三十メートルほどまで縮まる。そこで両者は武器を構えた。カガチは短剣を、男は刀を。

 互いに交わす言葉はない。ただ、その時を待つのみ。


 そして、その時は来た。


 張り詰める空気が最高潮に達した途端、男の姿が消える。


「──消え─」


 瞬間、カガチの視界からライガは消えた。カガチはライガから、一度たりとも視線は外していない。ライガは、カガチが捉えることのできないスピードで動いたのだ。

しかし、それに戸惑う暇も彼には与えられない。


──右!!


 あまりにも小さい、地面を踏み締める音。けれど、その些細な音を限界まで集中したカガチの耳は捉えた。 そして、直観に従い身を伏せる。

 瞬間、彼の頭上を刀が通った。それも首があった場所に。まさに間一髪。思案していれば、首を断たれていただろう。

 けれども、それに安堵している暇などない。


「ふっ!」


 カウンター気味に胴体に一閃。

 しかし、ライガはそれを簡単に捌き、斬撃を繰り出す。それらを何とか避け、流してカガチは対応しようとするが、全ては叶わなかった。


流しきれなかった斬撃によって、大きく吹き飛ばされてしまう。


「ッ………!!」


──単にレベル差だけじゃない。技のキレもやばい。


 冷や汗が、カガチの背中を伝う。

 地面を滑りながら着地するカガチに追撃はなかった。ライガは一瞥したまま、動くことはない。


「俺は一発くらったら、負け、ね」


 そんなライガに不気味さを感じながらも、カガチは冷静に状況を判断する。

 今までのライガの刀の鋭さや、単純な能力値の差から、カガチが下した判断はシンプル。明らかな格上ということ。たとえ、逆立ちしてもらっても勝てるビジョンが浮かばない。

 

(まあ、戦う前から分かっていたとはいえ……)


 そして、そのように冷静に物事を量ることが出来るのも束の間。再び戦況は動く。


「──ヤバっ!?」


 右からの鋭い斬撃。それをカガチは短剣で逸らすことで対応した。しかし、その斬撃を逸らした代償として、大きく体勢を崩してしまう。

 当然、その隙を見逃すようなライガではない。


 一閃。


「くっ!」


 カガチは咄嗟に短剣で身を守ろうとした。

 だが、空間がズレた。

 剣帝。

 その名に相応しいほど剣術を極めた男が放った一閃は文字通り、ありとあらゆる物を斬り裂く。

 それはカガチも例外ではない。

 しかし、カガチはまだ生きていた。それどころか、斬られた形跡すらない。

 ただ、身を守る為に構えた短剣が真っ二つになって、地面に落ちて光となって消えた。


「………あの野郎」


 それが意味するのは、ただ一つ。ライガに遊ばれているということ。

 確かに幻視した死。ゾクリと首元に奔った感触は、間違いない。だが、生きている。いや、生かされている。

 その事実に、頭に血が昇っていく。


「……落ち着け」


 自分を叱咤するように言って、一度、大きく深呼吸をした。高揚した精神はそのままに、理性が冷静さを取り戻していく。

 そして、周りをぐるっと見渡した。


「……これでいいか」


 ライガはカガチを襲わない。ただ、彼を見ているだけ。

 その様子は子を見守る親のようであり、試練を与える神のようでもある。


──無手のままでは勝てない。


 カガチは自らの武器を失ったが、幸いにして、周りに武器など数多くあった。錆びていようとも、刃が欠けていようとも贅沢は言ってられない。その中の一振り、装飾はなく、ただ機能美だけがある直剣を手に取る。


「さて…第二ラウンドだ」


 その言葉を皮切りに、再び戦闘は始まった。





 剣戟が響く。

 それは一方的なライガの刀を剣や矛、槍などを使ってカガチが捌く音だ。しかし、その剣や矛も、数合撃ち合った時点で壊れてしまう。


「っ……危ねっ!まったく…これで何本目だ?」


 カガチは悪態をつきながらも、光となって消えていく武器を手放して、転がるようにして斬撃を避けた。


「……ウォルターの提案で、色々扱っておいて良かった。礼なんて、絶対言わないけど……なっ!!」


 独言を吐き捨てながらも武器を手に取る。


「おっ。これなら……」


 手に取ったのは刀だった。

 カガチが最も得意とする武器である。直剣よりも技術が必要とされる武器ではあるが、幼い頃より、祖父に稽古をつけられていた彼にとっては直剣よりも使い易いものとなっていた。


「うっし。……もうちょっとマシになりそうだ」


 顔に笑みを浮かべ、彼は駆け出す。

 それに対し、ライガもまた笑みを浮かべて応じた。

 袈裟、逆袈裟、突き、上段。それらを極限にまで集中し、避け、流し、反撃をする。形勢は幾らかマシになったとはいえ、圧倒的な力の差は埋める事が出来ない。


 そして、何度切り結んだか分からなくなり、カガチがライガの刀に慣れ始めた頃。ライガに変化が生じた。

 彼の身体に紫電が迸ったのだ。それと同時、空気がさらに重くなり、身体の動きが鈍る。


 そして───


「なっ!?」


──消えた。


 そして、彼の身体に衝撃。文字通り、身体に電気が迸る。

 一時的な麻痺。

 生じる致命的な隙。だが、ライガは何もしなかった。


「……くそっ」


 少ししか減っていないHPを確認し、カガチは少し後方、笑みを浮かべたライガを見つける。その笑みは嘲笑か挑発か、それとも他の物か。それはカガチには分からない。

 そして少しの静寂の後、再びライガが消えた。


「……ぐっ!?」


 腹部に衝撃。そのまま、後ろに吹き飛ばされる。様々な武器をなぎ倒して、へし折り、それでも尚、止まることはない。

 しかし、それもライガに首を掴まれて止まる。いつの間にか、ライガが後ろに回っていたのだ。


「………」


 睨むようにライガを見る。

 言葉はない。その瞳からは感情は読み取れない。

 しかし、濁っていた瞳に光が灯っているように感じた。


 すぐに気のせいだと頭を振って、カガチは状況を打開しようと力を入れる。


「オラァ!!!」


 絶望的な状況。その状況の中でさえもカガチは諦めようともせず、刀を振るおうとする。

 しかし、それをライガが許すはずもない。

 ライガの首元まで刀が迫ったところで、ライガの電撃が弾けた。


「ガァァァッッ!?」


 電撃。

 否、電撃と呼ぶには生ぬるい。最早、稲妻とも呼べる紫電がカガチの身体を駆け巡る。


「……………」


 数秒後、それは静かに収まった。

 カガチの手の内から、刀が零れ落ちる。しかし、カガチが光となって消える事はない。

 彼は生きていた。動けないのは、たんに麻痺によるものである。

 無理にもない。初心者に、あの電撃を耐えるほどの耐性、HPは無いのだから。つまり彼が生きているのは、単にライガの思惑ありきに他ならない。

 ライガは、静かに笑みを顔にたたえていた。しかし、彼の心情を汲み取れるだろう人物はこの場にはいない。カガチは気絶しているため、笑みを見ることは出来ず、ハクロは首を傾げるのみだ。


「……シャア!?」


 ライガは、意識を失った彼を白蛇の元に連れていく。そして震えながらも臨戦態勢をとった白蛇の隣に寝かした。


「……お前はヤトの血を引くものか。道理で懐かしく感じるものだ」

「シャ、シャア?」

「気にするな。俺が意識を取り戻したのは奇跡と呼ぶしかない。あるいは運命か。どちらにせよ、良き若者に出会えた」


 白蛇には、その言葉の意味を推し量ることは出来ない。何故意識を取り戻すことが出来たのか。それを自分は知らず、理解出来るのは母と同じ()()だけであろう。


「ヤトなら気づいてくれるか。この場にアイツの血を引くものがいるのは天啓か、はたまたただの偶然か。どちらでも良い。ただ俺の願いは果たせた」

「??」

「何。分からなくて良い」


 それに、と彼は続ける。


「もう夜が明ける」


 次第に世界が白く染まっていく。

 そして遂には、何も見えなくなる。

 その中で、ああ、と何か思い出したような声を白蛇は聞いた。


「その小僧に伝えておいてくれ。次はもう少し、成長してから来いと」


その声が元に戻った世界で、寂しく空に響く。


「そして――俺を終わらせてくれ」


『ユニークスキル:迅雷流を取得しました』


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