憂鬱&憂鬱
「嘘だろぉ……」
トボトボと歩く。その足取りは重い。
「ギィ!」
「ギャ!?」
街道を歩く俺を襲おうとゴブリンが二匹飛び出して来たが、遅いし数が少な過ぎる。この程度ではやられんよ。
一瞥することなく刀を振るう。それが左側から襲いかかって来たゴブリンの喉を切り裂いて絶命させた。
それを確認して、横にステップして攻撃を躱す。獲物は棍棒か。
再び飛びかかろうとしているゴブリン。この間合いならば、俺の方が速い。飛び上がる瞬間、その腕を切り落とし、返す刀で心臓を貫いた。
「はぁ……」
一体これで何体目か。正直なところ、この短い間隔での襲撃が俺の気分を沈ませる一因になっていた。他の要因?決まってんだろ、ダンジョンに潜れなかったことだよ。
「はぁ……」
再び溜息を吐いた。
今はアインセンへ続く街道の途中。ツヴァルブまでは偶に狼のモンスターが現れたくらいで、平和な道のりであったというのに……何で、こうもゴブリンが多いのか。
だが、そんな沈んだ気分も目的地が見えれば晴れるというもの。
「あ!」
突如、跳ねるように首を跳ね上げたハクロの声に視線を変えた。
「お……」
見えるのは外壁。
今まで見たどんな街のものよりも低く、規模の小さなものではあったが、立派なものだった。
ただ、今までと異なるのは周りの活気。ローレル、ツヴァルブ、ドライド、フィーエル、フンブス……それらの街では、外壁の側で戦闘をしている者は見られなかった。だが、アインセンでは外壁のすぐ側で戦闘が起こっている。
角付きの兎、小柄な狼、そしてゴブリン。ところどころで起こっている戦闘を見ると、一様に似通った装備を着ている。
「初心者装備かぁ……」
着替えた方がいいのかね?なんて思いながら、平原を進んでいく。
流石に襲われるようなことはなく、簡単な手続きを経て、アインセンに入ることが出来た。
ちなみに冒険者ギルドへの加入が目的だと話したら、門番に可哀想な目で見られた。俺と同じような境遇のやつは、やはり居るのだろう。
「ほぉ……」
アインセンは始めの街というだけあって、プレイヤーの活気が凄かった。恐らく、そこらをフラフラ、キョロキョロしている奴は間違いなくプレイヤーだろう。
「まあ、それは兎も角……さっさと終わらせてしまうか」
名前:カガチ Lv74
ジョブ:戦士
所属:なし
ステータス
HP:760
MP:740
STR:60(66)
DEX:48
AGI:64(70)
INT:5
VIT:8(4)
《スキル》
【短剣 Lv5】【刀 Lv15】【錬金 Lv10】【隠密 Lv8】【隠蔽 Lv2】【跳躍 LvMAX】【再生(未)】【迅雷流 Lv9】【雷耐性 Lv6】【縮地 Lv5】
こうして見ると、随分と強くなったものだ。まあ、レベル1の時と比べるとだけれども。
ただそれはステータスの話。スキルに限って言えばそうじゃない。
ステータス自体はレベルを上げれば伸びるのだが、スキルは時間が物を言う。どれだけ剣を振ったか、どれだけ魔法を使ったか……なんたってストアカを始めて、リアルで一ヶ月も経っていないのだ。
まあ、それはスキルレベルの話。それにしたってスキルの数が少ない。態々スキルを取得する必要がなかったと言うこともあるが、単純に生来の貧乏性が出た結果だ。
どうしても渋っちゃうんだよなぁ。幾つか目ぼしいスキルはあるのだが、新しく出てくるスキルのことを考えてしまうと手が止まってしまうのだ。
まあ、【再生(未)】のように勝手に生えたスキルは別だが。
【再生(未)】に関しては鬼化したことが原因だろう。鬼化の後遺症とでも言えばいいのか……まあ、【纏雷】でHPを削る身としてはプラスであることには変わりないだろう。
それは兎も角として、半ば現実放棄し始めた思考を現実に戻す。
「ねぇねぇ……」
「あの人さ──」
突き刺さる視線が痛い。
やはりこの格好が無駄に目立つのだろう。
色鮮やかな和服。和服に似たような初心者装備はあれど、和服はない。
単純にこの場では浮いているのだろう。
この初心者装備しか居ないこの部屋では。
「はぁ……」
一度溜息を吐いて、部屋を見渡した。
見るからに初心者装備しかいない。多少、それ以外にも居ていいものを……。
「まったく……」
どうにも、冒険者ギルドに入るためにはこの講習を受けなければならないらしい。その後に簡単な依頼を受注しなければならないという。
まあ、意図は分かるのだが……面倒臭い。それは俺以外もそうらしい。不満そうな輩が何人か見える。
彼らとて、不承不承という形らしい。まあ、戦闘をメインにするならば、冒険者ギルドというのは切っても離せない物なのだろう。
「さて……」
左腕を軽くタップする。
暫く経って、ハクロが不満そうに出て来た。
どうせ眠っていたのだろう。
「なに?」
「いや、単に暇だったからな」
「ふぅん……お喋りでもしようってこと?」
そんなことするような人じゃないだろうと、ハクロは言った。
どう思っているんだ、お前は。
「正にその通りなんだけどな」
「………!」
「お前さ、俺を何だと思ってんの?」
「いやぁ……」
呆れたようにハクロは続けた。
「戦闘狂か何かじゃないの?」
いや、ほんとに人を何だと思ってるんだ。戦闘ばかりしていた訳でもないだろうに。
むしろ、観光とかかなり楽しんでいただろう。
そう言い返そうとしたが、思い返すと街中であろうと戦闘が絡んでいた気がする。
「いや、やっぱそんなことはないぞ。うん」
「嘘じゃん。どこに行っても戦ってばっかりのくせに」
それは、俺の気性だけの話じゃない気がする。王都ローレルでは、あれはどちらかと言うとマリーちゃんのせいだったような。フィーエルは、グラーフのせいだ。俺から吹っ掛けてない。
フンブスでは……うん、あれは俺の所為だな。いやでも、ドライドでは何もしてない……街中では。そういや、ツヴァルブでは何もしてないぞ。
「いやいや、確率的には五分の三程度──うん?」
「──!!」
「──」
「────?」
そんな雑談をしている内に廊下の方が騒がしくなった。どうにも講師が到着したようだ。
だが、なかなか入ってこない。
「なんで入ってこないんだ?」
初めてという訳じゃないだろうに。
「さあ?何か打ち合わせでもしてるんじゃない?」
「あー、それはありそう」
一体、なんの打ち合わせなのやら。面倒なイベント事だろうか。
それは勘弁してもらいたいものだ。俺はさっさと依頼を達成して、ダンジョンに潜りたいのだ。
そんな俺の細やかな願いは簡単に打ち壊されることとなる。
何が悪かったのか。今にして思うと、メールを面倒臭がったことだろう。いずれはこうなっていたかも知れないが……少なくともこのタイミングではなかったはずに違いない。
「あ、ちょ──」
何か慌てたような声。
それが言い切らぬ内に、扉が勢いよく開いた。
「おおっ〜!学院みたいなのだ!」
──美しい金髪の少女によって。
「「は?」」
俺とハクロは思わず声を上げていた。
そりゃあそうだ。どう見てもあそこで目を輝かせているのは、マリーちゃん──この国の王女様なのだから。
「すみませんねぇ」
柔らかい女の声が、耳朶を振るわせる。
入って来たのは女二人と職員の男。
──やっぱり、居たか。
マリーちゃんが居るところに、奴がいない訳がない。
「今回は王女殿下が見学なさいます。くれぐれも無礼を働かないように」
青い顔の職員が言った言葉など、少し足りとも頭に入って来てはいなかった。
何故ならば、あの女──グラフが獲物を捉えた猛禽類のような目で俺を睨んでいたからだ。
まるで、逃がさないと蛇が絡みつくように。




