あの日の剣戟を回顧して
剣戟が響く。
それはいつかの再現のように。
「そら!」
「なんの!」
袈裟斬りが、右手に握られた剣によって逸らされる。ガラ空きとなった俺に迫るもう片方の剣。
それを剣の腹を殴ることで軌道を逸らして、そのまま距離を詰める。
踏み込みは終えた。ならば、あとは斬るのみ。
「シッ!」
「ッ、おまっ……!?」
斬り上げた刀は見事に躱されていた。
良いねぇ!ノってきた。やっぱり、ウォルターの相手は楽しい。小細工は通じず、単純な力比べに持ち込まれる。
というか、ハクロの居ない状況が久しぶりだ。なんだかんだいつも近くにはハクロが居た。こうして戦っていると、ハクロの強みが分かる。
「──ッ」
「考え事……してんじゃねぇよ!」
片手では防ぐことはできなかったらしく、刀は軌道を逸らされる。刀は少しだけウォルターを切り裂いて終わった。
そのままウォルターは、距離を詰めると同時激しい連撃を叩き込んでくる。
ウォルターの身体には赤いオーラが揺れていた。何かしらの強化スキルでも使ったのだろう。
アレはセイカが使っていた物と同じ系統のものかもしれない。
「まず──!」
激しくなった連撃。流石に無強化のままでは、分が悪いか……ッ。
一撃一撃は軽い。だが、刀一本では対処しきれない。その結果、身体の至る所を剣が掠めていった。
いくら急所を外しているとはいえ、これは不味い。
連撃に弾かれるように距離を取る。当然のように追いかけてくるが、時間は少し取れた。
紫電が身体を纏い始める。
久しぶりの感覚。だが、まだ程遠い。完成形とも呼べるあの白雷には。
追い掛けて来ているウォルターを捉えた。それほど距離は離れていない。二秒もしない内に、俺を斬り伏せんと双剣を振るうだろう。
ならば、存分に迎え撃とう。
「シッ」
『縮地』で距離を詰めて、刀を振るう。
仕留めたと言う確信。だが、この男はその上を行く。
虚を突いたはずの『縮地』からの速攻。それをウォルターは不敵な笑みを浮かべて防御していた。予期していたのか、それとも持ち前のスペックで対応したのか。
身体の奥底で、何かが震えた気がした。間違いない、これは歓喜だ。
思えば、プレイヤー相手にここまで戦ったのは久しぶりだ。いつもレベルが高い相手か、それか弱い奴だった。だから、ハクロを使い、スキルを使い、小細工を弄して、若しくはそれを使う暇もなく対峙した。
だが、ウォルターは違う。小細工を弄しても、コイツはそれを看破してくれる。
故に、心から俺は言う。
「流石だよ、ウォルター」
「お前こそカガチ。どうにも簡単には勝たせてもらえないらしい」
鍔迫り合い。
それゆえに、アイツの表情がよく見える。ウォルターは笑っていた。きっと俺も笑っているだろう。
「当たり前だ。連勝記録を打ち立てるために負けてらんねぇんだ」
「……バカ言うな、まだ連敗してねぇ!」
「だから、これからすんだろうが!」
一気に距離を取って、同時のタイミングで距離を詰める。
思考がリンクしたように、アイツの思考が手に取るように分かる。
右手の斬撃……これはブラフ、本命は左手。これ、回避の方向誘導されてるな。
「面倒な」
右手の斬撃を回避、本命の斬撃を受け流す。
そのまま──ッ。
「回し蹴り……ッ!」
剣を振った勢いのままウォルターが、回転した。そして放たれる蹴り。予想だにしない攻撃であったが、何とか腕を挟み込めた。
ダメージは幾らかあるが、蹴りがマトモにヒットするよりはマシだ。
「グベッ……にゃろ」
「──フッ!」
それでも隙は多少晒してしまう羽目になる。それをウォルターが、見逃してくれるはずがない。
ここで一気に決めようというのか、ウォルターの双剣が変化を見せた。右手側の剣は炎を纏い、左手側の剣は白銀を纏う。
「なんだそれ!」
いいね、面白い!
俺も出し惜しみはなしだ。
纏雷を強める。もちろん最大出力で、だ。反動として、HPがかなりの速度で削れていく。残り十秒かそこらか。
「くたばれ!」
双剣が、赤と白の軌跡を伴って振られる。その速度は今までで一番速い。
だが、対応出来る。
「ハハハハハハハハハ!!」
「オォォオオォ!」
哄笑が、空気に溶けていく。もはや、俺の目にはウォルターの姿しか映っていなかった。
──────
────
──
刀と双剣がぶつかる度、白銀が、焔が、紫電が舞う。
それは神秘的な光景で、周りの人達は無意識のうちに引き込まれていた。
振われる刀に息を呑み、宙を駆ける炎に息を漏らす。
それはこの二人とて例外ではない。
「……凄いな」
「ああ」
ソウタとレンは、熱に浮かされたような目で見入っていた。
格が違った。スキルではない、ステータスではない。もっと単純な技術。
相手の動きを読む力、見抜く力、術理、身体の動かし方。到底敵わない。
自然と願っていた。どうかこの戦いが終わらないように、と。それはきっと二人だけではないに違いない。
だが、万物には終焉がある。美しい紅葉が色褪せるように、桜が花を散らすように。この戦いも、すぐ直前にまでそれは迫っていた。
両者もそれを感じ取ったに違いない。
二人は同時に向き合い──不敵な笑みを浮かべていた。
ウォルターが駆ける。双剣の炎と白銀が、大きく震えた。
これで決める。その意思が込められているようだった。
対して──カガチは動かなかった。迫り来るウォルターを前にして、静かに彼は佇んでいた。
──納刀。
白銀と炎の尾が、宙に軌跡を描く。
左右から迫る必死の一撃。
──抜刀。
鞘を滑り、最高速度で刃が奔る。
「────」
猛る炎と白銀を、紫電そのものと化した一閃が迎え撃つ。
一瞬の交差が終わった瞬間、すぐさまカガチは『纏雷』を解いた。
「しくった……」
悔しそうなウォルターの声。
それに振り返ることなく、カガチは返す。
斬った感触はあった。
あの居合斬りは、ウォルターの胸を左手もろとも確実に切り裂いたのだから。
「バカ、それは俺の方だっての」
だが、カガチも痛手を負っていた。胸を奔る炎の剣線。
斜めに奔る切り傷は燃えていた。それがカガチを蝕んでいく。
カガチは見誤っていた。あの炎をただの炎だと思ってしまった。あの炎は普通とは大きく異なるものだ。なにせ、狼帝に由来するものなのだから。
近くで硬質な音が響いた。それは腕もろとも斬り飛ばされた双剣が落ちた音だった。
そして──その音を合図としたように、カガチとウォルターは地面に倒れた。




