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ストレンジアルカディア  作者: 東夜 空
亡き友に盃を
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彼岸にいるあなたへ 29


 研ぎ澄まされていく。

 それが傍目から感じられるほど、ライガの動きは洗練されていた。

 ライガが構える。『雷光』の鋒が、『人型』に向けられた。自然と呼吸が浅くなる。まるで空気自体が重くなったかのように。

 側で見守るカガチでさえ、それなのだ。あの鋒を向けられると、どれほどの……


「………!」


 先に動いたのは『人型』。

 『人型』はあらんかぎりの攻撃を繰り出していた。

 地面から、左右から、上空から、触手が、棘が、髑髏が、刺突が、その全てが最速でライガに迫る。

 様子見ではなく、全てが必殺の攻撃。一撃さえ当たって仕舞えば、その瞬間に命を刈り取られてしまうということは想像に難くない。

 だが──ライガはその全てを斬り裂いた。


「なっ──!?」


 堪らず声を上げたのはカガチ。それも仕方のないことだろう。なにしろ、カガチは回避するだろうと思っていたのだから。

 彼とて、ハクロとて、全ての攻撃を斬り裂くなどと言う選択はしない。思い付かない。なにしろ、そんなもの出来る訳がないのだから。

 自然と顔が引き攣っていくのを感じながら、カガチは言葉を漏らす。


「これが、ライガの──」


 本気。

 そう口に出す前に、ライガの言葉が発せられた。


「さて、()()()()はこの程度で良いか。存外、身体が重いが支障なし」


 準備運動、その言葉に更に顔が引き攣るのを感じると同時、カガチは得心していた。

 ライガは使っていないのだ。迅雷流、唯一の技であり、カガチにも受け継がれた『纏雷』を。


「さて、ご覧じろ。我が人生の集大成、雲耀に至し我が剣技」


──バチッ!


 空気が震えた。小さな、小さな音ではあったが、それは明確に変化を齎した。

 ライガが雷を纏い始めたのだ。身体の表面を薄く覆うほどの『纏雷』。頼りなくも見えるそれは、カガチの『纏雷』とは決定的に異なっていた。


「色が……」


 カガチの『纏雷』を紫電というのならば、ライガのものは白雷。

 荒れ狂うことはなくとも、莫大なエネルギーを秘めたそれ。

 身体に掛かる負荷も身体強化もカガチの紫電とは比べ物にもならない。


──それを纏ったライガは、どれほどの……。


「シッ──」


 決着はあまりにも一瞬だった。

 一閃。右肩口から斜めに両断する、逆袈裟斬り。

 それが一体いつ振られたのか。カガチが尾を引いた白雷を追いかけて『人型』に辿り着いた時には既に、『人型』は両断されていた。


「……嘘だろ」


 全く見えなかった。動作の起こりも、移動も──何も。


「これが、剣帝の本気……」


 カガチの隣では、ハクロも驚愕していた。


「有り得ない。ただの刀で呪詛を断ち切った?いや、アレはもっと概念を断つような……」


 ハクロが戦慄していたのは、ライガの剣技。どのようにして、『人型』を斬り裂いたかと言うことである。

 カガチの刀が、聖練加工されていない刀だということは知っている。それに、あの刀では『獣』を傷つけられなかった。ハクロのサポートがあって、初めて傷をつけられたのだ。

 それを──ただの刀で行って見せたのだ、あの男は。

 遠くで、『人型』が崩れて黒い霧となって消えていく。それが再び形を得ることはないと、蛇帝の系譜たるハクロは本能的に理解していた。

 あとに残ったのは、一本の古びた刀。最後、人の形をとった『呪』の右手にあった刀だ。


──アレが、母さんの言っていた……本当の核。


 互いが思い思いに驚愕している内に、ライガはゆったりとした足取りで近づいていた。

 ある程度の近さまで彼は近づくと、その手に持った雷光を鞘に納めて差し出す。


「まこと良い刀だった。最後に振るう刀としては満足よ」

「……最後?」


 ああ、とライガは腕を見せた。

 筋肉のついた腕は太く、その表面には無数の傷跡。それだけで、男の歩んで来た人生の過酷さが垣間見えた。しかし、圧倒的な存在感を持っていたはずの腕は徐々に白くなっていき、今にも崩れそうなほどに儚い。


「人の理を超えて生きたのだ。その代償よ」


 悲しみなどなく、心の底から笑うライガに余計なことは言うべきではないとカガチは口を噤んだ。

 代わりに、というように、アイテムボックスからアイテムを取り出して言う。


「姐さん……ヤトからだよ」


 それはヤトから渡された瓢箪と盃。

 それらを受け取ったライガは、頬を綻ばせた。


「おおっ……酒か。しかも、これは……そうか。アイリスの好きだった……」


 盃に中身を注いでいくライガ。

 嬉しそうな彼の顔に、一筋の涙が流れる。それは頬を伝い、やがて酒の水面に波紋を起こした。


「アヤツめ、粋なことをしてくれる」


 一息で飲み干したライガは、満足気に頷いた。その顔には笑み。

 ライガの体が端から崩れていく。


「まこと良い人生だった。後悔こそ数多あれど、未練はなし。最後にこうして継がせることが出来た」


 それは誰かに聞かせるような言葉。されど、その対象はカガチとハクロの二人ではない。

 きっと、もう会えない──大切な誰か。


「アイリスよ、今行こう。お前が希求した未来を携えて──」


 さあっ、と一陣の風が吹いた。

 その風に攫われるようにして、ライガは消えていった。

 最後の顔は晴れた笑みと──涙。


 ここに悠久の時を生きた稀代の剣豪の人生は静かに終わりを告げた。


──シナリオクエスト『古き友に盃を』

──派生『亡き友に盃を』をクリアしました。

──刀神ライガの討伐に当たり、ジョブ『刀神』の継承権をプレイヤー『カガチ』は報酬として獲得しました。





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