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ストレンジアルカディア  作者: 東夜 空
亡き友に盃を
57/104

彼岸にいるあなたへ 27


「────────!!!」


 『獣』が吠えた。ソレは何か覚悟したような、今までの威嚇目的や怒りに任せたものとは異なるものだ。

 逆鱗に触れてしまっただろうか?

 その心当たりがないわけじゃない。どうにも、ライガを狙うという考えは正解に思える。


「────」


 先に仕掛けたのは『獣』。

 凄まじいスピードで突進を仕掛けてくるが……それだけじゃない。身体から髑髏を射出しながら、だ。その姿は、無限弾倉のミサイルランチャー搭載の暴走列車。髑髏に当たっても、『獣』に追突されてもタダでは済まないだろう。


 それでも、俺には余裕があった。鬼の身体能力に、最高出力の纏雷。本来デメリットであろう継続ダメージも鬼の身体に付随していた再生能力で打ち消されている。

 髑髏が呪詛の霧を纏って接近してくる。的外れな方向に飛ばされたものが此方に向かってくる辺り、ホーミング機能でも付いているのだろう。


「どーにも、さっきとは……違うようだなっ!」


 幸いなのは、そのホーミングがそれほど強力ではないほど。確かに、俺の方には向かっては来るがそれだけだ。徹底的に追尾という訳ではないらしい。

 一度回避してしまえば、そのまま地面に激突してしまう。

 だが、それはそれで厄介なのがこの攻撃の特徴らしい。


「ッ──厄介な」


 着弾と同時、髑髏が爆ぜる。正しくミサイルというわけだ。

 クッソ、俺とハクロが半ば一体化してるから良かったものの……パーティーとかレイドだと相当ヤバいだろ。

 というか、この攻撃自体が多人数を巻き込めるように設計されている気がする。タンクとか大変だと思うんだが……こういう攻撃をカバー出来るスキルとかあるのかね?

 まあ、考えても意味ないのことだ。今更、タンクになる選択肢なんてない。出来ても精々が避けタンク。正統派にはなれないだろうし。呪印のデメリットが、タンクには向いてなさすぎなんだよ。


「ハクロ、ギアを上げるぞ」

「え──ぐぇ」


 全力で行こう。

 後ろからの爆風を追い風に変えて駆ける。目指すは『獣』の背骨あたり。即ち、ライガが取り込まれているところだ。


残り数歩といったところで、『獣』は動いた。


「……っ!!」


 右前脚でのスタンプ。当たってしまえば跡形も残らないだろうそれを、間一髪で回避する。だが、その先を左前脚での薙ぎ払いが襲ってくる。


「っ……くそッ」


 回避出来るタイミングではない。刀を無理矢理差し込んで、ガードする。


「オオオオッ!!」


そのまま吹き飛ばされたが、ダメージは軽微。無視出来る範疇だ。


「ハクロ!」

「任せて!」


 体勢を空中で整える。

 まだ、ハクロがいる。簡単に吹き飛ばされてやる訳にはいかない。

 足裏が、呪詛の足場を捉えた。酷く脆いが、一度耐えられれば十分。

 そのまま跳ぶ。我ながら随分なことをしていると思うが、生憎と絶好調。失敗する気がしない。


「甘い!!」


 吹き飛ばされた俺を追撃しようとした『獣』の攻撃を躱して、一撃を入れる。

 もちろん、背骨付近にだ。


「見えた!」


 『獣』の黒が切り裂かれて、内部に居る男が見える。間違いない、ライガだ。

 だが、切り裂いたとはいえすぐに再生が始まってしまっている。

 一筋縄には行かないか。


「────ッ!!」


「もう一度!」

「……ウップ」


 ああ、ハクロの三半規管が!?

 真面に返答出来ないくせに、仕事はしっかりとこなしてくれるもんだ。

 ハクロの作った足場を再び踏み締めて、着地した『獣』を狙う。

 隙だらけの背中がボコボコと変化し始める。

 ああ、そうかい。罠かよ……()()()()と思ったよ。

 あの感じは爆発じゃない。棘が飛び出してくるパターンだ。大方、串刺しにでもするつもりだろう。

 けれど、生憎と絶好調なんでな。完全に捌き切る自信しかねぇ。

 納刀。


「……来た!」


 ボコボコとした変化が一度終わりを迎えて少しの静寂の後、棘が飛び出してくる。

 大小入り混じった棘が、俺を穴空けにしようと迫る。


「シッ……」


 居合斬り。鞘を滑り出た刀身が、迫り来る棘を全て両断した。

 霧散して消えて行く『黒』の棘。その奥。『獣』の体表が、水面に石を落としたような波紋に揺れた。

 そして、棘が飛び出す。いや、その大きさは棘と呼ぶには相応しくない。レイピアというよりもランスというその形状。

 だが、来ると思ったよ。さっきの攻撃は少し甘かったからな。何か誘ってんじゃないか、と思ってたんだ。

既に俺の身体は反応している。空中で身をよじった俺の足がその黒いランスを捉えた。ドンピシャ。そのまま、黒いランスを足場にして駆ける。


「────!?」


 『獣』の戸惑うような唸り。咄嗟に回避しようとするのが見える。

 けれど、遅い。この間合いなら、俺の刀が先に届く。


「はぁ!」


 手に確かな感触。水を切ったような感覚とは違う、確かな感触。

 ()()()ッ!

 そのまま刀を振り切った。しかし、この程度じゃ倒れてはくれない。

 着地と同時に跳んだ。直ぐに刀を振り上げる。再び確かな感触。そのまま、重力に従って下に落ちる身体を利用して、鋒を下に向ける。狙うは突き刺し──


「は……?」


──刹那、『獣』が醜悪な笑みを浮かべたような気がした。






「は……?」


 『獣』の身体が溶けた。当然刀はすり抜け、地面に虚しく突き刺る。

 刀が土に刺さった虚しい音。

 あまりの出来事に理解が追いつかないカガチを放置して、状況は変わる。

 『獣』の成れ果てである黒い液体が、スライムのように蠢いてカガチを拘束していく。先ずは足、次いで身体を雁字搦めに。徐々に身体を登っていく黒いスライムは、首元で集合して拘束を終えた。

 カガチは腕を動かそうと、足を動かそうとするが足掻くが──動かない。


「ッ──マジか」


 絶望的な状況であるはずであるが、カガチの声からは焦りが見えない。心の底からやられたとでも言うような声音。

 それを『獣』は絶望が故のモノと判断して、姿を現す。更なる絶望を与えるために。

 地面に広がっていた『黒』が蠢いていき、数秒の後には『獣』を形作る。先程と変わらない、狼を模した様な四足獣の姿が現れた。


「────」


 満足そうに鳴いて、『獣』は張り巡らせていた術を発動させた。これで仕留めることが出来る、と。

 地面に『黒』が走っていく。言うまでもなく、それは『獣』の身体を成していたモノだ。だが、『黒』は直接『獣』からの伸びているわけではない。各所に要石のように配置された棘から伸びていた。


「アレは──」


 ソレは記憶に新しかったため、カガチは簡単に思い出すことが出来た。少し前、『獣』の尻尾から放たれていた『棘』だ。


「成程……こうやって使うためだったのか」


 乱雑に放っただけかと思っていたが……こうやって中心に立って見ると分かる。グルリと円を描くように配置されていたのか。

 カガチが呑気に感心している間にも、『黒』は地を走り──遂に『陣』を描き終えた。

 黒で描かれた『陣』が、淡く光を発し始める。それは時間経過と共に強くなり──


「ふぅん……」


──『黒』が湧き上がった。


 『黒』は天に向かって伸び、天を覆う天蓋を作り出さんとする。

 其れは、ハクロに向けた攻撃に酷似していた。共に対象を呪で覆い隠すもの。だが、全く性質は異なる。

 ハクロに向けて使ったもの、アレは単なる呪を固めたものに過ぎない。速く、応用の効く攻撃ではあるが、一撃は軽いという代物だ。それに対して、『獣』が繰り出そうとしている攻撃は、所謂呪術。呪詛というエネルギーに対して、指向性を加え、別のモノに変化させるというものだ。

 発動には大掛かりな準備、そして莫大な呪詛(エネルギー)を必要とするが、その威力は折り紙付き。天蓋の中に居る全てを死に至らしめ、魂持つ者を呪詛へと変える──正しく呪いと呼称するに相応しい。

 たとえ、憎しみや嫉妬の悪感情を抱いていなくとも、強制的に感情を染められ、呪となってしまう術だ。


「──死天之澱(シテンノオリ)


 ズズッと天蓋が完成を迎えようとするのを見て、『獣』は底冷えするような、不快なノイズが混じったような声で確かに言った。その声は何処か弾んでいて、勝利を確信したかのようなそんな声音だった。


「………」


 だが、勝利を確信した『獣』を嗤うように、カガチは泰然と笑みを浮かべている。

 それが酷く不気味に思えて、『獣』は術の発動を急いだ。


──彼の首元に、違和感を感じずに。


 ドボンと着水したかのような感覚が、背中に合った。


「────?」


 それが何か分からず、『獣』は首を傾げる。それも一瞬。直ぐに、カガチを殺すべく術を発動させんとした。


「────!?」


 しかし、術を発動させることは出来ない。身体の奥底に不快感を感じたのだ。痛みのような、腹の中を掻き混ぜられているような不快感。

 堪らず、『獣』は睨み付けた。この事態を引き起こしたであろう男へと。


「何をされたか分らないか?」


 術が中断させられたことによって、帷が崩れて行く。まだ、男の姿は見えない。

 けれど、その姿は容易に想像出来た。変わらず嗤っているだろう男。そこに不気味なものを感じて 『獣』は久方ぶりの恐怖を感じた。


「ほら、良く見ろよ。居ないだろ?」


 帷が完全に崩れ落ちるのと同時、男は姿を現した。


「……!」


 ニヤリとした笑みのまま、男は自らの首元を指差す。

 首元は普通に曝け出されていて、何も異変を感じられない。だが、それがおかしかった。

 そこに、居たはずのモノがいない。マフラーか何かのように首に巻き付いていた白蛇が。


──あの蛇は、呪詛を操れる。


 それはつまるところ、呪詛で構成されている『獣』の天敵ということに他ならない。


 あの白蛇は――どこに行ったのか?

 その答えは、考えるまでもない。

 決まっている。自分たちの身体の中にいる……ッ!!


──あの蛇は、我らを支配しようと!?


 全てを理解した時には、もう遅い。

 不快感が痛みに転じた。

『獣』を構成する呪詛が、ハクロの支配下に置かれていく。それは『獣』からすれば、肉を削ぎ落とされるようなものである。


「──────!!!?!?!?」


 ノイズのような絶叫が、虚空に木霊した。


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