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ストレンジアルカディア  作者: 東夜 空
亡き友に盃を
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彼岸にいるあなたへ 26


 『獣』の爪が空間を斬り裂き、鋭い尾が宙を薙ぎ払い、牙が貫く。

 どれも喰らってしまえば無事では済まないものではあるが、今の俺には少々遅い。

 鬼とやらになった俺の身体能力は凄まじく、常時『纏雷』を最大で纏っているような感覚。そのステータスによれば、避けるのは容易なものだった。


「────」


 『獣』が僅かに声を漏らして、尻尾で薙ぎ払ってくる。それを敢えて前に出て、回避する。ステータスが上がったお陰か、動体視力も向上しているらしい。


「ハクロ!」

「うん!」


 前に踏み込んだ俺はそのまま尻尾目掛けて斬撃を放った。とは言え、俺もバカじゃない。コイツにフツーの攻撃が効かないということは、そりゃあ身に沁みて理解している。なんたって、それで死にかけたからな。

 だから、それは対策済みだ。

 刀──雷光に『黒』が絡む。ハクロ曰く、コレも呪詛なのだと。

 目には目を、歯には歯を、呪詛には呪詛という訳だ。物質では透過してしまう呪詛も、同じ呪詛ならば互いに干渉し合うらしい。

 そこは俺が知っている訳ではないので、論より証拠ってやつだ。

 振った刀に、確かな感触。肉や骨を断つような感覚ではなく、何処か気持ち悪い感覚だが──たしかに斬った。


「よしっ」

「────!!?」


 返す刀で、『獣』の身体を斬りつける。今度は、感触が少ない。

 見ればさっきと比べて、随分と『獣』の黒が淡い。


「やられた。呪詛を他に移された!」

「なるほど?」

「あーもう!アソコに攻撃は効かないってこと!」

「そりゃあ、分かりやすい……ねッ!」


 淡かった『獣』の身体が途端に濃くなり、伸縮する。

 何か嫌な予感がして、俺はその場を飛び退いた。

 その瞬間、目の前ギリギリに大小様々な黒い針が伸びていた。


「っと、危ねぇ」


 初見行動は、回避しておくに限るな。予備動作である程度予測出来るのはいいんだが……あの系統は何が出て来るか分からん。


「けど、まあ……効いてるな」

「効いてなきゃ困るよ」

「そりゃあそうだな」


 くくっ、と笑って『獣』を睨め付ける。

 どうにも、初めての感覚に戸惑っているのか……『獣』の身体が不規則に動いていた。ボコボコ、ビョンビョン、縦横に。

 それが一通り終わると、『獣』の尻尾が掲げられる。


「?」


 この距離ならば、対応出来る。その余裕を持って、『獣』の行動を注視した。

 『獣』の尻尾が不自然に膨らむ。身体から尻尾にかけて、何か管のような物が形成されていた。それがポンプのように収縮を繰り返す。

 それが続いていき、尻尾が割れる寸前の風船のようになったかと思うと──それが爆ぜた。

 いや、爆ぜたように見えただけだ。よく見れば、尻尾は変わらずあった。再生した気配もない。

 ならば、何が──


「アレは……」

「棘……?」


 先程まではそんな器官はなかったはず。だが、身体を自由に動かせる『獣』において、それぐらい創り出すくらい思いのままだろう。

 だが、意図が分からない。緩やかに落ちて来る棘を見る限り、俺たちを狙っている……という訳でもなさそうだ。

 攻撃が目的じゃないなら……何が目的なんだ?

 そんなことを考える合間にも棘は落ちて来る。こちらにも一本落ちて来ていた。


 それが近くに落ちるのを確認してから、『獣』に注意しながら他の棘の場所を見る。


「ハクロ、分かるか?」

「……分からない。だけど、アレも『獣』の一部だと思った方がいいよ」


 成程、いきなり襲って来る可能性もあるわけと。

 そんな会話を交わしていると、『獣』が動いた。

 『獣』の背中がメキメキと変化してしたかと思うと、何が飛び出た。


「チッ──」


 ここに来て、遠距離攻撃か!

 呪詛を帯びて頭蓋骨を模した攻撃が迫る。カタカタと、まるで笑うようにして。

 数も多い。左右合わせて十個ほど。速度は速くないから、回避するのは楽なはず。

 だが──尻尾の先端が地中に埋まっていた。


「マズッ──!?」


 アレは何度か見たことがある。地中からの攻撃だ。

 チクショウ!頭蓋骨に意識を取られた!

 狙いは、回避したところの隙狙いか!?


「ッ──ハクロ!」


 ズンっと、左足に衝撃。見れば、足を貫いている『黒』があった。

 しかし、今は一人じゃない。


「任せた!」

「うん!炎蛇よ!」


 刀で足を貫いている『黒』を斬り落とすと同時、炎蛇が舞う。その炎蛇が呑み込むようにして、迫っていた頭蓋骨を喰らっていく。

 瞬間、俺は『纏雷』を発動させた。

 ただでさえ、向上していたステータスが強化される。

 至ったことのないステータスに、軽い全能感を覚える。

 狙うは、炎蛇が俺を遮った一瞬!


「シッ!!」


 強化された肢体が、地面を蹴る。勢いは最高潮。風と一体となって炎蛇の中を駆け抜ける。

 炎蛇を抜けて、『獣』を捉えた。身体から呪詛をガスのように振り撒いていて、その呪詛は此方へと形を変えて襲い掛かってくる。

 呪詛の速度は遅い。右、左、左、右……最低限の動きで回避していく。ステップし、腰を捻り、身を屈んだ。


「遅いんだよ!」


 彼我の距離は刀一本分ほど。一歩踏み込めば、刀は届く。


「ふッ!」


 呪詛を絡ませた刀が、『獣』の前脚を捉えた。一歩外にステップして、そのまま跳躍。先程の場所に、呪詛が流れ込む。


「ハクロ!」

「任せて!!」


 刀に雷を纏わせた。だが、コレだけではマトモなダメージは与えられないだろう。だからこそのハクロだ。

 意思疎通はアイコンタクトで十分。俺の意図を察したハクロが、呪詛を操った。


 刀を纏う紫電が、()()変色する。

 それを確認するまでもなく、俺は刀を突き刺した。


「────!?!??」


 そのまま刀を通して電撃を浴びせていく。出来るならこのまま攻撃を続けていきたいが、それはさせてくれないらしい。

 『獣』の周囲に不自然に呪詛が漂い始めた。


「──ヤバっ」


 予期してなかった訳じゃないが、発生が早いッ。

 爆発。黒い火炎が爆ぜた。

 回避行動は取れてる。だが……ッ。


「くっそ……ッ」


 爆風に煽られて、想定以上吹き飛ばされる。幸いなのは、回避体勢は取れてるというところか。

 このまま着地を──


「カガチ!」


 焦ったハクロの声。

 ハッとして、着地を考えて地面に向けていた視線を前に向ける。

 目の前に、『獣』の牙。

 隙は逃がさないってことかよ……抜け目のないことで……ッ!


「空中ジャンプだの、二段ジャンプだのは覚えてないが……擬似的なのは出来るんだよ!」


 目の前に闇が見える。アレに呑み込まれてしまえば、どうなってしまうかは想像出来ないが……不味いことには違いない。

 目の前に迫る牙に、体勢を変える。猫のようにしなやかに、今すぐ着地する様に。

 その直後、何もないはずの足裏に確かな感触。見るまでもない。きっとそこには、黒い何かがあるのだろう。

 その下手人は言うまでもなくハクロだ。呪詛を固めるだかなんだか……詳細は知らない。だが、空中に足場を生み出せるなんて便利なもんだ。


「────!」


 真下で顎が閉じられる音が響いた。

 それにいちいち反応している暇はない。

 直ぐ様身体を反転。頭が下という形になる。眼前には『獣』の身体。足の下には再び黒い足場。

 それを踏みしめて、下へと加速を付けて落ちる。


「シッ!?」


 首を断つように、上から下へと刀を振った。確かな感触。確実に捉えた。

 追撃をしたいが……『獣』から何が飛び出すのか分からない。ここは慎重に行くべきだ。

 そう判断して、軽く距離を取った。それから、『獣』を見る。


「流石に、首を落とすことは出来ないか」


 三分のニほどは千切れかかっているのだが……。とは言え、コレで殺せないとなると、首を落としたところで死ななそうだ。


「やっぱり、倒すのが勝利条件じゃないよなぁ」


 消耗しているようにも思えんし……となると、耐久。時間制限が次点に挙げられるんだが……どうなんだ?可能性はあるにせよ、微妙だ。


「ハクロはどう思う?」

「うーん……倒せないことはないと思うよ」

「マジで?」


 死なないそうなアイツが?どうやって倒せというんだ。


「前提からして、アレは生き物というよりエネルギー体だから……身体を構築しているエネルギーが無くなれば──」

「死ぬってことか」

「うん。呪詛の量は最初から間違いなく減ってはいるんだけど……まだ致命的じゃないね。せいぜい、四分の三か三分の二くらい残ってる」

「ふぅん……全然、減ってねぇじゃん」

「この空間が閉じてるせいだね。行き場がないから、循環しちゃってる。それにアレの攻撃が主に呪詛を固めたりした物っていうのも大きいよ」


 あれってコスパがいいんだよ。そうハクロが付け加えた。

 ふむふむ……成程、形勢が全く良くなってないというのが分かった。最悪じゃん。


「ここに聖水だとか、神聖魔法を使える人が居れば……楽なんだけどね」


 聖水、神聖魔法……どちらも教会関係だったか。攻略サイト曰く、魔を祓うモノらしい。魔を祓う……それなら呪詛も浄化出来る、という訳ね。

 まあ、そんなものは持っていない訳で……なんなら、教会にすら行ったことがないのだ。


「いやはや、どーすれば──」

「カガチ」

「分かってるよ」


 黒い棘が、俺を襲って来る。その数は五本。その発生源は……『獣』の背中。

 焦る事態ではない。棘は速いが、狙いは単純。避けるのはそんなに……


「うおっ!?」


 いきなり棘が狙いを変えた。いや、形状を変えたというべきだな。

 半身になって回避した棘が、曲がった。二度折れて、先端が俺に向かって来る。

 それを身を屈めて回避するが、後四本が迫って来ていた。


「面倒な……!」


 一歩、敢えて前に出る。そのまま回避。やはり、後ろから追跡(ホーミング)してくるが……無視。

 後ろから来るのなら、そのまま引き連れてやれば良い。


「前門の虎、後門の狼かよ!」


 意味的には違うが、状況的には似たようなモノだろう。前には棘と『獣』、後ろからも棘。むしろ、前に虎、後ろに狼の方が可愛いもんだ。


「ホーミングミサイルに追われている気分だよ!」


 加えて、避けたミサイルは後ろの奴等の仲間となるオマケ付きだ。

 二歩、右に踏み出して回避。前に四歩。ラストは、そのまま前に駆けて回避する。


「へっ、余裕だっての!」


 俺を倒すには密度が足りねぇんだよ!こちらとら、毎日のように追われてるからなぁ!

 前から迫る槍衾、後ろからも槍衾。横からも槍衾。ついでに上から人が降ってくる。

 狙いは俺の命と刀。『壬生狼』に住まう奴等は、欲に正直で誰か一人の独占を許さない。アソコでは、独禁法がなくても経済は回ってるのだ。あと、流れているのは金ではなく命なんだが。


「縮地!」


 残り僅かを『縮地』で迫り、『獣』の懐に潜り込んだ。

 腹から尻尾に掛けて、腹を開くように刀を刺して動いていく。


「オォォオオォ!」


 それに、『獣』が初めて焦ったような、痛みに耐えかねたような声をあげた。


「ッ──カガチ!」

「アレは──」


 腹の奥。丁度、『獣』の背骨が通っていそうな場所。そこに、ソレは居た。

 そうか、そこに居たのか。それなら、『獣』の反応にも合点がいくというもの。


「──ライガか」


 眠っているようにも見えるが、四肢は拘束され、胸には黒い管。

 その顔は──


「ゆっくりとはさせてくれないか……!」


 開いた腹が変化したのを見て、さっさと腹の下から飛び退く。腹の下の地面には、いくつもの『黒』の棘が霧散していた。

 危ね、少し遅かったら蜂の巣にされてたな。

 安全地帯まで距離を取って、ハクロに話しかける。


「どう思う?」

「ライガが核なのは間違いないだろうけど……ライガを狙ったところでどうなるかは分からないよ」


 だが、これ見よがしに弱点ぽいのがあったんだ。狙わない訳にもいかないが……第一形態とも呼ぶべきライガ状態では再生していたし。

 微妙なところだ。


「ふーむ……」


 選択肢としては、ライガを狙う。それから、時間を稼ぐ。あとは、今まで通りに戦うっていったところか。

 時間を稼ぐのは無し。現状、最も楽な選択肢ではあるが……勝てるとは限らないからな。と言うか、消耗戦に成り兼ねん。そうなったら、勝ち目はない。

 うーん……よしっ。


「ライガを狙おう」

「根拠は?」

「ないが……このまま、ズルズルと戦うよりは良いだろ」


 そう決めた矢先、『獣』の咆哮が全てを揺るがした。


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