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ストレンジアルカディア  作者: 東夜 空
亡き友に盃を
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彼岸にいるあなたへ 20



──獣が産声をあげた。


「ッ──」


空気が震えて、圧力が増す。

身体中から汗が湧き出る。

本能的に分かる。『アレ』はライガじゃない。気づいていなかった訳じゃない。話にも聞いていた。けれど、今この瞬間までそれを疑っていたのだ。


ただ手加減をしてくれているだけで、アレはライガなのではないか、と心の何処かでは思っていたんだ。


だけど、コレは違う。ライガの形をした何かだ。


──憎い、憎い、憎い、ここに閉じ込めた奴らが。あの人を殺したアイツらが。僕を捨てた親が。私を殺した男が。俺を貶めた友が。


「憎い、憎い、憎い憎い憎い憎い憎い憎いニクイニクイニクイニクイニクイニクイ!!!」


声の主は『獣』だ。だが、口からじゃない。『獣』の身体中から。『獣』の存在そのものが。これが、姐さん(ヤト)の言っていた不浄。この世あらざる清浄ではないもの。

それが何かはわからない。けれど、何から生まれたのかはハッキリと分かる。


「人の心からか」


 悍ましい声には、理解出来ないものはない。全てが全て、憎悪。幸せに生きれなかったもの。絶望の底で死んだもの。幸せを壊されたもの。

 それを、あの夜。ライガという男は押し退けて、正気を取り戻したのか。


「はは……」


 乾いた笑いが溢れる。

 化け物すぎだよ、師匠(ライガ)


「ッ──!!」


 ──憎い、憎い、憎い。

 

 ──貴様が憎い。


 頭に、イメージが流し込まれる。

 仲間に騙されて死んだ男の死に様、親しい者が順番に殺されていく光景、遊びと称した拷問。

 悍ましい、悍ましい、悍ましい。


「なるほど……これは消えなければならないものだな」


 過去、どうして浄化装置なんてものを取り込んだのかは知らん。けれど、それは間違いだったのだ。こんなものは、いつまでも残っていい訳ない。

 さっさと片付けて(綺麗にして)やるべきだ。

 こんな憎悪を抱き続けるような、悪夢を延々と見させるようなモノはただの拷問だ。


「断ち切る……と言いたいところだけど、その手段は俺にはないし──ッ」


 言葉を言い切るより早く、『獣』が動いた。


「最後まで──」


 先程よりも速くない。けれど、慣れてない動きに反応が遅れる。


「──言わせろよ!」


 カウンターを叩き込む余裕なんてなく、転がるようにして突進を避ける。


 当然だが、人と獣、その動きは全く異なる。

 方や二本の足で大地を踏み締め、武器を振るわねば脆弱な存在。

 方や四足で大地を蹴り、その牙と爪で獲物を狩る捕食者。

 その戦闘スタイルは天と地ほどの差があるのだ。


 ということは、だ。先程まで人の動きに慣れていた俺にとって、動きが読みにくいということを意味する。


「ん、にゃろ!?」


 お手なんて言う優しいものではなく、ミンチにするようなスタンプが前脚から放たれる。

 一度、二度、三度。大地を揺るがすほどの攻撃。当たれば間違いなくペシャンコ……ワンチャン肉球でノーダメもあるか?


「絶対ないな……」


 凹んだ地面と叩き折られた武具を見て、下らない思考を蹴飛ばす。


「ん?」


 小さな違和感。

 これは……地面が揺れている?小さな揺れ。先程の叩きつけに比べれば小さな小さな……


「……ヤバっ!!」


 『獣』の尻尾に当たる部位。それが地面に突き刺さっているのを見て攻撃を予見して、走り出す。

 瞬間、俺のいた場所に地面から針のように鋭い『黒』が飛び出す。

 それが何かなど言うまでもない。『獣』の尻尾だ。それも相当に鋭利な。当たれば串刺しは間違いない。


「──!」


 『獣』が距離を詰めてくる。

 突進?いや──


 瞬間、瞬間で変わりゆく情報をもとにして、攻撃を読む。


──次は爪を使った薙ぎ払いかッ。


「的っ……中!」


 爪の先端をギリギリで避けて、『縮地』で『獣』の懐に飛び込んで刀を……振るった。


 しかし──


「は?」


──手応えがなかった。


 空気を切ったような感覚。しかし、間違いなく『獣』を斬った。『獣』の身体を刀は通った。けれど、感覚はない。

 有り得ない事態が思考に空白を生む。そして、それはこの戦闘において致命的なものだ。


「──あ……」


 呆っとしてたのは一瞬。けれど、その一瞬を『獣』は見逃してくれるはずがない。

 尻尾で薙ぎ払われて俺は宙を舞う。宙を舞った俺はただ無防備でしかない。

 瞬間、地面から飛び出した鋭利な『黒』に貫かれていた。


「ッ──」


 貫かれて減っていくHP(体力)

 瞬く間に緑を過ぎて、赤に染まるHPバー。

 貫かれた衝撃で更に高度を増して宙を舞う。


(あ、これは死んだな)


 漠然とした思考、しかし間違いなくそれは覆らない。

 死因は落下ダメージ?それとも、迫り来る『獣』の爪?


──ザクッ。


 最後は実に呆気なかった。

 落ちた来たところを爪で切り裂かれた。

 装備のおかげもあるだろうが、『獣』の不気味な身体のおかげもあったのだろう。幸い俺の身体はバラバラにならなくて済んだ。


「ま、辛うじて右側面だけで繋がっている状態だけど」


 今に命が尽きて、光となって砕け散ることは想像に難くない。それで目覚めた時にはエバーテイルの一室。


 そうして俺は目蓋を閉じた。

 急速に近づく地面に激突してHPがなくなり、身体が砕け散ることを幻視して。


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