彼岸にいるあなたへ 14
「確か……ここだったかな?」
花火が上がり終わって、ハイ、解散とはいかないらしい。
現在地は、王都周辺の森。
堂々と門から入るわけじゃないのだと。
なぜ?と聞けば、伯爵を引き摺ってどうやって入るのさ、などと返ってきた。どうも王子様からの指令は隠密に、とのことらしい。
まあ、それは兎も角。現在はグラーフが何やら地面を調べている最中だ。
何やらアクセサリーを片手に、金属探知機で地中の金属を探すように歩き回っている。
「お……?」
それも終わりのようで、グラーフはある地点で止まった。
そして、手元のアクセサリーと地面を、視線だけで何度か往復して……
「うん、ここだね。カガチ、ウォルター」
手招きしながら言った。
俺とウォルターは手招きに、軽く頷いて近寄る。
全く……良いのかね。
こんなことに王族専用の抜け道なんて使っても。
ああ、そうだとも。本来ならば機密情報中の機密情報。秘匿されていなければならない情報を王子様は、我らが悪友に渡してしまっているのだ。
「確か……」
ぼやきながらグラーフはアクセサリーを翳した。
アクセサリーが光り、その輝きによって闇が払われる。深い闇に包まれた森を照らす光が、一秒、二秒、三秒と時間と共に光りを強めていく。
「ちょっ!?」
「うわっ!?」
まあ、暗闇の中でそんな光を突然発せられれば、俺たちともタダじゃ済まないわけで。
俺とウォルター、そしてグラーフの視界が潰された。
明滅する視界。
白に埋め尽くされた世界がどれほど続いただろうか。
「は?」
視力が戻った時には、既に光は消えていて、月光に薄く照らされた夜の森が佇んでいた。
だが、何も変わっていないわけではない。
目の前の地面が消えていた。怪物が大口を開けて待ち構えているかのように空いた穴。穴の内部には、赤い肉の代わりに煉瓦が敷かれていて、奥に広がる闇が手を招いているようだった。
「やー、凄いね。笑っちゃうよ」
どうやら先に視界を取り戻したらしいをグラーフが、ランタンを持ってスロープになっている穴の前に居た。
「ワァーオ……」
「お、ウォルターもか」
「これで全員だね」
俺とほぼ同時でウォルターの視界も戻ったらしい。
それしか言葉が出ないような感じで呆気に取られていた。
だが、我らが悪友は待ってくれないらしい。
「それじゃあ行こうか」
ランタンの灯りだけが頼りとなる暗闇。
ぼうっと照らされる煉瓦の壁と床。
そこに響くコツコツという三人の足音と何処からか聞こえる水の流れる音。
「……まだ?」
耐え切れないと言うようにウォルターがこぼした。
ああ、分かるよ分かるぞウォルター。俺も同じ気持ちだからな。
大体三十分くらいか。この通路を歩きはじめて。
と言うか、地下通路が下水道辺りと合流したような感じがある。さっきから、何処から聞こえてくる水音に、少し前に水路が見えた。
位置的には、もう王都に入っていると思われるから……下水道っていうのは、あながち間違いじゃないはずだ。
まあ、それよりも気になるのが、仮にも王城に繋がる道が下水道に接続されていても良いのかってところだが……
「うーん?あと、少しだと思うよ?」
手に、例のアクセサリーをぶら下げたままのグラーフが言った。
現状、王城まで繋がる道を知っているのはグラーフしかいない。だからまあ、コイツに従うしかないのだが………不安だ。
グラーフが迷うような素振りもなく進んでくれればいいのだが………このグラーフという女は、何度か道を間違えているのだ。
たしかに、同じような道ばかりが続いていて、同じような場所をグルグルとしているような気もしないでもないが………え?してないよな?
「なあなあ、ウォルター」
「何?カガチ」
「いやさ、俺に突飛な考えが浮かんだんだよ」
「ふむ、聞かせて給え」
「あのさ、俺らさ……同じ場所を歩いてない?」
「うぇっ!?嘘でしょ?」
あ、話し方戻った。
「ただの推測に過ぎないが……どう思う?」
「あり得るね。あのグラーフだ。これが罠という可能性も──」
「おっ、ここだ」
「「ん?」」
「何してんの?二人とも」
ある壁の前でグラーフが立ち止まっていた。
なんの変哲のない煉瓦で出来た壁。付け加えるなら、明るい色合いの煉瓦が汚れてくすんでいる、ということくらいか。
とは言え、他と比べて汚れているわけでもないし、綺麗ということもなく、その壁だけが異様ということはなかった。
「いいや?何でもない」
「そ、ならいいや」
まさか、お前を疑ってました、なんて言える訳がない。
ウォルターと俺で、互いにアイコンタクトをとって、グラーフの行動を見る。
「それじゃあ、行くよー?」
「ど──」
何処に?なんていう言葉を紡ぐより早くグラーフは壁に向かって足を進めた。
一歩、二歩とグラーフはその足を壁の中に進めていく。
「ああ、そういう」
「まあ、よくあるタイプだよな」
その光景に唖然……とはしていない。
俺たちは腐ってもゲーマー。このような演出は、目が腐るほど……それは言い過ぎか。けれども、こういった演出っていうのはよく見るやつだ。
「ん?」
壁から手がニュッと生えて、手招きをし始めた。
「早く来い、ってさ」
「うぃー」
その手招きに従って、俺たちも壁をすり抜ける。
「変わり映えしないなぁ」
抜けた先は、変わらず煉瓦造りの通路。
少し変化があっても良いとは思うけどな。これじゃあ、味気なさすぎる物だ。
「聞いた話だと、あと少しだから」
再びグラーフを先頭として俺たちは歩き出した。
それが続くこと五分ほど。
今回の通路は、先程とは違って迷うようなことはなかった。それも、この通路が一本道であるためだ。他に分かれ道もなければ、合流するような道もない。ただただ続く、煉瓦に囲われた通路。
……楽なのは良いのだが、同じ景色ばかりで気が滅入りそうだ。
「お?」
その言葉を発したのは、俺だったか、ウォルターだったか。
ただ分かるのは、俺にせよウォルターにせよ無意識に溢したであろうということだけだ。
「さて、と……確かねぇ」
遂に終わりを告げた一本道。
さも、ここで終わりだとでも言っているかのような壁が立ち塞がった。
だが、俺たちはここを抜け道ということを知っている。
視線をグラーフへと滑らせると、グラーフは掌を広げていた。
あれは……待てか?
いや、五分かな。多分。
「……ああ、これかな?」
グラーフが、例のアクセサリーを弄りながら、壁を睨め回すこと五分ほど。うーむ、宣言通りか……
何やらアクセサリーの機構を、グラーフが弄ると壁が開いた。
「おおっ……」
光が溢れてくる。
徐々に開いていく壁の隙間より、漏れ出した光が、闇中にあった俺たちの姿を照らしていく。
この通路に入る前に見たような網膜を焼くような光ではないが、長い間闇の中にいた俺たちには少々明るすぎるが故に、反射的に目を細めて、手で傘を作ってしまう。
「よいっしょと……」
闇より這い上がるかのようにして、光溢れる世界へと足を運ぶ。さながら、深淵より生まれ出づるモンスターの気分だ。
これがモンスターであるならば、勇者なりなんなりに囲まれてお終いであろうが、俺たちは違う。
なんせ、王子様の命令という免罪符を俺たちは所有しているのだ。それだけで気分は違ってくる。
というか、王城に入るのは初めてなんだよな。
普通は関わりもないような気がしないでもないが、前回は目と鼻のさきだったからなぁ。まさか、城に備え付けられた独房に入れられるとは……
なんやかんや考えながら、足を動かす。
「うっ……」
眩しい。既に目が慣れたとは思っていたのだが、そうではないらしい。
それでも軽度であるから、既に見え始めているのだが。
「さて、貴様らはなんだ?」
「は?」
あまりの出来事──その言葉に、光景に頭がフリーズする。
出て来た俺たちを槍と剣が取り囲んでいた。
その中心にいる騎士が、尊大な物言いと共に剣を振るう。
「何処から、その通路の情報を入手し、通って来てかは知らんが……」
振られた剣が、その首をいつでも断ち切ることが出来るとばかりに目の前で止まる。
その剣の持ち主。即ち、正義というものを信じて疑わないような固い騎士を、俺は知っていた。
ああ、忘れられるものか。
「その万死に値する愚行、このアーデルハルトが裁こう」
その騎士は、俺をこの城の独房に放り込んだ張本人なのだから。




