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ストレンジアルカディア  作者: 東夜 空
亡き友に盃を
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彼岸にいるあなたへ 10

三人称って難しい……


「──ただの滑稽な道化だよ」


 その巫山戯た言葉に、男──ゴードンは剣を抜いた。

 抜かれた剣は、向こう側が透けて見えそうな水晶の如き剣。言い方を変えればガラスの如き剣。無論、ガラスの如く脆くはない。そして、ただの剣ではない。あるユニークモンスターの一角から作られた剣だ。

 そのユニークモンスターの原型は、聖気畜一角馬セイントチャージユニコーン。清浄な場所に住み、聖気を蓄える一角馬だ。その在り方からして聖獣とも崇められるモンスターでもある。

 そのユニークモンスターである一角を素材として作られた剣は、ある特性を受け継いでいた。


「ふん、答える気はないか」


 その鋒をカガチに向ける。

 尊大に、傲慢に、彼は言葉を吐いた。

 そして、その剣の権能を行使した。

 即ち、そのユニークモンスターの特性を。聖気ではなく、太陽光を蓄積し、放出するという権能を。


「ならば、死ね」


 直後、剣の鋒から光が射出された。

 水晶の如き剣から発せられた光。それは、太陽光を凝縮したもの。いわば、レーザー。

 光速で射出され、ありとあらゆる物を溶かして進むその光線。それを知らなければ、回避は不可能であろう。

 だが──


「!」


 ──カガチは避けた。

 ゴードンが僅かに瞠目する気配。

 そして、少しの沈黙の後、ありったけの呪詛、憎悪を込めて呟く。


「………あの女か」


 そう。知らなければ避けれない、初見殺し。

 それを避けたと言うことは、予め知っていたということ。

 目の前の男が、どうやって知ったのか。それをゴードンが知る術はない。

 彼とて、帝国では名の売れた存在だ。対策をされたことだってあった。だから、己を知られているのは、さほど珍しいことではない。

 だがこの状況下では、話は異なる。

 この部屋は伯爵が隠している地下室。あの男は、予めここに自分がいることを知っていた。そして、呼び出された仲間。

 ここまで、出揃えば誰が糸を引いているかなど、推測するのは容易い。


「………ククッ」


 憎悪が篭っていながらも、その顔には笑み。まるでこうなることを望んでいたかのように。


「…………」


 内心、何やらかしたんだ?と気になったカガチであったが、今それを問うほど野暮ではない。

 後から、グラーフから聞こうと心に決めて、刀を構えた。


「さっさと死ね」


 動いたのは、変わらずゴードン。

 光線による有無を言わさぬ連撃。鋭い突きを何度も放っているような攻撃であり、その一つ一つが急所を的確に狙ってた一撃必殺なのである。


「残念」


 だが、それが鋒から射出されることを知っていれば回避は容易い。

 右に左にと、その場で避けるカガチ。


「仕方ない」

「………?」


 突如、攻撃が止んだ。

 これではカガチを倒せないとゴードンは悟ったのであろう。


「少し本気を出そう」


 ゴードンの剣が輝きを増した。

 そして、再び光線が射出された。先程とは、打って変わり一本の太い光線による連撃。

 攻撃一つ一つのスピードは変わっていない。ただ、光線の太さが変わった。つまり、出力が上がったのだ。


「ああ、くそッ」


 小さく吐き捨てて、たまらずカガチは駆けた。

 そのスピードは速い。だが、剣を振るう速度よりは遅かった。

 光線を射出したままの剣が振われる。光線自身に重さなどない。つまり、振われた軌跡に沿って射出され続ける光線と、大きく回らなければならないカガチ、その速度の差は圧倒的だった。


「………ッ!!」


 カガチの後を追うようにして光線、否、光剣は、カガチを焼き切らんと迫る。

 それを跳躍で回避したカガチは、ゴードンの続く行動を視野に捉えた。


「ッ、面倒……だな!」


 跳躍した正面から迫る光剣。

 跳躍の後、地面にへばりつくように回避。髪を焦がすように通り過ぎた光剣に肝を冷やしながらも、カガチは次の行動に移る。


「無様だなァ!その程度か!」

「……………」


 袈裟斬り、逆袈裟斬り、突き、切り上げ、上段と続く斬撃。一方的に放たれ続ける光が、カガチを寸前で捉え切れず床を焼いて行く。


(ああ、仮面があって良かった)


 そんな光の乱舞の中であっても、カガチは妙に冷静であった。

 空いていた左手で、顔に触れる。当然、肌の感触はなく、コツンという硬い感触。

 その硬質な仮面の下で、カガチは笑っていた。

 それは戦闘にではない、苦境にではない。ただ、相対する男への憐憫が故に、滑稽さが故に。


「やっぱり──」


 次々と迫る光剣。それを躱し続けて、カガチは思う。


──分かり易い、と。


 フェイントもなければ、緩急もつけられていない。光剣という防御不可の遠距離攻撃であるからこそキツいが、近距離での斬り合いでならば難なく勝てるだろう。

 グラーフがカガチに勝てると考えていた理由が、ゴードンのプレイヤースキルの低さであった。Lv99ともなれば、ある程度技術は身につく。駆け引きだとか、経験がそう言ったものが。しかし、ゴードンは良くも悪くも運がよかった。ユニークモンスターを狩ることができ、大手のクランに入ることが出来た。レベルが頭打ちになるまで、さしたる苦労はなかった。

 だからこそ、彼のプレイヤースキルは低く、修羅場を体験していない。そこにグラーフは勝機を見出したのだ。


だが、


「ッ………!?」

「面倒な!サッサと死ね!」


 次の行動が読み易いからといって、光剣の脅威は変わらない。

 加えてカガチを倒せない苛立ちからか、一層、光剣の出力が増した。それと同時、ゴードンの身体から赤いオーラがユラユラと出現する。

 そのスキルをカガチは以前、見たことがあった。


「……闘気系のスキルか」


 思い出されるのは、セイカとの決闘。

 かつては、纏雷を起動することで対応したそれ。しかし、そのオーラの量、色を見ても、それの上位。どのくらい強化されたかなど、カガチには分かるはずもない。

 無論、使用したスキルが一つではないということも。


「我に刃向かったこと、今更、後悔しても遅い。懺悔の中で死に果てろ」


 勝ちを疑わない、ゴードンの言葉。

 それに、カガチは仮面の下で笑った。

 そして、準備を進めながら言葉を紡ぐ。


「残念、懺悔なんて吐くかよ」


 直後、カガチは距離を詰めた。

 縮まる彼我の距離。


「そうか──」


 それに対して、ゴードンは緩やかな動きで剣を構えた。鋒をカガチに向けた突きのような構え。

 戦闘の開始を告げた一撃のような攻撃であろう。だが、異なる点が一つ。

 今まで、彼の剣が一度、二度と光を増したことがあった。しかし今の剣は異様そのもの。今までの剣が、その刀身から光を発していたというのならば、現在は光を封じ込めているようなもの。


 透き通った刀身では、行き場を失った光が渦巻いていた。


「──ならば、あの女と共に我の糧となれ」


 そして、『それ』を解放した。

 瞬間、光が地下室に吹き荒れる。


「ぐっ………!?」


 光と煙幕が地下室を埋め尽くす。

 光に埋め尽くされた視界の中、仄かな()()が肌を刺した。

 そして、それらが収まった頃──


「所詮は雑魚か」


──そこには何もなかった。


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