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ストレンジアルカディア  作者: 東夜 空
亡き友に盃を
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初めてのフレンド

「困った困った…」


 程よい木陰で座るようにして休んだ俺は、そう零した。

 ここで俺を悩ましているのは二つの問題だ。


 森の深部までは順調に進むことができた。

 深部は俺が落ちた森とは違い、人の手の入っていない鬱蒼とした森だった。差し込む日光は茂った大小さまざまな枝葉に遮られ、仄暗い。どこか恐怖を感じるような森だった。

 そんな深部となれば、出現する敵にも変化が生じるもので、ゴブリンの他にもビックスネークというその名の通りのデカい蛇なんかが襲ってきた。ゴブリンも個々の違いはなかったが、群れるようになった。浅いところでは、多くても四体だったのだが、深部では最低でも四体。しかも、樹上からはビックスネークが隙を窺ってくる。

 難易度は、まったく違う。改めて、【隠密】スキルの凄さが分かったね。奇襲の確率が下がるというのは、それだけで生存率が上昇するというもの。パーティーで行動しているなら、多少の奇襲は目をつぶれる。だが、ソロだと致命的になりかねないのが怖いところだ。

 というか、なかったら今頃、俺は死んでるんじゃなかろうか?感謝、感謝……。


「ま、それはともかくだ」


 問題はそこではない。

 満腹度がなくなってきた。

 満腹度は戦闘に直接的には関係していないのだが、これが少ない状態だと身体が重くなり、HPとMPの自然回復が遅くなる。更にこれが無くなると徐々にHPが減っていくこととなる。まあ所謂、餓死だ。

 だから、満腹度には気をつけなければならないのだが……生憎と、街にも寄れていない身だ。アイテムボックスはゴブリンどものガラクタ、多少使えそうなビッグスネークの素材、あとは多少の採取したアイテムだけ。もしかした採取した植物ならば、満腹度を回復してくれそうであるが……毒が怖い。


「餓死は嫌だなぁ」


 いやぁ、そんなんで死ぬのは間抜けにも程がある。忘れていた自分も悪いのだが……そもそもの話。街に寄ってないから、そう言った満腹度回復アイテムを仕入れる余裕はなかった。つまり、悪いのは自由落下させたチェインということだ。


 そして、これが二つ目の問題。というか、一番重大な問題。

 街の場所が何処にあるか分からない。

 これも、原因はやはりチェインのクソ餓鬼に起因する。自由落下というスタートのせいで、自分が今何処にいるかも掴めていない。


 このままでは、当てなく森を彷徨っての餓死ルートか、得体の知れないキノコを食って死ぬルートしか無い。

 だが、天は俺を見捨ててはなかったようだ。

 木々の隙間から音が聞こえた。

 木々の擦れる音じゃない理智的な声。


「ん?」


 これはもしかして、人の声か?

微かではあるが、確かに聞こえた。ゴブリン達の声とは違う、しっかりと聞き取れる意思疎通の言葉。


「良かった、道を教えて貰おう」






 道中、ゴブリン達に見つからないように【隠密】をかけたおかげか、モンスターとの戦闘は無かった。

 微かな喋り声を頼りに見つけたのは二人の男達。


「剣士と盗賊か?」


 遠目に見た所、男二人だけのパーティーのようだ。一人は軽装に身を包み、二本の短剣を装備している。対して、もう一人は兜を除く金属鎧に身を包み、この森の中では振り難いであろう大剣を装備していた。


 そんな二人に対して、俺は近づいて行く………【隠密】を切り忘れて。


「ちょっといいか?」

「おわっ!?」


 近づいて、俺が声を掛けると、二人は驚き、武器をこちらに向ける。

 ……なんで?あ、【隠密】切るの忘れてた……!


「ま、待ってくれ!すまん!スキル切り忘れてた」

「……お前は?」


 大剣を装備した方が俺に尋ねてくる。声音は固い。それに短剣を装備したヤツは、すでに臨戦態勢に移行している。

 まあ、当然だけど、警戒しているなぁ。スキル切り忘れてたとはいえ、いきなり現れた俺はPKに見えなくもない。


「俺はカガチだ。見ての通りの初心者なんだが……道に迷ってな」

「そのようだけど……」


 説明すること数分、彼らはやっと武器を下ろした。

 実際、初心者装備であるということが大きかったのだろう。MMORPGってのは、ステータスやスキルも重要だが、それ以上に装備も重要視されるものだからな。


「悪い。最初、PKかと思っちまった」

「それはこっちが悪いよ。スキルを切り忘れてた俺が悪い」

「それで、何か用か?」

「ああ、少し街の場所を聞きたくてな」

「街の?」


 訝しむような剣士の声。

 少し間をおいて、剣士は答える。


「ここからだと……ツヴァルブか」

「は?」


 どうやら、俺は始まりの街のアインドを飛ばして次の街の近くまで来てしまったようだった。






 少しして、俺は彼らと打ち解けていた。

 盗賊はレン、剣士はソウタという名前らしい。彼等も戻るかどうかを話していたらしく、道中を共にしていた。


「まさか、上空からのスカイダイビングとはなぁ…」

「ほんとに街を選んで良かったよ」


 彼等はリアルで友人らしく、つい一週間前に始めたばかりらしい。というか、街がスタートだとあの自由落下はないらしい。

 なんでも気がついたら、街にいたんだとか。

 おそらく、俺が最初の街よりも、ツヴァルブに近い場所にいた理由の一つは森スタートであることが大きいのではないだろうか?

 今となっては、何処からスタートしたかは分からないが。


「そろそろ着くぞ」

 

 レンの言葉通り、うっすらとだが、確かに城壁が見えた。

 最初、レンは無口に思えたのだが、あれは面倒事を避けていただけらしい。彼曰く、面倒事はソウタに押し付けておけばいいのだと。話してみると思ったよりも話が合い、ソウタよりも意気投合出来た。


「ところで、このゲームを始める前は何やってたんだ?」

「んー、分かるかなぁ。『壬生狼』ってゲームなんだが……」

「……マジ?」


 おい、なんだその顔は。信じられないみたいな顔をするんじゃない。ソウタが理解出来ていないだろ?


「なんだ?そんなやばいのか?そのゲームは」

「ああ、ソウタは知らないのか。まあ……陣取りゲームなんだよ」

「陣取りゲーム?」


 まあ、簡単に言ってしまえばそうなんだよなぁ。中身がおかしいだけで……。


「タイトルのように舞台は江戸時代末期……所謂、幕末の京都なんだが…」

「陣営は新撰組と攘夷側だな」


 レンの説明に少し、説明を挟む。

 問題は舞台や陣営じゃないんだよなぁ。単に、プレイヤーが、ね?


「あれはまあ、色々と酷いんだよ………」

「具体的に?」

「たとえば、ゲーム性」

「ゲーム性って……クソゲーってことか?」


 クソゲー……まあ、そうなんだけども。そうじゃないというか……表しにくいな。


「オンラインとオフラインで勝手が違い過ぎるんだよ」


 うんうんと首を縦に振るレンを視界に収めながら、頭に疑問符が浮かんでそうなソウタに説明を足す。


「たとえば、オフライン。この点において、壬生狼というゲームは評判がいい。ジャンルとしては……まあ、無双系だ。

内容としては新撰組と攘夷側の主要メンバーを選択して、その人のことを追体験するような感じで進めていくんだ。特に、この点で評判が良くてな。なんでも、史実に忠実に再現されているんだと」

「それだけ聞くと、普通に良ゲーだな」


 まあ、それで終わらなかったんだよなぁ。何をとち狂えば、オンラインがああなるのか……


「それに対して……オンラインの視点は雑兵だ」

「え?」

「だから、オフラインが偉人という雑兵に対して一騎当千の力を持つ人間なら、オフラインはその逆だ。無双などとは、程遠いんだ」


 どうやら、レンもかなりやられた口であるらしい。何処か哀愁が漂っていた。

 わかる、わかるぜ、その気持ち。あの時は馬鹿かよって思わずにはいられなかったからな。


「まあ、それでも楽しいには楽しいんだけどな」

「…………!?」


 嘘は言ってないぞ。まあ、何事もやり続ければ楽しみは生まれるからな。どうやら、ソウタはピンっときてないみたいだが。

 これに関しては、体験した方が早いからなぁ。


「突き詰めれば、さっき言ったように陣取りゲームだよ。ただ、レイドボスがうろちょろしてるけど……」

「……オフラインはやってみるわ。オンラインは、その話を聞いた限りやりたくない」


 うん。それは正しい判断だと思う。【壬生狼】をやってる奴らは、可笑しい方向に吹っ切れてると言うか螺子が外れていると言うか……まあ、慣れれば楽しいぞ?


「お。着いたぞ」


 話を切り上げて見れば、巨大な門が口を開けていた。左右では衛兵が見張っている。


「これって何時閉まるんだ?」

「夕方の鐘が鳴ったら閉まるぞ。閉まるとはいっても、衛兵に言えば外には出れる」

「それは安全なのか?」

「そう思うよな。衛兵が言うには、大体の犯罪者は顔写真が出回っているから、顔を見れば分かるらしい」

「スキルで姿を変えていても衛兵達は高レベルの【看破】持ちだからな。大丈夫らしいよ」


 成程。そういう事か。門は犯罪者などよりもモンスターから守る役割の方が大きいのか。


「ああ。知っているかもしれないがNPCには気をつけろよ。間違って殺したら……」

「分かってる。二度と生き返りはしないだろ?」

「それもそうだが、賞金首にもなるからな。賞金首に成ってキルされたら()()行きだ。気をつけろよ」

「ああ、ありがとう」

「じゃあな」


 こちらもじゃあ、と言って別れる。互いにフレンド登録は済ましてある。だから連絡は取れるのだが、それでも少し寂しいな。


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