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ストレンジアルカディア  作者: 東夜 空
亡き友に盃を
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彼岸にいるあなたへ 9


 計画当日。

 俺とウォルターの姿は、フィーエルの城壁の上にあった。眼下に広がるフィーエルの街は、夜ということもあって街が眠っているように静かだった。

 ハクロは連れて来ていない。今まで無茶をして来たが、流石に今回のように分かっている死地に連れては来れない。

 そんなことを考えながら、ぼんやりと街を眺めているとウォルターから何かを渡された。


「はい、グラーフから」


 そう言って、ウォルターから渡されたのは……仮面?

 見たところピエロの仮面だ。


「顔バレすると面倒だからって。それに隠蔽も付与されているらしいから、『鑑定』系のスキルもある程度防げるってさ」


 まあ、それは分かる。と言うか有難い。

 だが………


「なんでピエロ?」

「さあ……?グラーフからの、君達は私の掌で踊る道化、って言うメッセージじゃない?」

「………性格悪っ」


 アイツめ。せめて、狐面とか持ってこいよ。そっちの方がカッコいいから。

 だが、道化の仮面っていうのも中々………。


「それじゃ、俺達は仮名でも使うか?」

「いいねそれ」

「そうだな………俺がクラウン、お前がオーギュスト。グラーフは……ジョーカーでいいだろ」


 全部、道化に関する言葉だ。まあ、グラーフに関しては含むところもあるが。

 ジョーカーとは最強とも最弱ともなり得るカードだ。そう言う意味では、アイツにピッタリだと思う。

 少しの間、何やら考え込んでいたウォルターが口を開く。


「グラーフは……ババだからジョーカー?」

「……それは黙ってろよ。言ったら命がなくなるからな」

「分かってるよ」


 ……本当に言わないだろうな?

 ちょっとした意趣返しだが……本人には他意はなかったと主張しなければならない。いざとなったら、ウォルターに擦りつけるか。

 そんな戯言を交わしていると、グラーフから渡された通信機のようなものが振動した。

 それが合図。どういう手を使ったのかは知らないが、この時点で大半のプレイヤーは倒されているらしい。


「さてと、行きますか」

「おう」






「なんというか、もぬけの殻だな」


 伯爵の館からは、住人がいないように思えるほど何も聞こえなかった。

 時刻は、確かに皆が眠るほどの深夜。だが、館にいる全員が眠っているなんてことはないだろう。

 起きていなければならない門番でさえも、寝ていた。いや、状況から見れば、グラーフのやつが何らかの手段で眠らせたんだろう。

 だから、まあ………周囲に気を配る必要がないってのは楽だ。


「さて……目的は書類の確保だな?」

「そうそう。で、その確保のためには三人を倒すのが不可欠らしいね」

「だけど、その内の二人はグラーフが呼び出していて、俺の相手が現在、書類を守っているって話だった……はず」

「うん、それでよかったはず」


 そんな感じで話していると、階段が見えた。


「負けるなよ?」

「誰に物言ってんだ、負けねぇよ」

「それじゃあ、また」

「ああ、後でな」


 その言葉を最後にウォルターと別れた。

 アイツは階段を登って行って、俺はそのまま直進する。

 アイツと別れて、一分ほどで目的地に着いた。一見すると、変哲もない廊下。だが、グラーフによると、そこに隠し扉があるらしい。


「確か……ここと、あそこ、それと……あれか」


 規則正しく並んでいた燭台の内の一つを捻って、飾られた絵画の裏にあった仕組みを弄る。

 そして、僅かな振動の後、廊下の壁が開き、その通路を露わにした。

 現れた通路は階段だった。

 かなりの頻度で使われていることもあってか、埃や蜘蛛の巣が張られているようなことはない。

 その狭い階段を、カツンカツンと音を鳴らして下っていく。

 あの振動で、中にいる敵も分かっているはずだ。誰か来る、と。ならば、隠す必要はない。


「今のうちに準備を整えておくか」


 階段を下りながら、アイテムボックスからアイテムを取り出して使用していく。

 アイテムは、強化アイテム。まあ、ドーピングだ。そりゃあ、レベル99なんて相手と戦うんだ。それ相応の準備というものが必要だろう。


「あー、これどうするかなぁ」


 色々とアイテムを使っていく中で、一つ躊躇するものがあった。

 グラーフが調達したものではない。ハクロから渡された物だ。だが、あの実験で作りたかったものではない。いわば副産物。思いもよらぬ物だった。


「使わないで負けた、なんてことは嫌だな」


 使っておくか。

 注射器、なんて言うものはない。あの実験の時と同じく、ニードルビーの短剣を突き刺して体内へと注入する。


「………ッ」


 身体が熱いだとか、動悸がするとかはない。

 ただ、皮膚を這い回るような不快感が左腕から伝わってくる。

 それを無視して、呪印を封印している拘束具を取り外した。

 昨日見た時までは、手首から少し上ほどまで刻まれていた呪印。だが、今はそれより上。いや、現在進行形で伸び続けている。

 あのアイテムは呪印活性剤。その名の通り、呪印を強制的に成長させる物だ。一時的ではある。だが、呪印の強化も侮れないもの。


「相変わらず、気持ち悪い感触だ」


 呪印が成長するとき、腕を這いずるような、蠢くような感触がする。特に今は強い。だが、レベリング中にも、この感触はしていた。

 まあ、今と比べると随分と弱かったけど。

 そんな呪印活性剤を使用した後。

 仄暗い階段に光差し込む出口。それを見据える。


「さて、と。そろそろ、ご対面と行こうか」





 地下室というには明るい部屋で一人、男が佇んでいた。男は黒甲冑を纏っており、腰には水晶の如き剣を佩いている。


「む?」


 地下室に居ても、地下室へと続く階段の扉が開く音は十分に聞こえる。だから、彼がそれに気が付いたのも自然なことであった。


「この時間………伯爵か?」


 今は皆が眠りにつく時間。だからこそ、誰かに見られることはない。そのため、伯爵がこの時間帯に訪れることは何度かあった。

 カツン、カツン、と足音を響かせて階段を下りてくる。それが徐々に大きくなって来た頃、それは突如として止んだ。


「?」


 男には、何故止まったなど分からない。

 下りてくる人物が伯爵だと思っている彼には、よもや自らを打ち倒しに来たプレイヤーがその準備を整えているなど思いもしないのだから。


「……………」


 だが、彼も不審に思う。

 伯爵がなんらかの理由で立ち止まったとしても長過ぎた。少なくとも、下りるか戻るかその二つの選択をするはずである。そのため、足音がしないということはない。

 だから、伯爵以外の人物。可能性が高いのは、仲間の二人。何らかの事情があって、ログアウトしたのか。


「………………」


 それがどうであれ、彼は一度抱いた不信感を捨て去ることはない。

 むしろ、不信感は増すばかりであった。


「!」


 再び足音が響き始める。

 一度、二度、三度。徐々に大きくなっていく足音。

 そして、その男が姿を現した。

 伯爵でも、仲間の二人ではない見知らぬ男。


「なんだ、貴様は?」


 口から出た言葉には困惑があった。

 下りて来たのは、和装の男。腰に刀を佩いていて、羽織から覗かせる左腕には奇妙な刻印。だが、最も目に付くのはその仮面。白い肌に、赤い塗料で描かれた模様。それからはホラー映画に登場するようなピエロのような恐怖はない。ただ、滑稽な道化の仮面。

その道化が、ゆっくりと口を開いた。


「見て分からないか?ただの滑稽な道化だよ」


 そうして、一つの戦いの火蓋が切って落とされた。



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