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ストレンジアルカディア  作者: 東夜 空
亡き友に盃を
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彼岸にいるあなたへ6


「………行かないの?」


 佩いた刀の状態を見て、絶対に怒られるだろうと言う予感がビシビシ伝わってくる。確率としては、90%くらいか。残りの10%は天変地異が起こる可能性。いや、10%は高過ぎるか?


「ええい、ままよ!!」


 そんな思考は彼方に捨て去って、思い切って店に入る。


「だから!父さんには関係ないって言ってるだろ!」

「俺は、ただお前を──」

「いいから!出てって!!」


 店に入って来た瞬間、耳に響いた怒声。少しして、ヒョウベエのオッサンがとぼとぼと奥から出て来た。


「……ああ、お前さんか」


 余程、落ち込んでいるのか声が沈んでいた。

 まあ、何があったかは予想がついてる。


「俺に任せときな。こう言うのは、若い奴の方が力になれるってもんだ」

「………お願いしてもいいか?」

「勿論だ」


 絞り出したような願いに、迷う事なく、力強く肯定する。


「次に会う時にゃ、朗らかになってるはずさ」

「はは、そりゃあ頼もしい」


 当たり前だ。ヒイロの調子が悪いんじゃ、俺にも被害が及ぶんでな。

 ヒョウベエのオッサンが、店から出て行くのを見送って、店の奥にいるヒイロの所に行く。


「よう、派手に喧嘩してたな」

「……ああ、君か。恥ずかしいところを見られた」

「まあ、伸び悩んでいるってところか」


 この事は、ヒョウベエのオッサンから聞いていた。まあ、ヒョウベエのオッサンのことだ。今回の喧嘩だって、子を心配していたに違いない。


「ッ!?……ああ、父さんから聞いたんだな」

「まあな。余計なことだったか?」

「いや、それは事実だよ。最近、どうも渾身の出来というか、思い通りの刀ができなくてね」


 何というか、ヒイロからは焦りを感じる。何か期日でも迫っているのか、それとも自分の至らなさに焦っているのか知らないが、焦燥に駆られても悪循環に嵌るだけだ。


「自分の至らなさが原因なのは分かっているけど、父さんに心配されるのは嫌なんだ」

「それが親心ってもんだろ」

「それは、分かってるんだけどね。つい、言われれるとカッとなっちゃうんだよ」


 ああ、思春期特有の……そこに、鍛治師としてのプライドと……


「それに、何時も父さんと比べられている気がしてね。父さんは誰からも頼りにされるから……」

「その息子であるお前にも、重圧があるのか」


 ………父親への劣等感。

 それが絡み合って、親子の不和を生んでいるのか。

 だが………


「それを解決する手が一つ」

「……それは?」


 ヒイロが縋るような目をした。


「お前が成長すればいい」

「……そんなに簡単に成長出来たら苦労はしてないよ」


 そりゃあそうだな。だが、成長しなければならないのも事実。今のままでいいのなら、ヒイロは悩んでなどいないのだから。

 俺に鍛冶の経験はないし、まともなアドバイスも出来ない。出来ることと言えば……


「お前に鍛治だけに専念させてやる。必要な素材が有れば採って来てやる。いつまでもグジグジ悩むよりはいいだろ?」

「た、確かにそうだけど……」

「俺としても、お前の腕が良くなるのは嬉しいんだ。もし、負い目を感じるなら、一番良い刀を作ってくれればいいからさ」


 その言葉と共に手を差し出す。

 なんだかんだ言って、自分で背負うよりも誰かと共有した方が楽になることだってある。ヒョウベエのオッサンに頼らないなら、俺が手伝ってやる。


 少しの逡巡の後に、ヒイロは手を取った。


 さあ、始めようか「ヒイロ育成プロジェクト」を……ッ!!




「な、なんで俺まで……」

「グチグチ言うなや。お前の幼馴染のためだ。お前が、協力しなくてどうする」

「うぐっ…… 」


 俺の言葉に反論出来ないのか、セイカは言葉を詰まらせた。

 そもそも、お前は「ヒイロ育成プロジェクト」に必要なんだ。


「巡り回って、お前のためでもあるんだぞ?」

「え?」

「ヒイロの腕が上がれば、より良い刀を作って貰えるはずだ。お前も良い刀を使いたいだろ?」

「ま、まあ……それはあるにはあるが……」

「友も救えて、自らの為にもなる。これ以上、何が必要なんだ?」

「そ、それは………」


 なんて言う勧誘があって、セイカも協力することに。


「それじゃ、必要な物を言ってくれ……大抵、取ってこよう」


 育成するならこれに限ろう。

 兎に角作る。流石に闇雲というのはダメだが、真剣にやれば最も効率の良いのはこれだ。

 数打つ中で得れるものもあれば、真剣に打った一振りから得られるものもある。


「それじゃあ────」


 こうして、「ヒイロ育成プロジェクト」は幕を開けた。





一部抜粋。


──ドライトのある鉱山


「はぁはぁ………まだ出ねぇのか!?」


 ミスリル、未だ出ず。

 アストルム鉱石、二つ。

 アルカルムマナ結晶、四つ。

 ラリムメナ宝石、四つ。

 スーエルム鉱石、未だ出ず。




──エバーテイル、白鷺洞窟。


「眼を寄越せぇ!」


精霊眼蝙蝠(エレメンタルバット)の瞳。

 赤色、一個。青色、二個。黄色、二個。白色、三個。黒色、一個。







「で、出来た!」


 紆余曲折を経て、四日後。現実では二日。

 俺もそうだし、セイカも、ヒイロは言わずもがな疲労困憊。この四日間、ヒイロはとにかく刀を打っていた。一言も発さず打っていた時もあれば、鬱憤を晴らすように、ため込んだものを吐き出すように打ったこともあった。使っているところを見たいと言われ、俺とセイカが戦わされたこともあり……非常に濃い四日間だった。


「見てくれ」


 あっち行ったり、こっち来たりを繰り返して、寝る間を惜しんで作られた刀を見る。

 美しい刃紋。繊細さの中に力強さを感じる刀身。薄ら黄色の混じった刀は、一種の芸術品のようであった。


「銘は雷光。君が無茶な(・・・)使い方しても壊れず、それどころか増幅してくれる刀だ」


 無茶な、とは刀に雷を流し込んだことを言っているのだろう。それも、雷を増幅してくれるというのは嬉しい話だ。


「手に取って見ても?」

「ああ」


── 雷光 ──

 エバーテイルの鍛治師ヒイロが、己が全てを尽くして打った刀。自らの未熟さを、友人の優しさを、その全てを込めて打たれた刀。

 故に、彼がそれを忘れなければ何度でもこの刀は蘇ろう。

・雷属性増幅

・雷操作補助


 もしかしなくても、これはかなり使えるのではないか?


「ちょっと、驚かすかもしれん。ハクロも離れていてくれ」

「あ、ああ」

「へ?う、うん」


 纏雷を起動する。現在の最小。それでも、初期と比べるとかなり強いが………ビンゴ。

 やっぱり、増幅されている。

 それに………


「ふっ」


 刀の鋒で、小さく雷を溜めることが出来た。どうも、雷自体の操作も補助してくれるらしい。

 とは言え、それは一部であるらしい。特に、雷増幅。一度、意識して『雷光』に雷を流し込んだが………比じゃないほど増幅されていた。

 強力には強力だが、MP消費が激しいし、何よりも増幅され過ぎると操作が効かなくなる。まあ、敵の体内に流し込むのなら、遠慮はいらないんだろうけど。


「ありがとう、良い刀だ」

「いや、礼を言いたいのはこっちだよ。君たちのお陰で、僕は未熟な自分を受け入れられた気がする。だけど……父さんに誇れるようになるのは、まだまだ先そうだ」

「うん、そこら辺は親子の勝手だから強く言わないけど……そこそこにな」


 お前は良いかも知れんが、ヒョウベエのオッサンが塞ぎ込んでしまいそうで心配だ。


「ところで、セイカは?」

「疲れたから休むだと。何でも、明日は全体訓練があるんらしくて」

「ああ、もうそんな時期か」

「うん?」


 何かあるのか?

 ヒイロは少し逡巡した後に、話してくれた。


「武闘大会があるんだよ。国一番の戦士を競うね。君は出れるかは分からないけど、出たいならヤト様に話してみたら?」

「まあ、気分が向いたらな」


 正直、今の俺は武闘大会なんぞに気を取られている暇がないんだよ。だって、例の作戦決行まで残り三日しかないわけで……それがレベリングやら金策で埋められるからな。


「その様子じゃ、出ないようだね。それじゃあ、一緒にセイカの応援でもしようか」

「それも良さそうだ」


 そんな話をして、ヒイロとは別れた。



 後日談ではあるが、ヒイロはセイカにも刀を作ったらしい。何でも、武闘大会での活躍を期待していると、プレッシャーを掛けながら渡したそうな。

 また、ヒョウベエのオッサンにも刃物を作ってあげたそうだ。刀ではなく、果物ナイフのようなものだったらしい。

 理由を聞けば、刀は父さんに誇れるようになってから渡すのだ、と。



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