彼岸にいるあなたへ 5
翌日。
「こっち、こっちー」
ハクロの案内で、エバーテイルの街中を歩いていた。
歩くこと約十分ほど。蛇帝殿からそれほど離れていない場所にある呉服屋。繁盛しているようで、老若男女問わず多くの鬼人が訪れている呉服屋。流石は、蛇帝御用達の店だ。
そう呉服屋だ。そろそろ、初心者装備から脱却したいなぁ、なんて思っていたところに都合よく糸が手に入ったものだから、装備の依頼に来たのだ。
そんな中に入って、店員の一人に声を掛ける。
「あのー、すみません」
「はい?」
「オーダーメイドをお願──」
「ひえっ!?」
おい、何があったんだ?人の顔を見るなり、走り去りやがって。
周りをぐるりと見渡せば、いつの間にか注目の的。ヒソヒソ、ガヤガヤと微妙に内容が聞こえて来る。
「ねぇ、見た?」
「ああ、やっぱ人間って野蛮だ」
「何で居るのかしら」
うーむ、祖先代々伝わってきた人間の悪行が糸を引いている気がする。身の回りの鬼人は、そんなこと気にしないような奴らばかりだったからなぁ。
「……どうしようか?」
「ラ、ランならきっと……」
ハクロが弱弱しく云った。
ラン……確か、この呉服屋の店長だっけか。
その腕は、エバーテイル随一なんだとか。
「そう言われてもなぁ……」
何というか、営業妨害している感が半端ない。最早、俺の周りをぐるりと取り囲んで、憎悪の視線やら、珍獣を見るような視線やら、ハクロを見て涙を流している奴もいる。
「………後ろから刺されそうだな」
「別に死なないでしょ」
そうなんだけどさ?
憎悪とかが原因で刺されるのは怖えよ。それに死なないからいいって話でもないんだよ。
「お前さ、死なないから何されても良いっていうもんじゃねぇぞ?」
「え?」
「確かにモンスター相手なら別に良いよ。でも、人相手にそれをやっても良いというわけじゃないぞ?」
人というのは面倒臭いのだ。タチの悪い奴は、こじつけて来るしな。特にこういうゲームでは、人間様々な物を抱えていたりする物だ。キルして、ドロップした物を返して、それで済むようなことは少ない。何かしらのクエスト中であったりする訳だからな。
「まあ、俺はあまり気にしないからな」
サクッとキルし返して終わりだ。友人である伯爵様と違ってな。アイツ、下手したら粘着するからなぁ……なんで知ってるかって?経験談だよ。
PKが許されている以上、それもプレイというかシナリオの一部として楽しみべきだ。いちいち粘着なんぞ、面倒くさい。
流石に「壬生浪」だと、そんなこと考えると馬鹿馬鹿しいレベルだ。誰かにキルされても、次の瞬間にはソイツがキルされてる。正に諸行無常よ。
「おい!!」
「それじゃ、次の実験に付き合ってよ。丁度、被験者探してたんだ」
「いいが、呪いの実験だろ?俺には無理だと思うんだが……」
特に呪印の関係でな。あれ、呪いを弾くんだろ?
「大丈夫、大丈夫。それ込みの実験だから」
「おい!!聞いているのか!!」
「なら良いんだが……ん?」
当初の話なら随分と逸れたような会話をしながら気が付いた。
ガヤガヤと騒いでいた客がシンッと静まり返っていて、俺たちの周りには一人、無駄に煩い鬼人が。
「誰だお前?」
「なっ──!?」
「カガチ、アレだよ。ホクロクのバカ息子」
ああ、例の。確か、ヒョウベエのオッサンが言っていた………オレに突っかかって来る可能性のあるっていう。
「よく聞け!オレ様は──」
「んじゃ、アレが本来、呪印を授かる予定だった?」
「さぁ?あまり興味なかったから。その時には、呪術のことか、抜き出す方法に没頭していたから」
「ふぅーん」
事情を把握している雰囲気のハクロだが、それと同時に話すのが面倒臭いという雰囲気も漏れ出ている。
まあ、聞きたいことは聞けたので、バカ息子の方を向いてやる。
「それで、誰だっけ?」
「酷っ」
何やら叫んでいたような気もするが、聞いてなかったからノーカンで。
「ッ〜〜!!決闘だッ!」
「おやめください!後継様!」
「煩いッ!」
おーおー、なんだか揉めてるなぁ。
まあ、決闘というならそれならそれで。だって、シンプルで好きだしな。
「関係ないという顔してるけど、元凶は君だからね?」
「ハッハハハ、一番の元凶だろ。お前は」
「うぐっ!?ま、まあ、若気の至りだよ」
おい、一ヶ月経ってないぞ?
若気の至りというには、早すぎるだろ。
さぁて、どうするか……と考え始めたところに、凛ッとした声が響いた。
「止めな!!これ以上騒ぐなら、ただじゃ置かないよ!」
「ん?」
「あ、ランだ」
ほー、アレが。
店の奥から出てきた人物。紅の羽織を着た何とも剛毅な女性。賭場を仕切っていそうな女性がランらしい。その側には、先程逃げていった店員がいた。
ああ、店長を呼びに行っていたのか。
「特にそこのバカ!」
「バッ………!?」
指差しで言われたバカ息子が、狼狽え、みるみると顔を赤くしていく。
「なぁ、仲悪いのか?」
「悪いよ。あのバカ息子というより、ホクロク達と仲が悪いんだ。何しろ、ランの家はシュジャク家だからね」
「なんぞそれ?」
「ああ、シュジャク家って言うのは──」
まあ、何となくまとめるとこういうことらしい。
シュジャク家とは、エバーテイル建国時からある名家らしく、義に厚く、忠を尊ぶ家なのだと。
ただ、ホクロク達とは犬猿の仲らしく、権力争いを繰り返しているらしい。
当然、その生まれであるランも例に漏れず、ホクロク達を毛嫌いしているのだと言う。
「ほー、何処に行っても権力争いはあるのね」
「ま、そんなところだよ」
………ん?待てよ。俺って、王国の権力争いというか厄介ごとに足を突っ込んでいるよな。
嘘だろ。王国とエバーテイルの権力争いに巻き込まれようとしているのは、流石に面倒だろ。
どうやら、そんな話をしている間にバカ息子とランの怒鳴り合いは止んだようで、ランが近くに来ていた。
「来な。アンタは目立ち過ぎる」
ビッ、と親指で差された店内へと案内される。ランの他に、先程の店員も一緒だ。
「さて、アンタのことは聞いてるよ。有名人だからね」
「そりゃあ、どうも」
「私はアンタのことを好いてるんだ。何せ、あのいけ好かないホクロクの鼻を明かしたんだ。大抵のことなら、聞いてやるよ」
おお、それなら話は早い。
「それじゃ、オーダーメイドを頼みたい。素材はこれで」
アイテムボックスから取り出したのは、あの大蜘蛛の糸。コイツは、試したところ素晴らしい一品であった。なにせ、耐久性良し、耐刃性良し、耐火性良しの三拍子!まあ、試せたのがそのくらいということもあるが……
「これは……変異種のものか。ああ、素晴らしいね。で?どう言った物にして欲しい?」
「取り敢えずは、動き易い物にしてくれ。袴だとかでもいい。それと……出来れば袖を開けてくれ」
「そりゃまた?」
「こういう事だ」
袖から、ハクロが顔を出す。
いつからか、ハクロ専用になってしまった袖だ。……何がいいのか理解できないが。
「アッハハハ!!成程、ハクロ様のためかい!良し、分かった。私の名にかけて、最高の物を作ってやるよ」
「代金は?」
「現物を渡す時で良いよ」
「了解した」
そこで話は終わった。
席を立って、部屋から出ようとするが、ランに呼び止められた。
「アンタは裏口から出な。表から出られると、また騒がれる。それじゃあ、商売にならんからね」
「ありがとう」
「礼なんていい。こんなものは、自分のためだからね。ハナノ、案内してやりな」
「分かりました」
美しく一礼を行う店員。
どうやら、逃げた、もといランを呼びに行ったであろう店員の名前はハナノと言うらしかった。
そのハナノについて行く。その途中、ハナノがゆっくりと口を開いた。
「さっきはごめんなさい。驚いてしまって」
「いや、仕方ないと思うよ。俺みたいな人間は、見ないだろうし……色々と複雑だろうから」
鬼人達は人間に迫害されていたところを、蛇帝ヤトに助けられたというのがエバーテイルの始まりであるらしい。当然、人間に思うところもあるのだろう。
「いえ、そういうことじゃないんですよ。ラン様から色々と聞かされていまして………御伽噺の主人公みたいだったのですから」
「………一体、どんな話をしたのさ、ランは」
袖から聞こえてきた声に、心から同意する。
ランが知っていることは、おそらくエバーテイルでの出来事だろうが………セイカと戦って、武器のためにニードルビーと戦って、成り行きで女王倒して………このくらい?
全然、御伽噺めいたことはないと思うが……
「着きましたよ」
「ん?ああ、ありがとう」
「では、貴方の話を聞けるように期待していますね」
「ははっ、程々に頑張るよ」
そんな会話を交わして、呉服屋から出た。
店を出ると、普通の通りが広がっていた。そこには、表のような騒ぎもない。
「さて、ハクロ。ここから、ヒイロの店は?」
まあ、これで装備に対しては目処がだった。
だが、武器の方も深刻だ。
あの大蜘蛛との戦闘で、刀が壊れたというか、歪んだ。原因としては、やはり雷を流したためだろう。あと、刀を支えにしてしがみ付いていたってのもあるな。
などという理由があって、ヒイロの店に行かなければならないのだ。
「んーっと、こっちかなぁ」
「了解」
……軽く三十分は迷った。
ハクロ君さぁ……
バカ息子の思考。
なんか騒がしい。
↓
見れば、自らの栄光を奪った男が。
↓
周りからも嫌われてるし、ここで何か言えば、民衆の支持を得られるかも!!




