彼岸にいるあなたへ 2
「魔女の林檎亭」というNPCカフェ。名前からして、毒林檎が出てきそうだが………大丈夫なのか?
その中をNPCに、ある個室まで案内された。この中で、待つはクソッタレな我が友人共。問題は……俺が遅刻しているってところだ。まあ、言い訳させてもらうと、ライガの考察で忘れていましたね。ええ、はい。
とは言え、ここでうだうだと悩んでいてはさらに時間が流れてしまうだけだ。
ええいままよ!とドアを開いた。その中では、予想通り二人がいた。余程、暇だったのか、テーブルの上には空になった皿が積み重なっていた。
グラーフはケーキにパイ、ウォルターは肉料理と清々しいほど好物を食べてやがる。というか、味はするのか……?
「遅いっ!何分過ぎてると思ってるんですかぁ!?」
「そうだ、そうだー」
方や、言葉こそキツい物だが、その顔や言葉の端々に嘲りが見える。方や、同調するような言葉だが、手に持ったナイフとフォークを、駄々をこねる子供のように、テーブルに叩きつけ囃し立てる。
「ちょっと、ちょっとぉ?何分、オーバーですかぁ?」
「そうだぞー、俺らは五分前にはしっかりいたぞー」
「そうそう。私なんて、三十分前には此処にいたんだぞー」
「あー、ハイハイ。悪かったって、ちょっとやる事が多くてな」
「そんな言い訳は聞きたくないんだよぉ?」
そこで、パンッと、柏手が鳴った。
ウォルターが床を指さす。
……この野郎め。謝れと?しかも、土下座……やるか?
俺が鯉口を鳴らしそうになったところで、グラーフがパンっと手を叩いた。
「んじゃ、そろそろ本題に入ろうか」
ほれ、座ってと、柏手を鳴らしたグラーフの言葉に従って座る。
そうして、彼女からテーブルを滑るようにして、俺とウォルターに、一枚ずつ紙が渡される。
「それは、君達に戦って欲しい相手さ」
「前に言ってた三人か?」
「そうそう。カガチが一人、ウォルターが二人の計三人」
うん?それだと、俺がウォルターより弱いってことに……
ウォルターが、ゆったりとした動きで此方を見て……ハンッと鼻で笑った。
ほぼ無意識的に近くにあったナイフとフォークを投擲。
「あっ、手が滑った!」
「ちょっ!?」
ちっ、当たらなかったか。潔く死んでおけば良いものを……
「君達、仲良いねぇ。まあ、安心して欲しいよ。多分、カガチの方が相手は強いから」
「うぉッ!?」
途端に投げられるナイフ。
くそっ、ニヤニヤしてるだけで投げてくるとは………
「まあ、これはどっちが強いからって訳じゃないから。どちらかといえば、相性だよ」
「それを早く言え、早く!」
こいつめ……俺らを囃し立てたな?
「とりあえず、渡した紙を見てよ」
「これは?」
「何これ?」
「君達に戦って貰う相手」
ふむ。
名前は……ゴードン。武器は直剣。レベルは……99。
レベルカンストってところか。頭打ちまでは鍛えている、と。
そのほかにも戦闘スタイルなど書いてあるが……まあ、
「無理でしょ」
「無理だと思う」
どうやら、俺とウォルター、二人とも同じ意見のようだ。
「まあまあ、これが倒せるんだなぁ。まずまずの話だけど、こいつは倒せないって言うのはどういう相手だと思う?」
「目で追えず、防御不可」
「不意打ちも余裕で対応してくる奴」
「………それは化け物でしょ?」
俺に関しては、ライガというのが存在してるんだよなぁ。ウォルターのは知らん。だが、アイツの口振りというからして、存在してるんだよな。それも、多分リアルに。
「ごほんっ。それじゃ、聞くけどそいつらはそんな奴らかい?」
「違うけどさぁ」
「多分、違うと思う」
こいつは、レベル差を忘れてるんじゃないか?
それに、スキルレベルとスキル量も。
「まあ、君たちは絶対に勝てるよ。特にウォルターはね」
「………俺は?」
「カガチなら多分勝てると思うけど………確実じゃない。そのためのレベリングだよ。少なくとも、同じレベルなら君は絶対に負けない」
「その根拠は?」
「戦えば分かると思うよ」
へぇ、戦えば分かるねぇ。
じゃあ、楽しみにしておこうかな。
「それで、他には?」
「そうだね、もう少し補足しておくかな。特にカガチが勝てる理由だけど……カガチ、君のステ振りが偏っているからだよ」
どうして、それを……と思ったが、何かしらステータスを見られるようなスキルでもあるのだろう。流石に無条件だとか、スキルまで見られるとは思えない。まあ、それにグラーフとはそれなりのレベル差があるからな。それも関係しているんだろう。
「君はレベル差、レベル差言うけどね。君のSTR、AGIは高レベルのプレイヤーにも十分に通じるよ。普通、もっとバランスよく鍛えるからね」
「なるほどね。ステ振りの歪さが、有利に働いているってことか」
「まあ、そういうこと」
グラーフの言葉には、それなりの説得力があった。
言われてみれば、フィーエルでもなんとか逃げ切れたわけだし……STRとAGIは競り合える最低限はあるのだろう。とはいえ、VITが死んでいるんだ。一撃でも喰らえば、死にかねない。
「話はこんな感じ。何か聞きたいことはある?」
「別に」
「何も」
「じゃ、しっかりとそれ読んでおいてね。後、レベルは最低でも65は必要かなぁ。あ、ちょっと待って」
……全然、終われんじゃん。計画性皆無かよ。
む、ごほん。これ以上は辞めておくか。具体的には、グラーフがナイフを持ち始めた。
マジでアイツ、テレパシーとか持ってない?他人の頭の中、覗く系のやつ。それとも、単純に俺が分かり易いだけか?
「カガチ、カガチ」
「ん?」
「君って、毒物結構持ってるよね?今、持ってる中で一番のものは?」
「一番って言うと………これか」
取り出したるはハクロ製の壊毒。
まあ、ハクロのやつしか持ってないんだが。
「………君さ、何処でこれを手に入れたの?」
どうやら、あれはグラーフから見ても異様なものだったらしい。表情にこそ現れていないが、声音の端々に驚きが漏れていた。
「んー、企業秘密で」
今のうちは独占しておきたい。いずれ、誰かが呪印を得るようなことがあれば、バレるかもだが………七帝に繋がるような情報は秘匿しておくに限る。
「まあ、それならそれで……どのくらい手に入れられそう?」
「……時間さえ有ればかなり手に入ると思う」
これに関しては推測しか言えない。特に、ハクロの気分によるものが大きいからな。アイツ、嫌な時は絶対にくれないもん。
「それって凄いの?」
一人、会話に混ざれなかったウォルター。ここで、お前は知らなくていいんだよ、バーカ、なんて言うほど俺たちは腐っていない。というか、こいつも知っておいた方がいいだろ。
俺とグラーフでアイコンタクトをかわして、やれやれという風にグラーフが説明し始めた。
「────って訳。おーけ?」
「つまりは、部位破壊の毒って感じ?」
「ああ、そんな感じ。まあ、凶悪なのはそこじゃないんだけどね」
説明としては、前にハクロにされたのと同じようなものだった。
ニヤニヤとしたグラーフの笑みが深まる。
「このゲームのシステムとして、状態異常の耐性というのはさ、レベルには左右されないの。基本的にスキルと装備によって耐性を上げる訳なんだけど………問題、最も対策されていない状態異常とは?」
俺としては、あの毒がどのようなものかは、ハクロから三回くらい聞いているから、何が凶悪なのかは分かっている。
ウォルターが足りない情報を頭で整理して、答えを導き出そうと百面相し始めて一分ほど。
「………壊毒?」
「違いまーす。それは毒耐性でなんとか出来るんですー。答えを言うと呪いなの」
うん、知ってた。
ただ、なんで呪いが耐性されないかって言う話は分からん。
「そもそもの話ね。呪い関係が少ないってのもあるし、何よりも装備品で対策出来て、その時にだけ必要だからねぇ」
「ああ、なるほど。わざわざスキル取るまでもないってことか」
「そうそう。それに、呪いを使ってくる敵なんて少ないからね。スキルを取ってもまで対策をするプレイヤーは少ないんだよ。基本、呪いの対策はアイテムや装備だけ。つまり、呪いを素に作られているこの毒は刺さる」
そこまで言われればウォルターも気付いたようだった。
「つまり、切り札になるってこと?」
「そうそう。何処で手に入れたかは知らないけどねぇ?」
「こっち見んな!」
絶対、教えないからな。とは言いつつ、こっちの対応やら言葉やら顔から情報が抜き取られている気がする……
「ま、これはカガチよりウォルターかな。これが有れば、君なら一撃で殺せると思うよ。逆に言えば、それを外したら終わり?」
うわっ……ウォルター可哀想に。まだ、俺の方が楽かも……いや、多分そんなことないな。一撃で決められる分、あっちの方が楽そうだ。
「んー、まあこのくらい?なんかある?」
「無し」
「同じく」
「んじゃ、解散ー。各々、レベリングしておいてね」
そうして、解散となった。




