表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ストレンジアルカディア  作者: 東夜 空
亡き友に盃を
30/104

紅月の夜に

「むむむ……」


 王都ローレルの何処かも分からない路地裏。

 そこで、俺は頭を悩ましていた。


「地図、買って来れば良かった……」


 だが、今更後悔しても遅い。

 既に俺たちは迷ってしまったのだから………。


「だから、言ったじゃん!辞めようって!」

「どの口で言うんだ、どの口で!そもそも、お前が隠れた名店探しに行こっ!なんて言わなければ、こんなことにはなってねぇ!」

「カガチだって、めっちゃノリノリだったじゃん!」


 一人と一匹が醜く罵り合う。見るに耐えない、責任転嫁。実に虚しい声が、路地裏に反響して消える。


「「はぁ……」」


 互いに一拍置いて、溜息を吐いた。

 そうして俺とハクロの見苦しく、空虚な言い合いは幕を閉じた。


 流石に、何かしようという精神状態でもなく、近くにあった階段に腰を下ろす。

 ああ、そうだった。聞きたいことがあったんだ。今なら、俺以外いないし丁度いい。


「そういや、さ。なんで、お前はアソコに居たんだ?」

「?アソコって?」

「ん?俺とお前が初めて会った孤島というか穴の中」


 ギクリ、というように固まるハクロ。

 まあ、何かしらの理由があるとは思っていた。どうも、それほど触れられたいものではないようだ。


「話したくないなら、話さんくてもいいぞ」

「いや、話すよ」


 そうして、ポツリポツリとハクロは話し始めた。


「うん。先ず、大前提として僕は自由に外に出たことがなかった」

「自由に……?」

「そうだよ。僕と言うのは、ホクロク達にとって大事な駒だったんだ」


 ホクロク……ホクロク……ああ、あの爺さん達か。

 妙に、俺を目の敵にしていた。


「エバーテイルに置いて、呪印所有者とは特別なんだ。それは君も知っていると思うけど………まあ、特別なの。だけど、呪印と言うものには限りがある。それは、カガチも知ってるでしょ?」

「それは、まぁ」


 呪印と言うのは、蛇帝ヤトの血族に連なる者にしか刻むことの出来ない呪いだ。それに、それは一生に一回。それは限りのあることを意味する。


「だから、ホクロク達は自分達の中から呪印所有者を輩出しようとした。それで、先ず行ったのが僕を囲むこと。母さんは放任主義だからね。あまり、気にしなかったよ」


 ハクロは石畳を尻尾で何かを描くようにしながら、続ける。


「その時、エバーテイルで呪印を刻めたのは僕を含めて六匹。ホクロク達が僕を選んだのは、単に一番幼かったからだと思う」


 考えとしては、鳥の刷り込みに近いのだろう。

 日本で言う摂関政治のようなものか。アレは、実の親族だったが……まあ、近いものだろう。


「それで、僕の周りにはいつだってホクロク達がいた。正直ね、息苦しかったよ。自分で何かを決めることなんてなかった。楽と言えば楽だったけど、楽しくはなかったよ」


 その在り方は人形だ。歴史の中では見られる事柄だが………こうやって目の前にそういった者がいると胸が締め付けられる。


「だから、僕は逃げ出したんだ。母さんの道具の一つを持ち出して、勝手に使った。転移アイテムだったよ。その転移先があの森。そして、カガチと会った夜に、あの穴に落ちた」


「…………」


「まあ、逃げ出したのは正しかったと思う。君と会えて、僕は自由になれた。ホクロク達の計画も壊せたしね」


 どうやら、それで話は終わりのようだった。ゆっくりとハクロの視線が外れて、空を見た。つられて空を見ると、既に星は瞬き、紅い月が一際輝いていた。

 ……ああ、そう言えば、


「あの日もこんな月夜だったか」


 穴の中から見えた夜空。ゲーム内時間で、十五日程前だったか……?


「今日は紅月(あかつき)だね」

「紅月?」

「うん。詳しいことは知らないけど、十五日周期で紅月になるんだよ」

「ふーん?」


 紅月ねぇ。月の魔力云々ってのは良くある話だ。ま、それは兎も角、一つ謎が解けた。


「さて、と………行くかね」

「へ?どこに?」


 湿っぽい空気を吹き飛ばすように、笑って言う。


「決まってんだろ?ライガのところにさ」






「確かここだったな」

「うん」


 前見た時と変わらず、そこだけ開けた場所。変わったのは時刻くらいなものだ。森の中にぽっかり空いたようなこの場所はある種の神聖さを備えているようにも思える。

 その中心に向かって恐る恐る手を伸ばす。


「予想が正しければ………」


ジリジリと慎重に進む。

そして、それは起こった。


「え?」


 手が消えた。手を動かしたり、握ってみるが確かに感触がある。

 つまり、切断されたとか言う訳ではない。


「な、なんで!?」

「ビンゴだ!ここから、先に穴がある!!」


 顔を突っ込んで、その先を見ると、確かにあの孤島が見えた。

 外から、ハクロが騒ぐ声が聞こえてきたのでハクロのいる左腕を突っ込む。


「………そう言うことね」


 そこまでされれば騒いでいたハクロも理解出来たらしい。

 これが転移によるものか、どんなギミックなのかは知らないが害はない。

 一度外に出てから、ハクロに問いかける。


「ハクロはどう見る?」


 こう言うことについては予想はつくが、確実ではない。

 それについては、ハクロの方が理解があるはずだ。


「これは……」


 少し辺りを見回した後、ゆっくりと地面に降り立つ。


「分かったのか?」

「全部じゃないけどね。これは認識阻害の類だね」


 認識阻害?

 つまり、穴はそこにあると言うことか。


「触れているのに、何も感じないように。そこにあるのに、何もないように見せている。それが一つ」

「一つ?」

「うん。認識阻害だけじゃないんだ。この結界、とでも言えば良いのかな?まあ、それはいいや」


 ハクロはそこで一度言葉を切って、自分の尾を消してみせた。


「ここには二つの結界がある。一つはこの認識阻害の結界。そして、もう一つが資格識別の結界だよ」

「資格、識別?」

「うん。資格を持たない者は、このように身体が無くなるなんてことはない」

「つまり?」

「ここを単に開けた場所として認識して、たとえ、『穴』の場所を歩こうとも落ちることはないよ」


 成、程?いまいち、しっくり来ない。


「例えるなら、鍵の掛かってる扉だね。認識阻害がドア、資格が鍵」

「ああ、そう言うこと」


 扉、つまり認識阻害は資格のあるなしに関わらず機能している訳だが、無資格の者には扉は開かれない。つまり、無資格者がこの結界を通ることは出来ない。

 逆に、有資格者には扉が開かれ、あの『穴』に入ることが許される、と。


「じゃあ、『鍵』はなんだ?」


「鍵は紅月、そして──」


 一度、夜空に浮かぶ紅月を見上げた後、ハクロは言葉を切った。


 そりゃあ、紅月だけではないだろう。それだけだったら、とっくにライガなど見つけられているはずだ。それなのに、ライガの話はない。つまり、重要なのは他の『鍵』。


「───僕だ」


「は?」

「正確には、紅月は『鍵』じゃない。アレはただの舞台装置だね」

「へぇ……」

「そもそもの話。ライガは何処に封印されていると思う?」


 そんなもの態々考える必要もないだろう。あの『穴』に封印されて……?いや、違う。アソコにはライガはいなかった。ライガの封印場所に通じる道があっただけだ。


「気付いた?そうだよ、アソコにはライガが封印なんてされていないんだよ。だけど、無関係と言うわけじゃない。アソコはライガが封印されている場所と繋がっている。いわば、『道』だよ。そして、それが開くために必要な魔力。それが溜まるのが………」

「丁度、十五日後。紅月の日と言うわけか」


 俺の言葉に、ハクロはうんと頷いた。


「だから、紅月は『鍵』じゃないんだ」

「それじゃあ、お前が『鍵』ってのは?」


 これだ。これが一番の謎。紅月が『鍵』と言うか、舞台装置なのは分かる。

 だが、ハクロが『鍵』とはどう言うことだ?アイテムならまだ分かる。姐さん達、つまり七帝達が『鍵』と言うなら、分かる。彼等は、ライガと同じ時代を生きていたのだから。だが、ハクロは?


「正確には、『鍵』というのは僕だけじゃない」

「うん?」

「ただ、僕が『鍵』としての範疇にあっただけだよ。『鍵』は────」



 神妙な顔をして、それを告げようとするハクロ。だが、それを告げたのは此処には居ないはずの人物だった。


「───『鍵』と言うものは、我らの一部じゃよ」


 それは、かつての当事者。七帝の一人。

 紅い月光に照らされる蛇帝ヤトによって告げられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ