結論、君たち弱すぎ
「なつかしいな」
胸に湧く想いは郷愁?いいや、そんなものはない。湧くのは多少の罪悪感。
風景こそ元通りになっているが、幾つかの建物には黒く変色した部分が見られた。何かを塗られているのではない。アレは火事の名残だ。そう過去に起きた革命の、その傷跡。
そんな想いを胸に、フランスを模して作られた街を歩いていく。流石に完全なコピーではなく、あり得ない場所にエッフェル塔やら凱旋門がある。位置こそ正確ではないが、建物そのものは精巧に造られている。聞いた話によれば、実際にフランスに行って研究した猛者が、建設に携わっているのだとか。
そんな街を歩いて十分ほどの場所にそれは在った。
「……よく残ってたな」
日本建築とは異なり石やレンガによって作られた屋敷。たとえるなら、ホラゲーで出てくるような洋館を明るくした物に近い。
そんな屋敷に、昔のように入る。ああ、懐かしい。昔、この屋敷に来たときはラストダンジョン前のように緊張したものだ。
燭台に蝋燭が煌めいているものの中は薄暗く、その仄かな灯を頼りに進んでいく。
二階に上がって少し進んだ所にある、中から光が漏れている部屋に入った。
「おっ、遅かったじゃん」
「重役出勤だねぇ」
「うるせぇ、うるせぇ」
チッ、俺が最後だったか。
視界の端に写っている時計を見れば、十二時半ジャスト。集合時間は十二時半なので、遅刻はしてない。よって、責められる謂れなし。まあ、五分前行動どうの言われれば何とも言えないが………そもそも、襲われた翌日に来てやったんだ、感謝してほしいくらいだ。
「あ、なんか一番遅かった癖に開き直ってる」
「そりゃそうよ。よくよく考えれば、襲われた翌日にこうして会ってあげるなんて……」
「控えめに言って聖人では?」
「ハイハイ、私が悪かったから本題に入るよ。カガチも座って」
強引に流れを断ち切られて、若干不満は残るが静かに座っておく。
テーブルは円卓。私達は平等とでも言いたいのか?いや、単に使い回しっぽい。
「王女のマリーちゃんって知ってる?」
「うん?まあ、名前だけは」
「俺は面識があるぞ」
「なんで……?」
「色々あったの、色々」
そう一件落着かと思ったら牢屋にぶち込まれたりとかな。
「まあ、それは置いておくとして………今、私はね、スパイみたいなことをしてるんだよ。ウィルス伯爵を、ね」
「ウィルス?」
「フィーエルの領主だぞ」
ああ。例のプレイヤーを集めて、軍事強化しようとしている。
と言うか、名前からして王国の腫瘍みたいなやつだな。
「その伯爵が?」
「まあ、ちょっとした筋からウィルス伯爵が帝国と繋がってるって言う情報を得てね。その調査の為にねぇ。プレイヤーを積極的に雇ってたから、入るのは簡単だったよ」
……名前の通りかよ。
それはそうと、帝国と繋がっている?それはつまり、裏切りってことか……?その話が本当だとすると……
「かなり不味くないか?」
「まぁね。まあ、でも元々ウィルス伯爵の噂は凄かったからさ。色々裏で何かやってるって言う話はあったんだよ。でもね、証拠がなかった。王国の上層部はそりゃあ歯痒かったそうだ。今回もそう。伯爵が帝国と繋がっているっていう証拠もない」
「証拠がないのか?」
「いや、正確には証拠はあるよ。間違いなくね」
……意味が分からん。ウォルターの顔を盗み見ても、アイツも分かってなさそうだ。
「結論から言うと、帝国のプレイヤーが居るの」
「それは不思議じゃないんじゃ?」
「まあね。プレイヤーの大部分は国家に属していないし、各国を行き来するのが大半。フィーエルに帝国のプレイヤーが居ても不思議じゃない」
そこで、グラーフは突然問いを投げかけてきた。
「君たちは帝国の状況を知ってる?」
「いや、知らないが……」
ウォルターも似たようなものらしい。静かに首を横に振っていた。
帝国、ね。俺としちゃあ、ストアカがリリースされる前に王国と戦争して、負けたというくらいしか知らない。
「帝国は、王国に負けた。歴史を紐解けば、これまでと変わらない結果に終わったわけだ。上辺だけを喋れば、この程度の言葉で足りる。でもね……戦敗国の現状は酷いものだよ。王国への賠償金で、国庫は空。戦争で人が死んで、人手不足。結果、あの時の帝国は地獄だった。餓死者が溢れ、疫病が蔓延し、モンスターが蔓延る」
「それは……酷いな」
俺とウォルターは平和で豊かな王国しか知らない。
グラーフはその時の帝国を実際にその目にしたのか、言葉に感情がこもっている。
「あの時の帝国で最も深刻だったのはね……人手不足だったんだよ。さっきも言ったけど、戦争で人が死んだからね。リアルなら、人手不足よりも食糧の方が問題なのかもしれない。だけど、この世界にはモンスターがいる。人手不足のために、モンスターの討伐に多くの人材をさばけない。
じゃあ、問題を出そうか。そんな帝国に現れたプレイヤーは、帝国にはどんな風に見えたんだろうね?」
ああ、そういうことか。
そこまでの情報があれば、答えは簡単に出てくる。
プレイヤーにとって。自らの命とは大切なものではない。
死んだとしても、すぐに生き返ることの出来るプレイヤーに『死』は怖れるものではない。
ならば、NPCが足踏みするような死地であっても、そこにレアアイテム、レアモンスターがあれば、喜んで行くだろう。いや、レアアイテムがなくても、レアモンスターがいなくても、経験値稼ぎに戦いに行くだろう。
つまるところ、帝国の巣食うモンスターはプレイヤーによって掃討された。
結果、帝国はプレイヤーに窮地を救われた。それもプレイヤーたちは見返りを求めることはなく。
「英雄、か」
「そう、それに近い。で、そこで終わってくれれば楽だったんだけどねぇ……」
「それを利用したヤツが居たんだね」
「まさしく、その通り。
平民の人気を得て、『カラーズ』っていうギルドメンバーたちが帝王から名誉帝国騎士の地位を与えられた。まあ、そこのリーダーがやり手でね。衰弱した帝国内部を掌握していってたんだよ。アレは、私をしても鮮やかだったねぇ。君たちももう少し早くプレイしていたら見れたのに」
この悪の帝王みたいなグラーフも感心する手際だったのか……恐ろしい。
まあ、それはいいや。そうグラーフは続ける。
「その『カラーズ』のプレイヤーがフィーエルに多くいる。それもウイルス伯爵の懐刀のように振舞っているんだから……どこからどう見ても、ね」
「ちょっと待って、多く?」
「ん?ああ、何人だっけか……数は忘れたよ」
呑気に言うが、数が多いってのは不味いのでは?
いや、数が多いからこそ、伯爵の動きに気づけたのか。とは言え、不味いことには変わらない。たとえ、王国がこれまで不敗だとしてもだ。
「まあ、これからが本題」
今まで呑気に話していたグラーフの口調から、気楽さが消え失せる。
「ことの始まりは、一ヶ月程前。マリーちゃん……王国の第一王女だけどね。狙われる頻度が増えたんだよ。元々、王族という立場からちょくちょく狙われてたんだけどねぇ……」
ああ、そう言うこと。
「つまり、伯爵が帝国と繋がってたのを知ったのはついでってことか」
「まあ、そんな感じ。元々は、マリーちゃんを襲って来た奴らを調べたら行き着いた結果だったしね」
アイツら………正確には、アイツらを唆した奴か。そいつらの裏に居るのが、ウィルス伯爵。だが、姫様を襲った所で何の利点がある?
「ああ、カガチは心当たりがあるのか。と言うことは……マリーちゃんめ。また、逃げ出したのか」
……アーデルハイトと同じような感じがする。というか、姫様……そんな中で脱走したのか。
「???」
「あー、ウォルターは知らないのね」
「まあ、話の本筋からはズレてるから、分かんなくても良いよ」
王都に来た時期が悪かったな。
いや……俺の運が悪いような気がする。そもそもの話。普通は巻き込まれないものだろ。
「本筋に戻るよ。何をやりたいかって言うと、その証拠を取りに行く」
証拠?それって確か………
「ああ、帝国のプレイヤー達は単に手掛かりみたいなモノだよ」
チッ、ナチャラルに思考を読むなよ。
「じゃあ、その証拠は?」
「それを今から言うの。んじゃ、ウォルター、私が君達に頼みたいことは何かわかる?」
「んー………」
視線を彷徨わせるウォルター。
それが続くこと十秒ほど。
彷徨っていた視線が、グラーフを射止める。
「帝国のプレイヤーの掃討ってところかな?」
「そう思った理由は?」
「話し振りから、証拠が何処にあるのかは分かってるでしょ?」
疑問にグラーフは答えない。ただ、張り付いていたような笑みが深くなる。
それを返答と見做して、ウォルターは続ける。
「じゃあ、後は簡単だ。君だけでは行えず、僕とカガチを誘う必要があること。戦闘を行うのが苦手な君だ。僕とカガチもそのために呼ばれたんだと考えるのが自然。じゃあ、誰を倒すのかって所だが……話からして帝国プレイヤーしかいない」
さっきまで、笑みを浮かべていた顔には笑みはない。何処か不機嫌そうな顔を浮かべている。
「はぁ、『概ね』は合ってるよ。ただ、私を舐め過ぎ。君達にお願いしたのは、三人だけ。それ以外なら、私だけでもなんとかなる」
むすっとした表情のまま喋るグラーフ。
どうも、俺にはそれは信じられない。なんて言ったって、あのグラーフだ。戦闘に関してはクソ雑魚のグラーフだぞ?
「……危なっ!?」
甲高い金属音を発して、壁にフォークが当たって柔らかい絨毯に落ちる。俺の真横を通ってだ。
誰が投げたのかは言うまではない。俺と間を開けて横に座っているグラーフ。その表情には笑みが浮かんでいるが、笑みを無理やり貼り付けているようなものだから怖い。
「それで、手伝ってくれる?」
何も無かったかのように彼女は問う。
そんなもの決まっている。
「手伝うよ。知らない仲じゃない」
「そうだな。ここまで聞いておいて、手伝わないのは無理だろ」
うんうん、と頷いたのち、グラーフは席を立った。
「んじゃ、詳細はおいおい、ね。取り敢えず、君達弱過ぎるから……」
グラーフはポケットから取り出した何かを取り出して、机に置いた。
なんだ……地図?
見たところ、ストアカの地図だ。それも王国の。
「まあ、印は付けておいたから、そこでレベリングよろしく!さぁーて、忙しくなるぞー」




