そして、歯車は動き出した
今回は短いです。
「あーあ、見捨てられちゃったね、ウォルター?」
「ちょっ、煩い!」
「良いじゃんか、手は出してないんだし」
「君は、ねッ!」
カラカラと笑うグラーフが見つめる先。そこにはウォルターがいた。高レベルプレイヤーの三人ほどに囲まれてなお、生き残り、立ち回るその姿。
(すごいよ。まだ低レベルのはずなのに……よくもまあ、ここまで……)
その姿に彼女は嫉妬を覚えずにはいられない。
それは彼女が出来ないことだから。
「っ、お!ふんっす!?」
流石、というべきか……振り下ろされる剣を弾き、迫る短剣を避け、攻撃に移ろうとするプレイヤーの牽制をするウォルター。
相手のプレイヤー達の表情を見る限り、手加減している様子はない。思うように攻撃できず、顔には苛立ちを浮かべている。
(あーあ、だから読まれるんだよ)
あまりにも分かりやすいアイコンタクトに、グラーフは嘆息を溢した。
当然、ウォルターも気付いており、連携とも呼べない攻撃を難なく避ける。それが更に、彼等に苛立ちを募らせた。
(ま、こっちは終わりそうにないねぇ)
視線を変えた先は屋根。
そこでは、先程まで軽業師のように屋根を駆けていたカガチの姿はない。声からして、もう壁の方まで逃げたらしい。
(そういえば………何で、カガチは逃げている?)
ふとした疑問、それが彼女の思考を加速させる。
(彼の性格からして、逃げることはない。むしろ、何人か倒してざまぁ、とか言うタイプ。それに………)
脳裏に浮かぶは、先程の決闘。
たった一刺しで石化させた技。それが毒によるものかは知らないが、彼女の知る限り初心者が得られるものではない。
(石化……?アレはバジリスク辺りのもの?PKでも倒した?それは否定出来ない。加えてあの魔術……いや、呪術か……)
それが最後のピースだった。欠けたピースが繋がって答えを導き出す。
その答えに辿り着いた時、自然と声は漏れていた。
「ああ、NPCか」
それなら説明がつくと、一人納得するグラーフ。
その時、視界の端で炎蛇が天に昇っていった。
「いやあ、派手だねぇ。ということは、逃げられたのか」
そこに、逃した仲間に対する憤りなどない。
むしろ、彼等が予想よりも動けていることに感嘆すらしていた。
「そうだね………これなら、十分だ。ステータス差は、ドーピングとレベリングで埋めれば良いから………」
しばし思案した後、彼女は指を鳴らす。戦場には似つかわしくない音が響く。剣戟にかき消されて、誰の耳にも届かなかったが……その命令を受け取ったモノはいる。
彼らは命令に従って、行動を移す。
軽快な音と同時それは起こった。
「なっ!?」
「はぁ!?」
「なん、でっ!?」
ウォルターを含めた全員が地面にひれ伏した。いや、倒れ込んだ。
そして、次々と光となって消えていくプレイヤー達。
後に残ったのはウォルターとグラーフだけだった。彼女以外がひれ伏した中、飛んで来た『それ』を、彼女はアイテムボックスに仕舞い込む。
邪魔者が消えた広場で、倒れ伏す彼に彼女は近づく。
「いいの?」
「いいの、いいの。アイツらは単なる駒だからねぇ。まあ、君にも死んで貰うけど……残ってもらったのはカガチに伝言を頼みたくてね」
「そんなの。自分で、伝えれば良いじゃんか」
はぁー、と大袈裟に首を振って近づくグラーフ。
まるで分かってないという態度が、ウォルターを苛立たせた。
「全く……面白味のないねぇ。浪漫ってのをもっと理解した方が良いよ?今の、カガチだったらノリノリで乗ってきたよ?」
「ハイハイ…………」
「まあ、本題に入ろうか」
その言葉に浮ついていた雰囲気が消え失せる。
「明日の正午ごろ。革命の始まりの場所で」
その言葉が響いた直後。ウォルターの身体は光となって消えた。
それが全ての序章。
――そして、全ては動き出す。




