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ストレンジアルカディア  作者: 東夜 空
亡き友に盃を
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革命の伯爵


「会いたかったよ?カガチ、ウォルター?」

「クソっ……グラーフ!」

「うへぇ…………」


「…………君たち、随分な反応だね」


 そりゃそうだろ。

 今までやったことを思い返してみろってんだ。


──サバイバルクラフターというゲームがある。

 このゲームは控えめに言って良ゲーだ。今なお、大きい人気を誇るゲームでもある。

 どのようなゲームであるか。それは、自然の中をクラフトして生き残るという単純なもの。このゲームが人気な理由は、サバイバル要素ではなくクラフト要素だ。建築物から小物まで大抵は作れてしまうのだ。

 そこで、プレイヤー達は思い付いた。これで各国を模倣出来るのではないか、と。当然街並みは異なるが、パリのエッフェル塔、ロンドンのビッグ・ベン、エジプトのピラミッドなど、有名な建物は再現した。これによって、簡易的な観光も出来るようになったらしい。まあ、景色だけだけどな。

 さすがに食事や気候までは再現できないからな。


 プレイヤー達は各サーバーに様々な文明を構築した。α鯖にフランスの街並みを、β鯖には古代中国、γ鯖には平安京や江戸、Δ鯖には明治の日本etc……。

 その中には、自然状態を維持している鯖もあるがアレは例外だ。


 そんな中、あるプレイヤーがバカみたいな考えを持った。持ってしまった。

 停滞した文明など歴史上ないと。ならば、私たちもそれに従うべきでは無いのかと。

 そして、それは起こった。α鯖のフランス文明で。さながらフランス革命をなぞるように。

 当時、その名前から伯爵と呼ばれていたプレイヤーと伯爵に率いられたΖ(ゼータ)鯖の猛獣によって。


 先程、自然状態を維持しているという鯖があると述べたがそれがΖ鯖である。

 Ζ鯖は他の鯖とは毛色が異なる。各サーバーが様々な建築を行う中、Ζ鯖では建築は禁忌とし、禁止された。

 それはΖ鯖のコンセプトに起因する。先に述べたように、各鯖はある文明、街並みをコンセプトに作られている。α鯖ならフランスがコンセプトのように。

だが、Ζ鯖は文明が構成される前をコンセプトにされた鯖だ。つまり、狩猟生活をコンセプトにした鯖である。だが、サバイバルクラフターには飲食は実装されていない。そうなると、そこに残るのは戦闘だけだ。


 まあ、そんな戦闘民族と言うか狩猟生活を送っているプレイヤーを伯爵は自らの手駒にした訳だ。Ζ鯖の連中も何人かは断ったが……大抵は了承した。元々、血の気の多い奴らだ。断る理由はそうそうなかったのだろう。


 かくして、伯爵とΖ鯖による革命は史実をなぞるようにバスティーユ牢獄の襲撃から始まり、伯爵の処刑によって終わった。うん、流石に革命は成されなかった。というのも、そもそも貴族制ですらなく、税制もないのに何に抗ったんだか…………だからまあ、こうなることは予想出来ていたのだ。


 そんなこんなで後に炎の日曜日と呼ばれる、α鯖で起こった革命騒ぎは幕を閉じた。


 俺の目前にいる女は、その元凶であり、斬首台で、作ったはいいものの使い所のなかったギロチンの初めての餌食となったプレイヤーである。


「はぁ……グラーフ、見逃しては──」

「あげなーい。と言うか、よくこの時期に来たね?フィーエルはプレイヤー喰らいの街って言われてるのに……」

「ふぅん?」


 ちらりとウォルターを見る。

 ウォルターは「あ」と漏らしたあと、てへぺろと手を合わせてきた。

 この野郎……


「あぶね……ッ!?」

「うるせぇ!!面倒ごと持ってきやがって!!」


 ギリギリと刀と双剣が火花を散らす。

 そんな俺たちを呆れたように眺めて、グラーフは手短に話し始めた。


「さて、手短に要件を話そう。伯爵の下につかない?」


 俺とウォルターも小競り合いを止めて、しかたなくグラーフを見やる。


「……断ったら?」


 グラーフが満面の笑みを浮かべて、その首を掻っ切るようなハンドジェスチャーをする。

 そんなグラーフに返答は決まっていた。


「返答は?」

「「決まってんだろ?」」


 答えに言葉は要らない。

 ただ、鼻で笑って、親指を下に向ける。


「んじゃあ、仕方ない」

「さて……」

「どうす───」


 笑顔のまま、予定調和であると言わんばかりにグラーフは、その手に持った拳銃を上空に向けて───


「任せた、ウォルター!ハクロ、やれ」

「うん、金縛りッ」

「嘘ぉ!?」


 転進。

 くるりと後ろを向いて、門の方に走り始める。


───撃った。


 それが合図。

 響く破裂音。臭う硝煙。

 それと同時、俺達を囲っていた奴らが戦闘態勢に移行する。

 だが、こっちの方が速い。


「じゃあな、グラーフ!」

「いいよー!ウォルターが残ってるからねぇ。それに…………」


 金縛りで動きが鈍った奴らを無視して、屋根に跳び乗る。

 グラーフが最後に発した言葉は、風に揉まれて消えてしまったが、何を言ったのかは分かる。


──逃げ切れるとでも?


「……分かってるよ。そんな簡単には逃げさせてはくれないよなぁ!」

「話が早いねぇ!」

「んじゃ、さようならッ!」

「大人しく、キルされとけ!」


 家と家の合間から放たれた斬撃を回避して、様子を見る。

 おうおう、うじゃうじゃと出て来るわ。

 さっさと逃げさせてくれれば、良かったのだが……やはりそうはいかないらしい。まったく、これもグラーフと街中じゃ転移出来ないなんていうせいだ。まあ、理由も分かるが………この状況では怨まずにはいられないと言うもの。とは言え、不可能なことを嘆いてはいられない。


「三人、か」

「あ?てめぇなんざ、一人で十分だっての」

「っーか、旨味がねぇよなぁ」

「それそれ、なんで初心者狩りなんかしねぇといけねぇんだよ」


 思ったより少ない。

 グラーフならば、もっと数を寄越すと思っていたが………やはり、レベル差だろう。低レベル()には、高レベルが三人もいれば十分と見られたのだ。

 まあ、数が少ないのは好都合だ。

 形としては三人に囲まれている形になる。ここから逃げるためには、前の敵を抜く事は必須。

 左腕から微かな震えが伝わってくるが……馬鹿らしい。

 近距離武器の三人で何を恐れることがある?ここで、一番面倒なのは後衛職が出張ってくることだ。弓はそこそこ、魔法は最悪だ。なんたってこの身は紙装甲以下であり、身に纏う装備は初心者装備。魔法職のように範囲攻撃が可能な奴とは相性が悪すぎる。

 その点、近距離武器はいい。当たらなければいいのだから。


「………ふぅ」


 武器を構える。両手にニードルビーの短剣。

 倒す必要は無い。ただ、敵を躱すことだけに集中しろ。


「あ?」


 『纏雷』をかなり強く。『雷耐性』によって、多少なりともHPの減りは少ない。

 『縮地』。

 前方、一番近くに居た奴にニードルビーの短剣を太腿に刺す。


「なぁ!?」

「おい────」

「呑気な」


 直ぐ様、直剣を振り被ろうとした男に、ニードルビーの短剣を投げ付ける。


「うっ!?」


 刺したニードルビーの短剣を抜いて、直剣持ちに迫る。

 投擲した短剣は、直剣持ちの右脚に刺さっていた。

 それを回収しつつ、さっさと横を走り抜ける。


「……!?どうして……ッ!」


 誰か分からないが、焦ったような憤るような声を荒上げていたが無視だ、無視。

 んなもん、油断していた奴が悪い。

 後ろで、二人が転倒するのを音だけで理解して先を急ぐ。


「全く、慢心ってのは本当に恐ろしいねぇ」

「何したの?」

「ん?お前から貰った壊毒を流し込んだ」


 うへぇ……何て声を袖で漏らしたハクロ。

 大方、彼等の足がどうなってしまったのかを想像してしまったのだろう。まあ、それについてはご愁傷様としか言いようがないが……舐め腐っていたツケだ。

 そもそもの話、レベル差で開くのは単純なステータスだ。だが、状態異常と言うのは耐性スキル関連である。アイツらに関してもニードルビーの短剣でのダメージなど無いに等しいが、その中に入っていた壊毒は別というわけだ。

 それが、奴らの足に流し込まれたとなれば……奴らの足は使いものにはならないだろう。


「っと……流石に門は無理か」


 門にワラワラと集まっているのが見えた。

 ……逃がす気ゼロかよ。まあ、予想の範疇だ。

 方向を変えて、向かう先は街を取り囲む城壁。

 方向を変えたのが、門前の奴らにも見えたのか、彼等も先回りする様に動く。

 しかし、遅い。


「さておき、登るのみだ」


 後ろから怒声が上がっているが無視。

 城壁に最も近い家の屋根から、跳躍する。

 『跳躍』スキルによって強化された跳躍力は容易く城壁まで辿り着き、俺に着地を成功させた。

 とは言っても、張り付くような形での着地ではない。片足だけを城壁に着けた、壁を駆け上がるような形のフォーム。

 袖での中から何やらか細い悲鳴が聞こえているが幻聴だろう。

 そして、あるスキルを発動させる。


「縮地」


───『縮地』というスキルの発動条件は単純だ。


 その足が何かに着いていること。その条件は大雑把だが、液体はダメだ。恐らく、身体を支えられるものでないとダメなのだろう。まあ、水の上ではまともに走るどころか沈まぬようにすることさえ無理なのだ。高速移動など、当然に無理ということか。


 つまり、何が言いたいかだ。

 縮地というのは、地面など硬いものに足が着いているなら発動する。それは当然、城壁であってもだ。

 加えて、高速移動は身体の向いている方向に依存する。


「ということは、だッ……!」


 縮地を利用した壁登りとて、不可能ではないということ……ッ!


 カッという矢が壁に刺さる音を置き去りにして、俺の姿が消える。


「ッ……!届かないか」


 しかし、あともう少しというところで俺は姿を現した。

 足りない。目測を誤った。


「……!!」


 壁に足を吸い付けるようなスキルなんぞ持っていない俺の足は、当然のように重力に従って離れていく。


 下に待ち構えるは、プレイヤーの大群。餌を待つような鯉みたいに集まっている。

 とは言え、それが全てのプレイヤーではない。

 やはり、壁を走るスキルがあるらしく何人かは壁を走って俺に迫る。


「ハハッ!死ね!」

「梃子摺らせやがって!」


空中で落ちていくだけの俺に、左右からプレイヤー達が命を刈り取らんと迫る。その手に握られた武器は振りかぶられていて、寸秒の後にそれが振り下ろされるだろう。

だが……………


「ハクロ」

「りょーかい」


 保険というものは掛けておくものだ。


「なっ!?」


 轟ッという音共に赤黒い炎蛇が俺を喰らって、天に登っていく。


「……………二度とやりたくねぇ」

「全く同感……」

「んじゃ、帰るか」


 軽やかに城壁に着地して、今度こそ壁を越える。

 瞬間、俺の身体はフィーエルから消えていた。


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