新武器
「さて、と」
「今日はヒイロのところだっけ?」
「あー、そういやもう一週間か」
一週間っても、ゲーム内の話だ。
現実の二倍で時間は進んでいるから、実際は四日経ってなかったりする。
そんなこんなを考えながら、無駄な事を喋りながらヒイロの工房の前に立つ。
「おーい」
「ああ、良く来たね。出来てるよ」
机に置かれた二本の短剣と一振りの刀。
刀は貸してもらった奴と変わらないように見えるが、まあ使って見れば分かるだろう。
それは良い。だが、二本の短剣。ニードルビーというモンスター由来の素材を使ったため、その刀身は金属という見た目はしてない。形こそ短剣ではあるが……やはり、前使っていたものと比べると少々異なる。
形は斬るというよりも、突くことに特化しているような形だ。元々、蜂の針だ。元の用途からすれば、問題ないのだろう。
「ん?この穴は何だ?」
ニードルビーの針を素材に作られた短剣。
その鋒。そこに、その穴は空いていた。
「柄の部分が開くだろ?」
「………おっ、ホントだ」
「そこに毒とかを入れて使うんだよ。元々がニードルビーの針だからね。彼らが毒を流し込むときに使っていたものを利用しているんだ」
あー、この穴は元々あったやつか。
なるほど、それを利用した武器だと。
確かに、斬るというよりも突くと言った方に重点が置かれてるのか。というか、これって短剣型の注射器みたいなものだよな。
二本の短剣をアイテムボックスに入れて、刀を腰に佩こうとして気づいた。
「ああ、そうだ。刀返すよ」
佩いていた刀を取り外して、机の上に置く。
ヒイロはそれを持って、刃を見る。
一応、手入れとかはしていたはずなので大丈夫だとは思うが……
「うん、良い腕前だね。刃こぼれとか全然してないや」
「どうだ?お眼鏡には掛かったかよ?」
ヒイロは一通り見て、刀身を鞘にしまう。
「流石だよ。セイカなら少し刃こぼれしてた。セイカは力任せに振るってしまう時があるからね」
「そりゃあ、どうも」
そう言われて悪い気はしない。
まあ、これでも刀を主武器にして長いからな。それに、じいちゃんのせいで身に染み付いてる。加えて、最近は蒼蓮さんにも扱かれている身だ。疎かには出来ない。
「まあ、サンキューな。ほれ代金」
「………うん、丁度だね。何かあったら言って欲しい。武器なら何とかできると思う」
「そのときは、遠慮なく頼らせてもらうよ」
「そういや、さ。毒とか出せる?」
ニードルビーの短剣という武器を最大限活かすため、毒というものは確保しておきたい。というわけで、だ。毒そのものには心当たりがある。と言うか、いつも近くにいる奴なんだが……
まあ、アイツの毒というのは、普通の物とは異なると言ってたが……どちらにせよ液体だ。結果として同じならば毒と呪い、大した違いはない。
何やら妖しい作業をしていたハクロが顔だけを此方に向けて、口を開く。
「出せるよ?何の毒が欲しいの?」
むっ、複数あるのか……
「何がある?」
「色々かなぁ。この前使った石化とか、危ないのは壊毒とか?」
「壊毒?」
「うん、その名前の通りの壊す毒。僕じゃまだ少量しか作れないけど………効果は絶大で、大抵の生物なら破壊することが出来るよ。無機物は……どうだろう?」
いまいち分からないが、それでもかなり強力なのだろう。
壊す毒なんて言うものは実感の湧くものではないが、使って見ることが一番だろう。
「ゴー!」
綺麗な半円を描いて、ハクロが飛ぶ。
その先にいるのは巨大な熊。王都周辺の森を根城とするビッグベアだ。
咄嗟に気付いたビッグベアは避けようとするが遅く、ハクロが腕に噛み付いた。
当然、ビッグベアはそれを見ているだけではない。その腕を振り上げて………
「………ん?」
途中で止まった。
叩き付けるために振り上げるはずの前足は、中途半端なところで止まっていた。
見れば、ハクロが噛み付いた場所を中心として前足が変色していく。
「ガァァァ!!!!」
悲鳴に似た咆哮が響いた。
それを至近距離で聞いてしまったハクロが、縋るような目でこちらを振り向く。
わーってる。それに、俺の身体はもう動き出してる。
「………シッ!」
紫電を纏って距離を詰める。
その首目掛けて刀を振るった。
「ガァッ………!?」
「うん、良い斬れ味だ」
宙を舞う首は、地面に落ちることなく光となって消えた。
……あの刀が失敗作ってのは、間違いじゃなかったのか。
この刀を使う前に俺が使っていた刀──失敗作だから使っていいよと言われた刀だが、それを使っていたら、首を断つことは出来なかっただろう。
それが分かるほどに、この刀はいい。
「しかし………」
壊毒というのは恐ろしいものだ。
アレは、部位破壊を容易く行った。壊毒と言うからには、文字通り壊しているのだろう。しかも、侵食さえもしていた。流石に限度があると思うが………
「おっ、ハクロ。おつかれ」
「………おつかれじゃないよ。なんでもっと早くに助けてくれなかったのさ!」
「いいだろ、助かったんだから」
「こっちは死ぬかと思ったんだからね!」
「あー、ハイハイ」
なんて下らない会話と実験を行ったのが、数十分前。
今はハクロの部屋で毒を作っていた。
作ると言うよりも、ハクロから絞り出しているといった方が良いかもしれない。
「まだ、出すの!?そろそろ無くなりそうなんだけど……!」
「うん?もういいぞ?」
相変わらず趣味の悪いとしか言えないような部屋だ。
近くの白蛇から、鬼畜だのと聞こえてくるが気のせいだろう。
こんな部屋だ。幻聴が聞こえてきてもおかしくない。
「そういや、なんか注意点とかある?」
忘れてはいけない。
そうコーラにメントスを入れると大変なことになるように、ただの毒が危険な何かに変わってしまうことがあるのだ。いや、毒は元々危険なものか。でも、気化やガス化するなんてこともあるかもしれない。
「あるよ。一番は解呪しないことかな。僕の毒ってのは、正確には呪いなんだ。毒に呪いを付与してるって形になる」
………どうも、ただの毒という訳では無いらしい。
というか、同じことを聞いた気がする。
「だから、毒と言うよりも呪いの方が本質なんだ。毒を媒介として、呪いを流し込むみたいな感じ」
「つまり?」
「魔法で解毒しても、呪いは残るから意味がない。けどその逆、解呪はダメだ。呪いが解けちゃうからね」
ほほう?実に悪用出来そうなものだ。
モンスター相手では、大して変わらないかもしれないが、プレイヤーやNPCの対人においては重要だ。なんせ解毒は意味がないのだから。
「へぇ……」
「ん?」
「変なことには使わないでよ?」
おっと、顔に出ていたのか。




