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ストレンジアルカディア  作者: 東夜 空
亡き友に盃を
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ツバメ


 ログインっと。

 昨日の、クソッタレなポーション煮沸事件、もとい蒸留事件から一夜。

 ログインして道具屋に器具を買いに行って、劣化ポーションを全て蒸留した。余談ではあるが、


──ポーション───

 至って普通のポーション。

 手順、効果共に普通のものである。

 使用することでHPを回復させる。


 テキストが味気ない。

 まあ、何処にでも溢れているようなものであるから、こんなものなのだろうが……苦労して作った身としては何か期待を抱かずにはいられなかった。

 まあ、それでもしっかりと完成させることが出来て嬉しかった。


「さてと………」


 ポーションは作ったし、今日は何をしますかねっと。


「ハクロは………」


 居ねぇ。

 何処に、なんて言う疑問はない。どうせ、部屋に篭っているのだろう。


「んじゃ、今日は………修練場でも行ってみるか」


 最近ずっと一緒だったし、たまに別行動でもいいだろう。





 修練場。

 そこには見知った鬼人がいた。


「あれは………」


「まだまだぁ!」


 なにやってるんだ?

 セイカが居たことじゃない。セイカが戦っているものがおかしいことに対して、だ。


「ツバメ……?」


 ツバメ。

 渡り鳥として知られる鳥だ。軒先によく巣を作る鳥でもある。日本では、よく知られている鳥ではないだろうか。

 そんな鳥だが、日本ではある剣豪の話でも知られる。そう、佐々木小次郎の燕返しだ。空を飛ぶ燕が身を返すように、振り下ろした刀を瞬時に返すという二連撃。

 佐々木小次郎という人物が本当に居たのかどうかはあやふやなところだが、そこは置いておこう。


 ツバメという鳥は常識の範囲内に収まるものであったはずだ。

 渡り鳥として有名であり、速く飛ぶというイメージがあるとしても、だ。

 少なくとも………


「速っ……」


 目で追えないレベルで速くはなかったはず。


「残像……?」


 フォルムはツバメ。色合いもツバメ。

 ただ、能力が桁外れている。

 いや、むしろモンスター蔓延るこの世界では、海を渡るためにはそのレベルの能力が必要なのか………?


「……うっそ」


 確実に捉えたかと思った刀がすり抜けた。

 消えたようにさえも思える速度。


「……………」


 うん。ありゃ、ツバメに似た何かだろ。

 観客席に誰か居ないかと視線を彷徨わせると、一人いた。恐らく、この状況を創り出したであろう元凶。そして、最もツバメについて知っていそうな人物。

 それは「かかっ!」と笑いながら、蛇から酒瓶を受け取っていた。

 その人物──蛇帝ヤトに近づくと、彼女も此方に気づいた。


「お、汝も来たのか」

「……姐さん、アレなんです?」

「アレはツバメじゃよ?まあ、妾が捕まえたものじゃがな。アレは確かに速いが……呪術を使えばそこまでじゃからの」

「へぇー」


 片手に酒瓶を持ちながら、気分良く話す姐さん。


「かかっ!見よ、セイカのヤツ全く捉えきれておらんわ。汝もやってみるか?というか、あの程度を捉えなければライガには勝てまいて」


 むむっ。あれを捉えるのか………まあ、ライガの名を出された手前、受けないわけにはいかないだろう。


「そうさな……もし捉えられたら、何か報酬を与えてやってもよいぞ」

「……そこまで言われたら、引き下がれないでしょう」

「かかっ!!楽しみにしておるぞ」





「はぁはぁ………」

「退け退け、俺の番じゃい」

「は?カガチなんでお前が………うわっ!?」


 へばっていたセイカを投げるように退かす。状況を良くわかっていないようだが………へばってるなら休んでな。


「さぁ、今度は俺の番だ」


 刀を抜いて、切っ先をツバメに向ける。

 俺が相手だ、という宣言。当然、それに返ってくる声はない。

 ただ、返答代わりとでも言うようにツバメは急降下を始める。


「先ずは手始めに……ッ!」


 上段から刀を振り下ろす。

 タイミングはほぼバッチリのはずだった。しかし、刀は何もない空を斬り裂いただけ。ツバメなんぞ捉えてすらない。


「……マジ?」


 急降下のタイミングから予測したのだが………さらに加速しやがった。


「くかかかかッ!」


 観客席から何か笑い声が聞こえるが無視。

 必要なのは……少しでも捉えること。加速したアレを捉えることは今のままでは難しい。


「くそぅ………」


 呑気に旋回しやがって……だが、あのツバメは修練場から逃げることはない。

 修練場に結界でも張ってあるのかね?まあ、それはいいや。


「そうだなぁ……」


 とりあえず、もう一回。さっきのを踏まえて……


「………!」


 何も斬ることなく、刀が虚しく振り下ろされる。


「あー、こりゃ無理だな」


 具体的にはタイミングどうこうの話じゃないってことだ。

 如何にグッドタイミングで刀を振り下ろそうが躱される。そりゃあそうだ。何も自分よりも遅いものにバカみたいに突っ込んでくるわけじゃないのだろう。

 そんなことをするのは、自分のスピードも制御できない愚か者だけだ。


「これが直線にしか速度を出せないやつだったら良かったんだけどなぁ………」


 どうも自由に進路を変えられるらしい。

 所謂ドラッグカーの如く、直線にしか進めないのならば良かったんだが………自由自在に曲がれるのに曲がらない理由はないってことか。


「ということは、だ。やっぱり、纏雷は使わないといけないのか」


 というか、身体強化しないと刀が当たることはないと思う。


「うん、ここなら出し惜しみはしなくて良さそうだ」


 左腕に巻かれている赤色の拘束具。それを外す。今は街中。こいつがモンスターを引き寄せることはないだろう。


「だが、お前は別か」


 上空で旋回していたツバメが突如として急降下を始める。今までのような速度では無い。


 急降下するツバメの姿がぶれた。


「……ッ」


 左脚。そこを貫かれた。

 再び、天空という安全地帯に戻っていくツバメ。


「……いいね、コレで決めよう」


 ツバメが急降下を始めようとする数瞬前。

 刀を納刀。抜刀の姿勢へ。


「全開だ」


 紫電が、今までの比では無いほど迸る。

 新たに取得した『雷耐性』が多少なりともHPの減りを抑えるが……焼け石に水といったところ。取得したばかりでは、効果を実感しにくい。


「ほう………なるほど、決死の覚悟か」


 そんな耐性など知らないとばかりに紫電はHPを食い尽くさんと荒れ狂う。


「………」


 ツバメの姿がぶれた。


 紫電が更に強まる。


 加速するツバメを強化された五感が捉え、それに肢体が応えようとする。


 足りない。それでは、間に合わない……ッ!

 ならば………


「……ッ」


………更に強めるのみ!


 紫電が雷雨のごとく、空間を喰らう。


「………シッ!!」


 瞬間、抜刀。


 刀とツバメが交わる。


 確かに捉えた。躱せるはずがない。


「……嘘だ、ろ?」


 しかし、その刃は依然として届かなかった。

 ツバメが、俺の身体を貫くことなく天空に戻っていく。

 どうやら、攻撃を止めさせることくらいは出来たようだ。


「チッ………そりゃあ、反則だろ?」


 HPがゼロになった。

『纏雷』を強め過ぎた反動だ。

 そこまでしても尚、届かなかった。いや、ある意味では届いたのか。


「ったく、空間転移なんてよ。反則に過ぎるぜ」


 間違いなく捉えたはずの刀は空を切った。

 しかし、避けられたという訳では無い。確かに、避けられたが………一瞬消えて、次に現れたのは刀が通り過ぎた跡ってのは笑えねぇよ。


 そして、静かに俺の身体は光となって消えた。





 ハクロの部屋。


「だー、あれは反則だろ」

「……何の話?いきなり、人の部屋に来ておいて、開口一番なに?」


 おっと、不機嫌だ。

 部屋の状況から見るに、呪術の実験か何かをしていた時に俺が来て邪魔をしたのだろう。


「まあ、まあ。ちょっとなぁ……ツバメがなぁ」

「ツバメ?………ああ、母さんが捕まえて来た鳥でしょ?そんなに強くなかったはずだけど………それが?」

「強くない?」

「そうだけど?速いけど………金縛りでも掛けられれば、簡単に倒せるからね」


 ああ、そうか。

 コイツには呪術っていう便利なデバフがあったんだっけ。確かに、動けなくしてしまえば楽だろうな。


「はぁ……じゃあ、知らないのか。アレがかなりデタラメなの」

「?」

「アイツ、ショートワープするんだよ」


 蛇だからいまいち分からんが、驚いている気配はする。

 そうなんだよな。ショートワープさえなければ、仕留められてたんだよ。


「ねぇねぇ、見たい!」

「ぐっふ!?」


 おまっ、首を締めるのはお願いじゃねぇ……!脅迫なんだよ!


 その後、三回くらいやらされた、三回もやる必要はあるか?とは思ったが、その度に首を締めて来たからな。いくら死に戻るとはいえ、遠慮がなさすぎだろ。

 もちろん、『纏雷』を全開にしなければショートワープは引き出せない。だがら、その度に自身の雷に焼き殺された。

 まあ、そのせいか『雷耐性』のレベルが上がったのは幸いだったが……



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