キャラ作成
『全ての始まりはあの時から始まった』
暗闇にただ、音声だけが響く。
その後、視界をジャックされたように映像が流れ始めた。
『七帝という厄災達が、魔物達が、全てを壊した』
七帝と呼ばれた厄災たちの影が森を焼き、家屋を壊し、山を穿つ。ある厄災は狼のような四足獣を、ある厄災は蛇を、またある厄災は妖精のような姿を。
彼らは厄災に恥じぬような暴力の塊だった。
『文明を、命を、そして大陸までも…』
人間はただそれを眺めているだけではなかったらしい。
『人類は生き残るために様々な手段を使った』
閃光が弾ける、轟音が響く。生存競争、その極地。SFレベルの科学力、それが惜しみなく振るわれる。核兵器のようなものだろうか……土地が焦土に変わり、海は干上がる。星のことなど考えない、なりふり変わらない暴力の乱舞。
『禁忌を犯してまで抗ったが、終ぞ滅ぼされた』
映像が『白』によって塗りつぶされた。おびただしい光の本流によってシャットアウトされ、視界が砂嵐に染まる。
『しかし、七帝達も深い傷を負った』
ザアザアと流れている砂嵐が、プッと消え失せた。
黒く染まった映像に、七対の双眸が爛々と浮かび上がる。しかし、その双眸の輝きは最初の映像と比べると、弱弱しい。
『簡単には治らない傷であったが、それも昔』
七対の双眸が闇に沈むように消えていき、人々の様子が浮かび上がる。
家屋の壁となる煉瓦を積み、木を伐採し、畑を耕す。素朴な人々の営みだった。それゆえに平和という言葉そのものを表しているような風景。
しかし、一転して雰囲気が変わる。
彼らが耕していた畑のそばの森の影。そこに煌煌と夜の闇を払うような家屋の光とは対照的に、怪しく光る双眸が輝いた。
『幾星霜を経て、今、再び、彼等は動き出そうとしている。だから、どうか手を貸してくれないだろうか?』
最後に闇の中に言葉を残してプロローグが終わる。
要約すれば、七帝と呼ばれる化け物達と戦って文明は滅ぼされたが、七帝にも深い傷を負わせた。けれど、傷が癒えて、七帝が動き出したから、助けてくれってことらしい。
まあ、事前に見ていた映像と何ら変わりはなかった。
「お?」
暗闇が晴れる。
晴れた先には、メカメカしいとでも呼べばいいのか……金属で覆われた床と天井、壁。その上に奔る配管。一際目立つように光を放つ台座。
ジャンル的にはSFに属するのか?どうもこんな感じのSF関係のゲームには手を付けないからイマイチ区別が分からん。個人的には『壬生浪』のような和風な感じか、中世ヨーロッパのような世界観がSFよりも好きだし、もっと言うならSFでもこんな風な近未来的なものよりも、蒸気が飛び交うような|世界観≪スチームパンク≫の方が好きだ。
「やぁ。ようこそ、この楽園へ」
「ん?」
いつの間にか目の前には少年がいた。年端もいかない少年で、人懐っこい笑みを浮かべている。
「お前は?」
「僕はチェイン。まあ、この世界の説明役さ」
成程。所謂、チュートリアルのNPCという訳だ。
「じゃあ、君は?ああ、キャラクターネームも兼ねてるからね」
「カガチだ。よろしく」
その言葉と同時、手元に現れたキーボードに打ち込む。
鬼灯修斗。鬼灯の昔の名前はカガチというらしい。だから、カガチ……よくある名前を弄っただけだ。
俺はゲームには同じ名前を使う人間だ。いちいち考えるのがめんどいってのもあるが、知り合いが分かりやすいってのもある。……電子の世界は広いからそうそう巡り合うことはないが。
「じゃあ、ステータスとキャラメイクどっちの方からやりたい?」
「んー。じゃあ、ステータスで」
「おーけ。ちょっと、待っててね」
そう言ってチェインは、手元の画面を弄る。
数秒後、目の前にはよく見るステータス表示が現れる。
ステータスは……STR、VIT……ああ、こういうタイプの。
「ステータスの割り振りは今じゃなくてもいいよ。けど、スキルは今決めてね。あと、職業も」
「ああ、分かった」
「ま、職業に関しては街で変えられるから……そんなに真剣に選ばなくてもいいよ」
空欄になっていた職業の欄をタップすると、無数の職業が表れる。
凄いな、これ。職業だけでかなり多い。しかも、戦闘だけじゃない。研究者、なんてものもあるのか………まあ、戦士でいいかな。戦士は他の〜使いとは違って、武器は限定されないが、スキル補正が少なくなるみたいだ。
理由としてはそんなしっかりとしたものはない。単にどんな武器を使うがわからないだけだ。無いとは思うが大剣や大斧なんて武器も使う可能性があるわけだし。ま、魔法使いだけはないけど……正直、自分の魔法の効果だのなんなりを把握しきれる気がしない。やっていけば覚えられるんだろうが……やはり斬った斬られたが性に合ってる。
「…スキル多いな」
次いで、スキル選択をしようと思うが、その数は職業よりも圧倒的に多い。
あまりの多さに頭を悩ませていると、チェインが声を掛けてきた。
「スキルに悩んでいるのかい?」
小さく頷くと、チェインはドンと自らの胸を叩いた。
「スキルは大きく分けて二つに分けられる。すなわちユニークスキルかそれ以外か、でね」
大雑把すぎやしないか……?
「そこ、大雑把って思ったでしょ。安心して、僕もそう思っているから。けどね、これが馬鹿にできないんだ」
「へぇ……」
「ユニークか否かの区別は、単純明快――この世に唯一かどうか。理由はいろいろあるけどね、たとえば一子相伝だとか、いつしか途絶えてしまったり、その人にしか扱えない、とか。どのような理由はあれ、オンリーワン。それがユニークスキルだ。まあ、ピーキーなスキルとかも多いよ」
あ、安心して、その中にユニークスキルは入ってないから。
そう付け加えて、一度チェインは言葉を切った。
「生まれては消え、消えては生まれる。ロウソクの火のように儚いけど、その身に太陽のような熱量を秘めている。それがユニークスキルだ。君もめぐり合わせがよければ、手に出来るかもね」
それで、チェインの話は終わりの様だった。
一仕事終えた、かというように額を拭ったチェイン。
そうか……ユニークスキルか。
知ってはいたが、なかなかそそられるな。なにせユニークなんて言葉は、ゲーマーからしたら垂涎の的だ。人間、どれだけ取り繕っても本心では特別になりたいと考えているもの。それは俺も例外ではなく、気分が高揚してしまう。
ま……まずは、スキルを選ぶことからだな。
「これでいいか?」
結果的に、俺のアバターはリアルの容姿を軽く弄った、黒に少し朱が混じったような髪に少し整えた顔。結局、いつものアバターと大して変わらない物となった気がする。個人的には結構いじったつもりだったんだが……どうにも使い慣れた顔、覚えのある顔になってしまった。
まあ、キャラクリに命をささげるタイプではないし……これいいか。
名前:カガチ
所持金:10000ルード
ジョブ:戦士
所属:なし
ステータス
Lv:1
HP:100
MP:100
STR:10
DEX:8
AGI:8
INT:5
VIT:8
《スキル》
·短剣
·隠密
·隠蔽
·跳躍
·錬金
どうやらステータスは職業によって、ある程度割り振れるらしい。これが、仮に魔法使いだったならば、INTやMPが上がって、STRなどが下がるだろう。あと、ステータスは割り振ってない。正直、ここで割り振らなくても良いなら、後で割り振った方が間違いも少ないだろうしな。
所属というのは色々あるみたいだ。国に仕えるならば、国の名前が入るみたいだが、通常は所属しているギルドが入るらしい。空欄のままのプレイヤーも多いのだとか。
「じゃあ、これが武器とアイテムボックスだよ」
手渡されたのは短剣だった。華美な装飾などなく、鉄製のただの短剣。これが、あらかじめ選んだ初心者装備だ。他には剣なんかもあったのだが……短剣が一番使い慣れていた。
あと、アイテムボックスと言われた指輪も渡された。一見すると、変哲のない指輪。しかし、指輪に触るとウインドウが開く。もちろん、中には何も入ってない。
「今渡したアイテムボックスは容量が少ないから、もし容量とかを増やしたいって言うなら買ってね……それ相応の値段がするけど。他にも鞄や袋タイプもあるよ。あげられるのは指輪型のだけだから、そこは我慢してね。それと、その中に入れられるのは君の物だけだから」
普通に売っているのか。金を出せば容量が増やせるってのはいいな。アイテムボックスってのは、すぐに一杯になってしまうイメージがあるからな。まあ、初心者に買えるような値段では無いだろうけど。
「それと、この中から初心者装備を選んで。別に性能は変わらないから、単に見た目だけね」
渡されたパンフレットをパラパラと捲る。
どうにもパンフレットは見かけだけではないらしい。ページを捲ればしっかりとデザインが書かれていた。まあ、途中から女性用になってしまったが……もしかしなくても、異性の物も選べるのだろうか。
「おおっ……結構多い。たかだか、初心者装備に力入れすぎじゃ……」
そんなこんなで、一つを選ぶ。
着物の亜種のような見た目のものだ。別に、性能が変わらないから趣味に走ったね。個人的に、鎧だとかそういう重いヤツは好きじゃない。
「少し待ってね〜……それっ」
言葉と共に光に包まれる。
光が消えると、既に装備を着ていた。
ああ……思ったよりヒラヒラしてる。ちょっと、気を付けないとな。木の枝なんかに引っかけてしまったら、大きな隙になりかねない。
そこまで進んで、一通りのチュートリアルは終わったのかやり切った顔のチェイン。
「知ってるかもしれないけど…こっちでは、二倍の速さで時間は流れるんだ。まあ、そこは頭に入れといてね」
それは知ってる。つまり、リアルでの一時間がこっちでは二時間になるということだ。健康に被害があるのでは?と一時期騒がれていたからな。
「ここから先は君の思うままだ。何をやってもいいし、何もやらなくてもいい。全ては君の中に…」
仰々しく身振り手振りを加え、チェインの口調が変わる。
「さあ、僕は……いや、僕達は君を歓迎しよう!」
少年のようなものから何処か謳うような口調へ。
「ようこそ!《ストレンジ・アルカディア》へ!」
その言葉と共に、俺の体が光に包まれる。
「ああ、そうだ。街に降りるか聞いていなかったや。別に街じゃなくていいよね?」
「別にいいけど……」
「よしっ!その場合は高所からの自由落下が──」
「は?」
その言葉が終わる前に、俺の身体はSFじみた部屋からいなくなり、超高度の大空に放り出せられた。
「ふざけんなぁぁああ!あのクソガキイいぃぃぃぃぃぃ!!」
俺の怒声はほとんどが、風を切る音に掻き消され、二分ほど続いた自由落下が幕を開けた。