祖父の意
「はぁ、やっぱりでかいなぁ」
思わず声が漏れた。
目の前にあるのはそこそこでかい爺ちゃんの家よりも更にでかい家。豪邸というよりも武家屋敷に近い家。幼い頃、爺ちゃんに連れ回された家の中でも最も大きかった家。
ホントに爺ちゃんの友好関係はどうなってんだか……一度、図にしたものを見せて欲しいものだ。
『御堂』と書かれた表札の直ぐ横にあるインターホンを押す。
『はい、どなたですか?』
「えっと、鬼灯|玄夢≪くろむ≫の孫の鬼灯修斗です」
「ああ!おじいちゃんの!入っていて下さい」
ガチャっという音が扉から鳴った。
それから少しして、扉が開く。
中は何処の貴族か、または旅館かという庭があった。芝生に石、松、果てには池。
最早、何も言えない。適当に見繕った菓子折が心許無い。自分では高いのを買ったつもりだが……これを見ると自分が庶民だと言うのが分からされてしまう。
「お久しぶりです。修斗くん」
道なりに沿って歩いて行くと、一人の女性がいた。
「お久しぶりです。ええっと……」
「覚えてないのも仕方ありませんよ。何せ、会ったのは十年近く前なんですから」
「すみません」
「長女の春香です。おじいちゃんの所に案内します」
スタスタと歩いて行く春香さんを追いかける。道中、たわい無い世間話などを交わす。昔、この家に来た時に遊んで貰った事は覚えている。あの時は兄さんと俺、春香さんと他の二人で遊んでいた。春香さんに聞けば、次女の夏美さんは家を離れているそうだ。三女の秋穂さんは今年から大学らしく、どうも俺と同じの大学だと言う。
「おじいちゃん、連れて来ましたよ」
離れに着いた。
どうやらそこが御堂蒼蓮、爺ちゃんの知り合いがいる場所だった。
「入れ」
離れに入る。中は剣道場だった。爺ちゃんの家にあるのと同じくらいの広さ。だいたい、体育館の半分くらいだ。その中央に袴を着た老人がいた。老いながらも、若々しい活力を感じさせる肉体がこの人も爺ちゃんと同じ領域の人間という事を感じさせる。
「お久しぶりです」
「大きくなったのぅ。あれから、十年ほどか。お兄さんは元気か?」
「……元気過ぎる程ですよ」
今、何処にいるのかも知らないが。今は……プロゲーマーだったか?前は世界を旅してくる!とか言って旅立っていたからなぁ。
「おーおー、そうかのぉ。ところで……」
「はい?」
「中々鍛えておるの」
「ええ、鍛えないと爺ちゃんの特訓が始まりますから……」
じろりと蒼蓮さんの視線が、なめまわすように俺の身体を駆け巡る。
湿った、粘性の視線ではない。むしろ、真逆の鋭い、猛禽類や肉食獣のような視線。まさしく、品定めだろう。
「そうか、そうか……」
あっ、なんか嫌な予感。
「それなら、少し実力を見てやるかの」
どうやら、お眼鏡に叶ってしまったようだ。
いつの間にか二振りの竹刀を蒼蓮さんは携えていた。
最初からやっぱりそう言うつもりか。
竹刀の一振りを大人しく受け取る。
こうなったら、やってるよ!
あー、ダメだね、やっぱり、化け物だよなぁ。足元に及んでいるかどうか。もうね、こっちが何やろうと、読まれてる。駆け引きとかそこら辺が甘いんだよな。場数というか、経験が圧倒的に足りていない。
「惜しいのぅ。まだまだじゃ。技というよりも──」
「駆け引きでしょうか?」
「なんじゃ、わかっておるのか。まあ、それは仕方ない所もあるがの。今の時代、武にばかり集中なぞは出来ないからのぅ。あとは単純に分かり易いってのもある」
「分かり易い、ですか?」
「そうじゃ。言ってしまえば、読み易い。というのも、こちらの動きを良く見とらんじゃろ。もっと、相手の動きを見よ。身動ぎ一つでも多くの情報がある。筋は悪くないのじゃから、精進せい」
「……ありがとうございます」
成程、もっと相手を見ろね。
ありがたい言葉だ。武を極めるつもりは毛頭ないが、こういう経験がゲームでの戦闘に役に立つのは事実なのだ。
「……お茶が入りました」
春香さんよりも若そうに見える女性。おそらく、この子が秋穂さんだろう。長い黒髪をなびかせて彼女は、離れに入ってきた。
「ありがとうございます」
「………」
何も言わずに、ただ軽い会釈をして彼女は下がっていく。
「すまんの。秋穂は人見知りでの、趣味さえ合えば饒舌になるのじゃが……まあ、同じ大学に通うのなら、少し気にかけてはくれないかの」
「分かりました」
「修斗君も何かあったら、儂を頼ってくれ。慣れない事もあって大変だろうからの」
それでその日は帰った。
爺ちゃんがなんで、今日俺を行かせたのかが分かった気がする。多分、こっちで後ろ盾を作らせたかったんだと思う。
後で感謝しておかなければ……まあ、素直には受け取らないだろうけど。
「なんか久しぶりだな」
風に運ばれる火薬の匂い、鳴り止まぬ剣戟。
約三日程度か。それでここに帰ってくるとは……ううむ、懐かしく感じてしまう。
…………ジャリ。
「甘い」
「クッ」
まだまだだな。背後からの奇襲なのに、物音を立てたらいかんよ。それだけで気づける。普通のオンラインゲームならまだしも、相手が全員敵と思わなければならない『壬生狼』では致命的だ。
「それで?」
ここは何処だ?前回のログインした時はイベントだったから……うん、適当に蹴散らして、詰所に帰らなかったのか。
まあ、今回は詰所に行く気はないし、そこは好都合。
「おい、あれって……」
「ああ、鴨がネギしょって来たぞ」
「今夜は祭りだぜ」
チラホラ集まってきた。釣り餌はこの前のイベントの刀でいいか。刀を装備する。それだけで周りの目の色が変わる。
ええっと、刀の能力は……倒す度に耐久値の回復、切れ味の増加か。おお、長期戦にはもってこいだな。
「……へへ、お前を探してんだぜ」
「は?」
「お前を倒して──」
何言ってんだこいつ。そんなバカみたいに口上を述べていると…………
「──え?」
ほら、後ろから刺された。
それで終わり。『壬生狼』での協力プレイは命懸けだ。フレンドリーファイアは当然に有効だからな。協力一つにも悪意がある。だから、協力する時には敵だけでなく味方にも注意をしなければならない。
とはいえ、コイツらを協力、連携というのには気が引ける。
「オラッ!」
「……シッ!」
「死ねェェ!」
あの初心者を皮切りに、戦闘が始まる。多対一。協力という訳ではない。ただ、鯉が餌に群がるのと一緒なのだ。我先に獲物を得たいが為に群がる。
まずは、相手をよく見て、視野を広く保つ。
刀を避け、カウンター。しかし、それも隙となる。それを狙って横から刀が振るわれる。
「チッ」
距離は取れない。なら……動き続ければどうか?舞うように、流れるように……。
「……こんな感じか?」
思ったより難しい。数が多いのもあるが、足を止められないのが難しい。一人一人の動きが集中して見れない。やはり、アニメや漫画のようにはいかないな。というか、アニメとか漫画の強キャラは化け物すぎやしないだろうか?
「……ぐふっ!?」
「……はっ、タイミングが分かり易い!」
肉盾。プレイヤーという柔らかい壁で視界を塞ぎつつ、後ろから斬りかかり、または突くという、良心を無くして初めて出来る技。少年漫画のように、『俺ごとやれ!』なんて言う自己犠牲のシーンはない。むしろ、了承を得て行う方が珍しいのだ。
使えるものは全て使う。それがここの常識。だから……周りにいるプレイヤーを全て道具として扱っても、何らおかしくない。
「やべっ!?」
「……これはッ!」
「玉屋か!?」
爆弾。
いや、花火か。
……『鍵屋』か『玉屋』、どちらだ?
周りを踏み台にして、屋根に飛び乗り回避する。
「……いたッ!」
後ろで爆発。何人かが犠牲になったな。
目の前には法被を着て、ひょっとこの仮面を被った巫山戯た男。ということは、『鍵屋』だ。ちなみにだが、『玉屋』はおかめのお面を被った女である。
駆ける。鍵屋目掛けて。
「……!」
『鍵屋』が親指で下を指すジェスチャーをする。つまり、死ね、と。
「──罠かッ!」
直後、花火は投げられた。一つ、二つ、三つと。
一つは俺に当てるように、二つは足元にも設置されていた花火にも誘爆するように。酷くスローに見える。迎撃は……無理。一個なら何とか……しかし、三つは無理だ。一つ迎撃している間に二つが着弾、そして誘爆で終わりだ。
躊躇いなく、宙に身を投げ出す。
「──うおっ!?」
左方で爆発。
危ねぇ。危うく、巻き込まれる所だった。花火屋は……よしっ、上手くいったな。上手く、短刀が投擲出来た。あれは喉に刺さったか。半ば運だったが……なんだかなったな。
戦場は再び、地面に戻る。
周りは再び囲まれ、四面楚歌。されど、感情の昂りは最高潮。
「──さぁさぁ!祭りはこれからだ!」
まだ、夜が明けるには早いぜ?




