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ストレンジアルカディア  作者: 東夜 空
亡き友に盃を
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女王2


「……ああ、そういうことかよ」


 目の前の女王が明らかに勝ち誇ったかのように、隙を晒す。

 こいつは、何処までも女王なのだ。矢面に立つことはないだろう支配者。

 俺達が倒したのは、飽くまでも巣の周りの奴らだけ。巣から離れている奴らは倒していない。あの匂いは、つまるところ集合の合図ってところか。


「ふぅー」


 誘うようにニードルビー達の後ろに下がっていく女王は無視だ。

 数は……十匹はいるか?

 ハクロは……ダメそうだ。こちらに視線を向けるも、その眼が無理だと語っている。

 まあ、一人でハチノコの相手してんだもんな。


「……ん、一人?」


 そういや、セイカは……居た。


「どのくらい必要だ?」

「……三分以内には終わらせてみせる」


 先程と同じく、懐から道具を取り出し、慣れた手つきで操っていたセイカに、声を掛けた。


「三分、ね」

「なんだ厳しいのか?」

「はっ!余裕に決まってんだろ!」






「んッ……にゃろ!」


 右からの針を上手く逸らしながら、次の攻撃に備える。次は左と後ろ。ほぼ同時に、その身に赤い何かを纏わせてニードルビーが襲いかかってくる。


「チッ……」


 正直に言って舐めていた。

 三分。それもただ耐えるだけならば、何とかなるだろうと。たとえ、相手が十匹という数的アドバンテージを持っていたとしても、だ。

 ただ、それは先程までの話だ。そこにバフが加わると話が変わってくる。


 後ろと左から放たれた大針。それの速度は先刻と比べると天と地の差だ。


「くっ」


 赤い何か。それを纏った瞬間から、奴らは豹変した。

 原因はわかっている。十中八九女王だ。

 何も守られるだけの存在じゃなかったようだ。

 さっさと女王を倒せば万事解決。戦闘も楽になる……訳だが。それは、あちらさんも重々承知のようで、常に四匹程を守りに割いている。


 この状況で、四匹も守りに裂いてくれるのは嬉しい誤算なのだが……それを補うように残りの六匹が狂騒するのだ。


 左と後方から、いやらしく高低差を付けられて放たれた大針。それらを素直に待ってやる必要はない。

 身に纏う雷を僅かに強め、左に詰める。

 針がはためいた衣服を裂いて、すぐ側を通り過ぎた。


「ふっ」


臀部を突き出した形になったニードルビー。晒された腹部に向かって、刀を振り下ろす。

ほとんど抵抗なく、刀は腹部を両断した。


「これで、一匹」


 身体半分と別れてしまったニードルビーはしばらく飛んでいたが、やがて落ちて、光となって消えた。

 まあ、耐えるとは言ったが、倒さないとは言ってないしな。ん?耐えるとも言ってないか?


「さて……」


 一匹が倒れた瞬間、攻撃が止んだ。

 ふむ?様子見か?それとも、俺の脅威度でも上げてんのか……まあ、いいや。そっちが時間を潰してくれるなら好都合。

 どうせ、女王様のお守りは外せないだろうしな。まあ、十匹いる内の一匹を倒したところで、大して変わらない訳だが……


「そこはぼちぼちと、ね」


 取り敢えず、三分耐える。いや、残りは二分くらいか。

 数を減らしておきたいが、それは出来たらでいいや。


「ふぅっ……」


 軽く息を吐いて、緩んだ思考を切り替える。

 目の前には迫り来るニードルビー。それも先程の比ではないスピードで。見れば、奴らの纏う赤い何か。それが紅く変わっていた。


「チッ」


 もう一段階上ってことか。厄介な。

 HPは……半分を切ったか。MPも残り少ない。そもそも、ジョブやらステ振りの関係で元々少ないのだ。


 しかし、今心配すべきはMPじゃない。これ以上の纏雷は厳しいという点にある。


「……ッ!」


 二匹、三匹と絶え間のない攻撃を何とか凌ぐ。

 しかし、その速さは先程の比ではなく。限界を通り越して命さえも燃やしているような感じがする。


「……不味い」


 視界の端で、HPゲージが赤く点滅し始める。

 一旦、回復しないと不味い。調べたところによると、このゲームはスリップダメージでは死なないような優しいつくりではない。スリップダメージでも容赦なく死ぬ。


「……まだか」


 セイカはまだかかるようだ。体内時計が正しければ、あと一分半くらいあるはず。


「……仕方ない」


 容赦なく襲いかかってくるニードルビー達を前にして、纏雷を解く。

 突如として、ニードルビーたちの動きについていけなくなる。

 拮抗していた天秤が、ニードルビーたちに傾き始める。


「やっぱ、キツイ、なッ!」


 想像以上に厳しい。なんせ、こっちは強化無しに加えて下手に攻撃を受けられない。あっちは、バフを受けていて、攻撃を受けても代わりがいると来た。


「あ……」


 その声を漏らしたのは誰だったか。割と高確率で俺だな。うん。


 目の前から迫るニードルビー。それが炎に呑まれた。その炎は意志を持つように、蛇を形取って次々とニードルビー達に、その毒牙の餌食にせんとする。

 誰がやったかなど、一目瞭然。


「サンキュー、ハクロ!!」


 ハクロがいた筈の場所に視線を移しながら、HPを回復しておく。

 ハクロの援護によって、ポーションを飲むだけの隙が出来たのだ。

 視線の先。ハクロが居たはずの場所には、炎蛇が暴れ狂った証とでも言うように、燃やされ続けるハチノコが何匹か。あ、今一匹死んだ。


「危なかったね」

「おわっ!?」


 いつの間に移動して来たのか、ハクロは後ろにいた。

 そして、驚く俺なぞ知ったことかと、スルスルと袖の中に戻っていく。


「はぁ……まあ、サンキュー」

「いいって。それで?」

「今はセイカ待ち。多分、そろそろだと思うけど───」

「よし、終わった!」


 お、ちょうど終わったみたいだ。

 先程と変わらず、独特の匂いを持った煙がモクモクとニードルビー達に向かって歩を進めていく。


「んー、これって炎蛇必要ない?」

「多分な。まあ、取り敢えず休んでおいてくれ。煙が晴れても倒し切れなかった時は、金縛りよろしく」

「りょーかい」


 気の抜けた返事をして袖に潜っていくハクロを視界の端に、煙に入っていく。

 相変わらず何も殆ど見えないが、それでも羽音は聞こえるし、薄らとだが、影も見える。


「それで十分だ」


 奴らはこの煙の中では酷く動きが鈍る。というか、殆ど動かない。加えて、連携もないというからには、最早ただのデカい的だ。


「ふっ!」


 一閃。刀の一振りで両断し、次の獲物に移る。

 シルエットが見える場合なら楽なのだが、如何せんこの煙では近くに行かなければ、それは見えない。まあ、大体は羽音を頼りにして獲物を探す訳だ。


「いた」


 シルエット。それに一閃。

 阻まれるような感覚は殆どなく、シルエットを両断する。


「あと……」


 煙の中で二匹。その前に一匹倒したから、最低でも残り七匹。とはいえ、セイカも少なからず倒している筈だ。


「羽音は……こっちか」


 一番近い筈の羽音に向かって走る。

 見えた。変わらないシルエット。


「……!!」


 刀を振るう。今まで通り、抵抗なくニードルビーを斬る筈の刀は───


「な………ッ!?」


───空を切った。

 煙が晴れたように思えた。だが、違う。

 風に乗って流れていく筈の煙は不自然にそこに留まっていた。まるで、風に逆らうかのように。


 そっちは風下だったはず……ッ!?


「不味…………ッ!?」


 クソっ、誘い込まれた!

 晴れた視界に入ったのは女王と四匹のニードルビー。その中の一匹が、紅い粒子を纏って迫って来ていた。

 迫り来るニードルビーから逃げるようにして、後方の煙の中に戻ろうとする。


「ッッ!」


 だが、遅かった。

 バックステップで逃げる俺を後押しするように、ニードルビーの大針が横腹を貫く。


「……!!!」


 チッ、回復したHPが全て消えたが………何とか逃げれた。

 当たり所がよかったのか必殺の一撃は、致命傷に収まる。そして死んでなければ癒せるのは、ゲームのいいところだ。


「はぁはぁ……」


 取り敢えず、HPを回復しておく。

 煙が消えるまで、あともう少しある……はず。

 そうだよな。ついつい頭から消えていたが、魔法をヤツらが使えないということないだろう。

 使ってたのは、多分風だ。とはいえ、使えるのは女王だけじゃないか?女王の護衛とはいえ、あの四匹はやけに女王の近くにいたような気がする。

 それに他の個体も使えるはずなら、すでに使っているはずだ。


「まあ、それは兎も角として」


 この頃、真正面からのタイマンしか行って来てなかったせいで影が薄かった『隠密』を発動しておく。


「……ハクロ」

「?」

「俺が合図したら金縛りよろしく」

「了解」


 先程と同じ場所からは出ない。

 少し迂回して、ニードルビー達からは死角となる木を伝って煙幕から抜ける。

 ……欲を言えば、セイカを見つけておきたかった。だが、無い物ねだりはしてられない。


 現在地は女王の後方、二十メートルほどの風下。やはり、煙を風の魔法で堰き止めているらしい。風下のこちらまで煙は流れず、不自然に留まっていた。


「…………」


 袖の上からハクロをタップする。それが合図だ。


「金縛り」


 女王を含め、ニードルビーの行動が明らかに鈍くなる。

 狙うは女王の首一つ。

 纏雷を再発動し、最短で女王の元にまでたどり着く!


「──────!!!」


 気付かれた。女王が俺を捉え、その配下たるニードルビー達は俺にその大針を向ける。

 だが────


「──────!!!!!」


────遅い。

 金縛りで大きく敏捷性を削がれているのもあるのだろう。だが、幾らそちらが強化しようとも、纏雷で強化された速度には敵わない。


 強化された身体は迅雷の如く、女王との距離を詰める。


「─────────!!!!!!」


 風の壁が出来ていく。

 やはり、女王があの魔法の使い手だったか。

 だが、その手は些か遅すぎる。


「『縮地』」


 風の壁。俺があの速度のまま進んでいたのなら、順当に出来上がっていただろうそれは、俺が『縮地』という高速移動スキルによって距離を詰めたことで意味を成さなくなった。


「────────!?!?!?」

「その首、頂くぞ!」


 混乱している女王に一閃。

 節目を縫って振るわれた刀は、驚く程簡単に女王の首を飛ばした。


「…………!!!」

「……………………!!!」


 護衛のニードルビー達の針先がこちらを向く。

 女王を取り囲むように守っていた奴ら。そこに、俺が女王を討つために入ったんだ。当然、囲まれている。


「…………!!!」

「なんだ、怒っているのか」


 カチカチとハチ特有の威嚇音を出して、ヤツらは俺を突き殺さんと大きく腰を引いた。


「だが、忘れてないのか?俺は一人じゃないぞ」

「…………………………!!???!?」


 二匹の声にならない断末魔が木霊する。

 そりゃそうだ。俺は一人じゃない。俺に注意を引かれて、後ろが疎かになっているぞ?


「よお、セイカ」

「『よお』じゃないっ!気がついたら、なんか女王に吶喊してるし、何やってんだよ……」

「いいじゃん。そのおかげで、二匹を苦もなく倒せたんだし」


 はぁ……と溜息を吐くセイカの身体からは、以前見た赤いオーラが出ていた。


「さて、残り二体だ」

「……ああ、さっさと終わらせるぞ」


 何処か疲れたような声音のセイカ。

 全く、一番動いてないのに………なんで疲れてんだ。





「ふぅー」


 ベッドから立ち上がって、身体を少し動かす。

 あー、身体重てえ。何時間も横になっている弊害だよなぁ。

 あの後、ニードルビーを倒した俺たちは大人しく街に戻った。もう日が暮れていたので、ヒイロの店には寄らず、そのまま解散となった。というか、単純に疲れていたんだよなぁ。

 まあ、そのままログアウトして、現在に至るというわけだ。


「どーしよ」


 時刻は夜の九時。

 寝るには些か早いが………他にやることもないしなぁ。取り敢えず、今日はもうログインしないつもりだ。

 んー、先ずは飯かね?


「む?」


 チャットが三つとメールが一件来てる。

 えっと………兄さんにウォルター、グラーフまで。コイツらは多分ストアカ。

 メールは……爺ちゃん?


差出人:ウォルター

本文:今、どこらへん?俺も復帰したから、まだ、アインセンなら一緒に進めようぜ。


差出人:グラーフ

本文:聞いたよ?ストアカ始めたんだって?今は少し手が離せないけど、空いたら遊ぼうねぇー。


差出人:鬼灯 翔太

本文:今どこら辺?何か手伝おうか?


 うん、兄さんとウォルター、グラーフはやっぱりストアカだな。それにしても、グラーフもやっていたのか……まあ、人気ゲームだ。アイツがやっていても不思議じゃない。


 問題は爺ちゃんだ。あの人、普段は連絡してこないくせに重要な事だけメールで送ってくんだよなぁ。それも、自分ではやりたくない事が主だから、質が悪い。


件名:孫へ

差出人:鬼灯 玄夢

宛先:鬼灯 修斗

本文:儂の知り合いの御堂って覚えてるかの?挨拶しに行ってくれんか?もう、明日に孫が行くと伝えてあるからのぉ。よろしく頼んだ。


 ほら。こうやって、既に退路も塞いである。

 御堂さんって言うと……ああ、あの人か。昔、連れていかれたなぁ。衝撃的だったからよく記憶に残ってる。ってことは、明日はゲーム出来ないかぁー。


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