ニードルビー2
「それで?」
あれからニードルビーを何匹か倒した。
さしたる苦戦もなく順調そのものだったが、少しずつニードルビーの数が増えている。エンカウントもしやすくなった。
つまり、それは……奴らの巣が近いことを意味している。
「奴らの巣は地上に作られる。大きすぎて木にはぶら下がらんし、地下には出入りが難しいからな」
「成程」
「この先に巣はあるだろうが……規模によるな。できれば潰したいが、大き過ぎると流石に無理だ」
そりゃあ、二人と一匹しか居ないからな。五十匹とかに群がられたら無理だ。というか、想像もしたくない。
「まあ、見てみないと分からんだろ」
「それもそうだな」
自然と俺の腕に帰って来たハクロとセイカと共に奥に進む。
歩いて五分かからない程でそれは見えた。
「これは……どのくらいだ?」
「まだ、出来たばかりだろう。そうだな、約三ヶ月と言ったところか」
デカい。およそ蜂の巣という物の常識を超えた物があった。作りかけではあるが、平屋くらいはある。
これは地上に作るしかない。
木の枝にこれがぶら下がっていたら、軽くホラーだよなぁ。
その周りに何匹だ?だいたい……八匹ぐらいか。まだ中にはいるだろうが……外にいるのはそれだけだ。
「無理じゃね?」
「いやいや、これをどうにかする方法があるんだよ。まず、外のニードルビーを誘き出すんだ。本来は蜂を誘き出す為に道具を使ったりするんだが、今回はいい物がある」
「いい物?」
確かに、おびき寄せることが出来るなら何とかなるかもしれない。なんせ、巣からの援軍が厄介だからな。八匹……なら何とかなるかもしれない。ニードルビーとの連戦を経て、レベルアップもしていることだし。
それにしてもいいものとは何だろうか?
「お前だ」
ずいとセイカが俺を指さす。
「俺?」
なんか、いい物あったかなぁ。いや、持ってないハズ……だけども。
「お前…もしかして……」
「これでもヤト様に仕えているからな。呪印のことは聞いているよ。だからさ、その封印を解けば万事解決だろう?」
ああ、それがあったか。いやはや、盲点だった。
遅かれ早かれ、試しておきたかったからな。いい機会だ。
そうやって考える俺を、セイカは渋っていると感じたのか、聞き分けのない子供に言い聞かせるように言う。
「実際、取った方がいい。誘き寄せることを抜いてもな。聞いた話だと多少なりとも身体強化が出来るんだろう。なら、やっておいた方がいい」
それに頷いて、右手に巻き付けている包帯を外す。
たったそれだけの行為。しかし、俺自身を極上の餌だと直感したのか外に出ている全ての蜂が一斉にこちらを向く。それどころか、巣からも続々と出てくる。
おいゴラァ!作戦が成り立ってねぇじゃねぇか!
叫びたい気持ちを抑えつつ、セイカを横目に見る。セイカもこれは予想外だったんだろう、額に汗を浮かべながら顔を引きつらせている。
何やら慣れた手つきで道具を弄ってるが無視だ。
「やべぇな……ハクロ!」
「わかってるよ。呪術『金縛り』『炎呪の蛇』ッ」
金縛りにより全体の約半分程に麻痺が、そして全員に敏捷低下が付与される。
そして顕現する炎の大蛇。
『炎呪の蛇』というのはその名の通り、炎の蛇が出現し蜂共を攻撃すると言うものだ。それもハクロが自在に操作出来るようで、俺とセイカから離れた奴らを攻撃している。
麻痺にかかった奴ら諸共、巻き込むようにして離れたところで炎蛇がとぐろを巻く。
「チッ」
かなりの数が巻き込まれたとはいえ、こちらに向かってくる蜂は多い。
到底、一人で捌き切れるような量じゃない。だが、俺が狙われていることが幸いした。そのおかげで、セイカが狙われることはない。
左からの迫るニードルビーの噛みつきを回避して、刀を……無理だな。
回避した先。そこで待ち構えるようにしていたニードルビーの針を何とか刀で逸らす。
「危ねぇ!?」
あの針は凶悪すぎる。噛みつきなど可愛いものだ。
食らえばほぼ間違いなく死ぬ。それも腹に大穴が空いて。
「……ッ!」
そんな不安を抱きながらも、挟むようにして襲ってくる蜂を後目に捉える。
不味い……躱せるか?
襲ってくる奴らは前と後ろから。しかし、回避することを読んでか、左右に待機………じゃない!
「ズラして……ッ!」
左右の蜂が動き始めたのを見て、考えを改める。
攻撃は……おそらく、針。
回避は……無理だな。上に跳んで逃げるなら、遅れて迫ってくる奴にやられる。
どうする?一撃を受ける?
馬鹿な考えだ。無理に決まってる。なんだって、まだ初心者装備だぞ?それに、呪印のせいでVITが低くなっている。元々から低かったからとはいえ、素直には受け入れられない。
さて────
「……よし、これで……」
「あ?」
──瞬間、俺は蜂諸共、煙に包まれた。
蜂共の仕業という訳ではあるまい。煙が流れてきた方向、直前の声。あの男しかいない。というか、その方向にはあの男しかいなかった。
煙の中を何とか抜け出して、煙の出処であろう場所を睨む。
やはりというか、当然というか、その男が笑みを浮かべていた。
「ゴホッゴホッ!……何が、よし、これで……だ!何をやるかぐらい言えやァ!」
「す、すまん!」
「というか、元々はお前の杜撰な作戦のせいだろ!」
あー、腹が立ってきた。
そうだよ。元々、こんなのになったのはアイツが、呪印を解放させたからだろ。確かに、身体強化っていう面では解放しておいた方がいいんだが……ヘイトが半端ない。
「それで?あの煙とそれは?」
セイカの足元から収まることを知らないかのように湧き出す煙、そしてそれを吐き続ける香炉。
「……これは沼地に生える───」
「長い。簡潔に!」
このバカ。今、戦闘中だぞ?そんな長くなりそうな話は聞いてられるか。要点だけ話せ、要点を。
「蜂たちの連携を取れなくすることができる!それと、多少の混乱!」
「了解ッ」
言われてみれば、確かに攻撃は飛んで来なかった。
あの煙の中で、まだ混乱中か。
なら、やることは一つだ。
視界の端で抜刀したセイカを捉えて、煙から薄らと見えるシルエットを攻撃する。
刀はシルエットを呆気なく両断した。
「次」
見つけた。
右前方。数は二体。幸いにも、まだ混乱は解けていないらしい。
「……フッ!」
近くにいた方の蜂を袈裟斬り、そして返す刀でもう一体の蜂を倒す。
刀が良いのか、ニードルビーが柔らかいのか。おそらく、その両方であるが……どちらにせよ、今の状況では好都合だ。
「今のうちに出来るだけ、数を減らす!」
「─────!!!」
声にならない叫びを、いや、単に俺がそう認識しただけなのか最後のニードルビーが、ハクロの炎蛇によって燃えた。
「ふぅ……」
やっと終わった。
まあ、実の所、厳しかったのは最初だけだった。
セイカが、あの煙を使った時点で、ニードルビー達はかなり倒し易かった。後から考えると、ニードルビーというのは、一撃必殺の大針を持っていながら、団体行動を得意とする生物なのだろう。
あの煙が何なのかは知らんが、単体行動が主になったニードルビーってのは、攻撃が大雑把で相手し易かった。
「おーい、終わったぞ」
そう言って、セイカが歩いてくる。その手には、素材が入った袋。
今回の事態を引き起こす原因となったセイカ君は、自らニードルビーから剥ぎ取りをしていた。
「うむうむ、苦しゅうない」
「いや、なんだよ……それ」
「えっと……」
ノリの悪いセイカを無視して、素材を見る。
羽、針、毒。素材は、さっきの戦闘と変わらないらしい。変わったところは……針が多いってところか?そこは確率なのだろう。
「それで、どうする?」
「どうするって?」
「いや、もう帰るか?流石に、消耗しただろ」
「……うーん」
正直なところ、俺としては続けられるんだが……ハクロがなぁ。
足元でダラっとしている所を見ると、かなり消耗したようだ。どうやら、あの炎蛇は消費が多いらしい。
「そうだな、そろそろ帰るか。針も十分だしな」
ついつい忘れていたけど、俺の目的は針なんだよ。短剣のために蜂狩りをしていたのだ。
いや、手持ち足りるか分からんけども。まあ、足りるかな?針を持っていけば、その分引いてくれるらしいし。それに、他の素材も換金すれば何とか?
下らない思考に労力を費やす俺の足元に居たハクロが突然、その頭を上げた。
「……?」
「……どうした?」
キョロキョロしてどうした?
「……!来るっ!」
その言葉と同時、ニードルビー達の努力、いや、労力の結晶とも言える巣が音を立てて崩れた。




