稽古でしか得られないものがある
ドルドルの勧誘を蹴った俺は、エバーテイルに戻ってきていた。
レンとソウタはまだしばらくダンジョンに潜るようで、ダンジョンに潜る時には声をかけてくれと別れた。
────カンカンッ!!
軽やかな木の音が響く。
俺は蛇帝殿の訓練場──以前、セイカと戦った場所にいた。
ここは普段はセイカたち鬼人の訓練に使われている。
たまぁに俺も訓練に参加しているのだが、これが良いスキルのレベリングになるのだ。俺はレベルはそこそこ高いのだが、それはライガや蟻たちと戦ったせいである。短期間にレベルを上げたのは良いのだが、スキルレベルはレベル帯に対して低い。それを補うために、こうして訓練に参加しているという訳である。
「ぐわッ!!」
あ、セイカが倒された。
「くそ・・・ジジイめ」
「ほほッ、まだまだじゃのぉ。若い若い。それじゃ、この爺を倒すのはまだ先になりそうじゃの」
枯れ木のような身体の鬼人は笑う。
白いひげをいじる姿は、知り合いの爺どもを彷彿とさせる。
その時だった。
倒れているセイカと目が合う。
「「あ」」
声が被った。
考えていることは同じだろう。
「カガチィ!!」
パァっとセイカの顔が輝く。
それは嬉しい笑みというよりかは、同じ境遇に叩き落としたい類のもの。
自分だけ辛い思いをするのは嫌なのだろう。
まあ、もともと訓練に参加しに来たのだ。
逃げるつもりはない。
・・・ないんだけどなぁ。ああいう顔を見ると逃げたくなる。
「よ。元気にぶっ飛ばされてんじゃん」
「・・・うるさい。カガチも同じだろう」
「いやいや、今日の俺は違うよ」
その台詞前も聞いた・・・とセイカがうめく。
それは兎も角として・・・
「お久しぶりです。ジンカ殿」
「ほほっ、お主のサボり癖には困ったもんじゃと苦言を呈したいところだが、お主は異邦人。加え、見ないうちに強くなる。これじゃ、文句も言えまいて」
ジンカ殿はそのひげを弄りながら言う。
このNPCはジンカ。蛇帝殿の剣術指南役だ。
多くの鬼人がこの人に教えを乞う剣聖である。
かくいう俺も度々訓練させてもらいスキルを伸ばしている。
「まあ、時間が勿体ないの。早速、やるかの」
翁が、木刀に力を入れる。
それだけで息を呑むような殺気が身体を貫く。
へっ、相変わらず大人しいのは言葉遣いだけだぜ。
「こちらこそ」
先手は譲れない。
『縮地』で距離を詰めて、木刀を振るう。
案の上、防がれるがそれは布石。次の斬撃に繋げる!!
「『風切』!!」
侍の攻撃スキルだ。
スキルの効果はシンプル。強い斬撃だ。
木刀がエフェクトを纏って、ジンカを狙う。
ジンカは多少、驚いたようだったが・・・それだけだ。
「『破断』」
俺の『風切』が上位スキルによって返される。
「大人気ねぇ、だろ!それは!!」
ちくしょうめ。
ジンカのジョブは『剣聖』だ。あらゆる流派を使う剣の達人。
いつか戦ったゴードン君も『剣聖』であったが、アイツは武器に頼りっきりでスキルはほとんど使ってなかった。まあ、スキルを使ったよりもダメージが出るんだろうが・・・
兎も角、『剣聖』というジョブは剣や刀を使う職業であるなら成れる最上位ジョブだ。そのジョブの特性上、武器による理解を深め、剣士や侍といった剣系統のスキルなら覚えることができる。俺は侍のスキルしか使えないが、剣聖は剣士のスキルも使えると言うわけだ。
『剣聖』の強みは、その汎用性。それと使いやすさ。様々な場面に応じて、スキルを使い分けられる訳だ。もちろん、膨大なスキルに対する理解が必要になるが。
「さて、どうする?」
弾かれた俺をジンカが狙う。
強引に作った隙を狙い、ジンカが木刀を振るう。
迫る木刀。
どうする?差し込めるか?否、間に合わない。
では?
「おおっ!!」
体勢は無理に直せない。
むしろ、弾かれた勢いをそのままに。地面から足を離し、切り上げられる木刀を踏み込む。
「どりゃ!!」
斬撃は俺の足により防がれ、俺はその勢いを利用して距離をとる。
一瞬、天と地が入れ替わったが、そこは『空歩』で整える。
「ほう、儂の攻撃を利用したか・・・」
「へ・・・」
「関心したいところじゃが、それは侍というより軽業士じゃの」
「へへっ・・・」
全くその通りのことで・・・俺だって、同じことやれって言われてもできないわ。
「ま、今のは儂も大人気なかった。いつものように次はやるかの」
そう言って、ジンカは再び構えた。
いつものようにとは、ジンカが徐々にギアを上げてくれるやり方だ。最初は同じくらいの力量で、そこからジワジワと技量を高めてくれる。
まあ、敵が強くなり続ける耐久ゲーみたいなものだ。
ジンカがはよ切り掛かってこいと言わんばかりの、視線を送る。それに俺も応えるように木刀を振るう。
木刀のかち合う音が響き、だんだんと大きくなっていく。
十分も経つころには、俺は『纏雷』を使わねばいけない程に追い詰められ・・・腹にいい一撃を見舞いされた。
「だぁーーーー!!!!負けたぁ!!!!」
はぁはぁとスタミナ切れを起こす身体を、なんとか起こす。
「いやはや、また強くなったのぉ。儂も押し切られるかと思ったわ」
「ど、どの口で・・」
ケロッとしてやがって・・・
息も乱れてないし・・・
「し、しっかし・・・」
『纏雷』が変わらない。
「もう一段階、上があるはず・・・」
ライガの白雷じゃないが・・・確かにあの時、俺の『纏雷』は黒かったはず。
以前と変わらず紫電のままだ。いや、文句はないんだが・・・『纏雷』にはいつも助けられている訳だし。
だが、さらなる可能性があるのなら探さない理由はない。
「なんじゃ、不満か?」
「い、いや、そういうことじゃないんですが・・・前に変な雷を出せて」
「変なとは??」
ジンカに『兜王蟲』の時に起こったことを説明する。
ジンカは『兜王蟲』の話に興味を持ったのか、手をうずうずさせていたが話を真面目に聞いてくれた。この人、斬ってみたいんだな。
このNPCのAI、『壬生浪』から持って来たんじゃないだろうな。
「お前、さらにビックリ箱みたいになってんのな」
「うるせぇぞ、セイカ」
お前も聞いてたんかい。
さっきまで、少し離れてたのに。
人のことをオモシロビックリ人間みたいにいうんじゃない。
「それにしても、黒い雷とは・・・なかなかに面妖じゃのぉ。しかし、儂が聞いた『迅雷流』にそのような雷はなかったはずじゃが・・・」
ん?ジンカの爺さん、『迅雷流』を知ってんのか?
「知っているので?はるか昔に失伝したものと聞いてましたが」
「無駄に長生きしているのでな。各地に剣帝の逸話は残っておる。失伝した流派とはいえ、その痕跡が消えたわけではないということじゃの。それにココは蛇帝ヤト様のお膝元じゃ。たまぁにじゃが、ヤト様からお話を伺う機会もある」
そう言って、ジンカは言葉を切った。
なるほどね。それもそうか。ジンカのいうことには一理ある。
ま、それはそれとして、話の続きを聞きたい。
そんな俺の内心が表情に出ていたのか、ジンカは急かすでないと言葉を紡いだ。
「『迅雷流』の雷は、紫電から始まり、赤雷に変わり、白雷に至る。その威容たるや雷そのものであったという」
紫、赤、白。
ライガの『纏雷』は白だったか・・・まあ、だろうな。アイツが秘奥に至ってないわけがない。
いや、重要なところはそこじゃない。
ジンカの話には、俺の黒雷はない。
「それじゃあ、あの『纏雷』はイレギュラーってところか」
「じゃろうな。少なくとも、『迅雷流』にはないからのぉ」
何が絡んでいるんだか・・・
だが、これはあのライガとも違う。アイツの『纏雷』を上回る可能性がある。
俺とジンカ、セイカが悩んだ。あれやこれやと言い合い、悩みすぎて、ジンカがとりあえず斬り合えばわかるじゃろと木刀を握りしめた時に彼女は現れた。
「お、カガチや。ここに居ったか。白と汝を探しておったのじゃ」
久々に会った気がする。
それはこの蛇帝殿の主。七帝の一角、蛇帝ヤトだった。




