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ストレンジアルカディア  作者: 東夜 空
天を仰げ、地に伏せろ、汝らの屍を超えて我らは行かん
101/104

PART 深夜騎士団


 そこは地獄であった。

 見た者は正気を疑うであろう地獄。あるいは自身の目を疑う光景であった。

 しかし、悲しいことにドルドルにとっては日常である。


「それで?」


 低い男性の声が、ドルドルに続きを促す。

 ドルドルは現在、自身の上司にダンジョンでの出来事を報告している最中だった。

 上司――いや、正確には上司ではないが、クランでの立場はアチラが上だ。上下関係はあってないようなものであれど、上司であることには変わりないだろう。

 上司——つまり、彼は深夜騎士団を束ねるマスターである。


「断られました」


 取り付く島もなかったです、とドルドルは首を振る。

 そんな彼に、クランマスターは興味なさそうに一瞥するだけだった。

 彼は雑誌を読んでいた。ストレンジ・アルカディアのゲーム内にも雑誌や漫画の類はある。ファッション誌であったり、グルメ情報であったり、種類は様々であるが、プレイヤーやNPCが作成した雑誌がゲーム内にはある。

 こういった雑誌には、生きた情報が載る。攻略サイトや掲示板にはない情報があることを、ドルドルは知っている。だから、ドルドルは雑誌を読むクランマスターを否定するつもりはない。


 しかし――


「マスター」

「ん?」


 こうして真面目に報告を行っている中で、興味なさそうに雑誌を読まれていれば頭にくるものがある。

 そして、その雑誌が夜のお店をまとめた雑誌なのも頭にくる。


「コッチは真面目に報告しているんです!!話を聞け!!アンタ、うちのクランマスターでしょうが!!」


 雑誌を奪い取り、たまらず怒鳴っていた。

 そう端的に、ドルドルは切れていた。


「あー!お前。いいとこだったのに!?」

「なーにがいいとこですか!?コッチの話もいいとこだったんですよ!!それをマトモに聞かないで、こんな本ばっかり読んで!!」


 クランマスターが立ち上がる。

 上半身は何も着ておらず、下半身も身に着けているのは一つだけ。上半身には刺青が彫られており、厳めしい雰囲気を纏っている。

 しかし、彼の下半身はその厳めしい雰囲気を全て変態的なものにしていた。

 彼が身に着けているのは、おむつであった。

 上半身裸に、下半身にはおむつ。まるで大きな赤ん坊のような風体がクランマスターの姿であり、この部屋を地獄とさせている張本人である。


「しっかり聞いてたんだが!?」

「じゃあ、言ってみてくださいよ!!聞いていたんなら!」

「あれだろ!エリアボスを一人で倒したっていうヤツ!!綺麗なねーちゃんで、甘やかしてくれそうな!!」


 パァンと雑誌が机に叩きつけられる。


「そ、れ、はこの雑誌の話でしょうが!!倒したのはカガチっていう男性プレイヤーです!!」

「あ、あれ?そうだっけ??」


 はぁーと長いため息を吐いて、ドルドルは額に手を当てる。


「それで?どう思いますか?」

「どう思うって?」

「そりゃあ、そのカガチっていうプレイヤーですよ。あのゴードンをPKしたかどうかとか……まあ色々とです」


 あー、とクランマスター――オギャルドは少しだけ考えて云う。


「あり得る。多分、そのカガチってやつはアインセンで『刀姫』と一悶着起こしたヤツだろ。あの『刀姫』の関係者なら可能性は十分だ。『村』のヤツラといい、狂っているヤツが多いからな。

 それにゴードンは、あの剣に頼りっきりでプレイヤースキルは低かったはずだ。低レベルでもドーピングして、条件を整えれば勝てるんじゃないか?このゲーム、下剋上もシステム的には可能になってるからな」


 出てきた冷静な分析にドルドルは息を呑む。

 この人は恰好と性癖以外は凄くマトモなのだ。それに優秀だ。優秀でなければ、深夜騎士団を束ねることはできていない。

 だが、瑕疵が大きすぎて……


「兎も角、『刀姫』の関係者だ。下手に関わると火傷することもある。お前は引き下がって正解だったよ」

「そ、そうですか?」

「ああ」


 それに……とオギャルドは続ける。


「ソイツなら遅かれ速かれ頭角を現すだろうよ。まあ、それがどんな形かは知らんが」


 ドルドルが叩きつけた雑誌をオギャルドは再び読み始める。既に彼の中ではカガチというプレイヤーの話は終わったようだった。もうこの話は続けられないだろう。

 そんな彼に呆れながらも、ドルドルは窓の景色に視線をやる。

 そこにはフンブスの景色がある。活気に満ちた街だ。

 

 次いで、彼は入り口の扉に視線をやった。

 クランマスターの部屋とあって、他よりも厳めしい扉だ。その扉は開け放たれており、自分の怒声を聞きつけたメンバーが野次馬に来ていた。


「なんだなんだ?」

「まーた、マスターと副リーダーの喧嘩か」

「まあ、あの人変態だしなぁ……」


 髪色、装備、性別……様々なメンバーたち。今日はオフのつもりなのか、比較的数は多い。クランハウスで雑談にでも興じていたのだろう。


 それ自体は微笑ましいのだが……一部が手に持っている雑誌。それはオギャルドが読んでいる雑誌と同じ類のものだ。

 類は友を呼ぶ、とでもいうのだろうか。気のいいメンバーではあるのだが、リーダーであるオギャルドが変態であるが故に、どこからか変態(同士)まで集まってきている。


 不思議なのは、他のメンバーからそれに対する不満が少ないことだ。

 彼、彼女たちに言わせれば、まあゲームだしとのこと。


 そんな彼らに


「ハイハイ、なんでもないですから戻ってください」

「はーい」

「続きやろぜ」


 返事は様々であるが、彼らは素直に帰っていった。

 それを見届けて、ドルドルは新たな話題を口にする。


「マスター」

「ん?」

「概ね準備が整いました」


 短い言葉であったが、オギャルドにはそれだけで伝わった。

 なにせ辛酸を舐めさせられてから、それだけを目標にプレイをしてきたのだ。


「いつ行ける?」

「メンバーのスケジュール次第ですが、行こうと思えばいつでも」


 ドルドルの返答にオギャルドは笑みを浮かべた。

 獰猛な獣のような笑みを。


「それじゃ、メンバーを厳選しろ。攻略するぞ、このダンジョンを」


 フンブスのダンジョン。

 それは未だ攻略されていないダンジョンである。

 徐々にモンスターが強くなっていく仕様のため、初心者から高レベルプレイヤーが挑めるようになっている。そのため、プレイヤーの中にはフンブスから離れないプレイヤーもいるほどだ。


 深層の難易度は並大抵のものではない。

 深夜騎士団も、深層に歯が立たなかった。


 そこに彼らは再び足を踏み入れる。

 誰も到達していない景色を見るために。

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