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ストレンジアルカディア  作者: 東夜 空
天を仰げ、地に伏せろ、汝らの屍を超えて我らは行かん
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森林エリア 結3


 光の放射に『兜王蟲』が苦しむ。

 『兜王蟲』に為す術はなく、このまま死を迎えるのみである。

 出来るのは、水晶剣の太陽光の貯蔵が切れることを祈るだけ。あまりにもか細く、他人任せなクモの糸だ。


 それでも――『兜王蟲』の目はカガチ()を睨み続けている。


 ぞわっ、とカガチの胸に何かが湧き上がった。


「なんだ?」


 悪寒ではない。

 それとはまったく別種の感覚。ただ、カガチにはそれが何か分からない。


 そうして、カガチがそれに気をとられた瞬間を『兜王蟲』は見逃さなかった。


 熱線の放射が一瞬、緩む。その隙に『兜王蟲』は攻撃体勢を整え、地を蹴った。

 翅を使った突撃。『兜王蟲』の間違いなく最速、最強の攻撃である。

 放たれた熱線に、翅が焼ける、外骨格が焦げる――その程度では『兜王蟲』は止まらない。


「な、なぁ!?」


 それをカガチは正面から受けてしまう。

 衝撃、そして浮遊。

 明滅するHPバーが、どれだけ重い一撃だったかを物語っている。残り数ドット。まさしく、カガチは九死に一生を得ていた。


「……ッ」


 死んでいた。間違いなく。死んでいた。


 焦りがカガチの胸中を埋める。

 当然だ。本来ならば、カガチが生き残る術はない。

 ペラペラの紙装甲。貫禄の1桁VITは、エリアボスの一撃を受けられるものじゃない。

 フルアーマーの近接職でさえ、死に至る一撃だったのだ。

 カガチが生きているのは、とっさのハクロの防御と『兜王蟲』が弱っていたおかげである。


――運がよかった。


 結論はそれに尽きる。

 ハクロによるサポートも、『兜王蟲』の怯みも、幸運の賜物だ。当たり所が悪ければ死んでいたに違いない。


「あぁ、くそ……」


 カガチはポーションで体力を回復させる。

 そして、水晶剣をアイテムボックスにしまった。


「悪い」


 ぬるかった。ぬるすぎた。失礼だった。


 無意識にたるんでいた意識を叱咤する。

 なんて――油断。

 戦闘の最中に気を抜くなど。

 有効かつ安全地帯からの攻撃が、張り詰めていた集中を解かしていた。それだけでなく、『兜王蟲』の気迫に圧された。


 意識を切り替えるように、カガチは呪刀を抜いた。

 はたから見れば、意味の分からない行動だろう。

 なにせ、有効打を捨てた行為だ。より有効な攻撃に切り替えるのならともかく、ただ有効打を捨てるなど。勝負を捨てたと思われても仕方ない。

 無論、深夜騎士団のメンバーやドルドルたちがそれを知ることはない。彼らは、カガチの戦闘を一から見ていたわけではない。故に、カガチが有効打を捨てたなどとは夢にも思っていないだろう。


「お前に敬意を」


 カガチの身体から紫電が迸る。


 魂が腐りそうだった。

 カガチにとっての戦闘とは、あんなモノではなかった。安全地帯から、一方的に攻撃するのが戦など……考えてみれば、あまりにもカガチらしくない。

 命の削り合い。『壬生浪』は行き過ぎているとは思うが、戦闘の美学はそこにあるとカガチは考える。


 先ほど、胸に湧き上がった感情。

 ソレは嫌悪感だった。無意識に、あの戦い方に拒否反応が出ていたのだろう。


 だからこそ、カガチは『兜王蟲』に敬意を払う。

 あの熱線を耐え、一瞬の油断を逃さなかった。

 そんな『兜王蟲』の輝きに、カガチは自分を恥じずにはいられなかったのだ。

 勝てばいい。

 その考えを持つこともあるが、『兜王蟲』の戦い方には正面から向き合いたかった。


「なっ!?」


 ざわめく観客(ギャラリー)

 彼らをよそに、カガチと『兜王蟲』は視線を交錯させる。


 両者の間には、それだけで十分だった。


 次の瞬間には、両者は駆けていた。

 紫電が尾を引き、宙に弾ける。


 その刹那に『兜王蟲』の角とカガチの呪刀が交わる。


「……ッ!」


――押し切れない。


 刀から伝わってくる感触は、斬れないことを伝えてくる。

 『纏雷』での強化でも、『兜王蟲』の守りを貫くことはできない。だが、『纏雷』の強化は『兜王蟲』の攻撃を受け止めることを可能にしていた。


 つまり、膠着状態。

 情勢は、『纏雷』により刻々とダメージを負っていくカガチの方が悪い。

 だが、ここで引き下がる選択肢はない。そんなことをすれば、待っているのは死のみだ。


 ならば、押し切るしかない。


「オオオオォォォォォッッ!!!」


 『纏雷』を強める。

 強く、より強く。ここでHPを燃やし尽くす勢いで。

 紫電は稲光を増し、空間を焼いていく。


 刹那―――紫電が黒く変化する。


 瞬間、『兜王蟲』の角が斬り飛ばされる。

 なにが起こったのか。それを理解していたのは、おそらくハクロのみ。

 当人であるはずのカガチでさえも細部まで理解していない。だが、”斬った”その事実だけでカガチは動いていた。


 積み重ねた戦闘経験が理屈を吹き飛ばして、身体を動かす。


「オオォォォォッッ!!!」


 身を翻して跳躍。

 そのまま空を踏みしめて、『兜王蟲』の頭に呪刀を叩きこむ。


 『兜王蟲』の兜は胴体と別れ、ほどなくして身体を光と変える。


 一拍おいて、周囲から歓声が沸く。ギャラリーは、口々にカガチの勝利を称える。

 はた、と気が付けばカガチは囲まれていた。

 いつの間にか洞窟エリアの近くまで来ていたことを悟り、彼は脱力した。一気に倦怠感が襲って来たのだ。


 やかましい歓声を耳に、カガチはポーションを取り出す。


 こうして、森林エリアボス『兜王蟲』の討伐はなった。



・・・・・・・

・・・・・

・・・


 ドルドルは、いまの戦闘に声をあげずにはいられなかった。それは深夜騎士団の面々も同じなようで、彼と同じように歓声をあげている。

 ドライトの闘技場とは異なる命のやり取り。プレイヤーで、ここまで命の削り合いというのを実感できる戦いを出来るのは何人いるのだろうか。


 ごくり、と喉をならす。


 それは期待だった。確信だった。

 このプレイヤーが、カガチというプレイヤーがトッププレイヤーとして名を馳せることへの。


 クランマスターや『竜狩り』、『刀姫』、『魔弾』たちと張り合えるに違いない。もしかすると、彼らすら超えるかもしれない。


 期待と感動、歓喜の感情に押しつぶされそうになりながらも、ドルドルは理性的だった。

 彼も彼とて、大手クラン深夜騎士団の副クランマスターである。リーダーとしての視点も持ち合わせおり、組織のために動くことの出来る人間である。

 だからこそ、彼は誰よりも早く一手を打った。


 興奮して止まない心をそのままに、けれども顔は真剣に。

 理性的に、けれども隠しきれずに勇み足にドルドルはカガチの下に脚を運ぶ。

 視界の隅で、しまったという顔をしたプレイヤーがいる。彼らは瞬時に出遅れたことを悟り、そして戦力差を理解して落胆する。


「カガチ……くんでよかったかな?」


 着物姿のプレイヤーが、ポーションを飲みながら反応する。


「僕はドルドル。深夜騎士団の副クランマスターを務めさせてもらっている。もしよければ……」


 深夜騎士団。

 その名前に覚えがあったのか、彼の眉が跳ねる。


「深夜騎士団に入らないかい?」

 

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