第42話 魔力貯蔵システムとイカ祭り
次の日の早朝、いつもの様に魔力コントロールの修行を始めた
リオも朝に起きる癖が着いてきて、隣で一緒に修行をしている
一通り終わった俺達は、シロに作り置きのご飯をあげて、宿の食堂に向かった
「あ!ジンさんってあんただよね?」
食堂で朝飯を食べていると、宿の女将さんが話しかけてきた
「ん?俺がジンで間違いないが、何か用か?」
「この紙に書かれてることは本当なのかい?」
女将さんが持っている紙を見ると、ギルドからの通達書のようで、内容は『今晩、クラーケンを料理して振る舞うので、ギルド裏の広場に集まるように』とのことだった
下の方に『調理人:冒険者 ジン』と書かれていた
「間違いないな、今晩する予定だ」
「本当に、お金はかからないのかい?」
「あぁ、クラーケンなんてほっといても腐るだけだからな」
「そうかい!それじゃ、みんなに声をかけてくるよ!」
女将さんが嬉しそうに走っていった
俺が気分で始めたことが、ここまで注目されるとは思わなかった
最悪、集まりが悪ければ、調理だけしてアイテムボックスに収納するつもりだったが、この調子だと問題無さそうだ
朝食を食べた俺達は、造船所に向かった
「ティムさん、おはようございます、魔力貯蔵システムは完成しましたか?」
「あぁ!ジンさん!おはようございます、今朝方完成したところですよ!補充して行きますか?」
ティムさんの目の下にはすごいクマが出来ていた
徹夜で作業をしてくれたようだ
「はい、お願いします
それはそうと、休める時に休んでくださいね、目の下、凄いクマが出来てますよ」
「私しか魔導船のメンテナンスをできる人間がいませんからね·····ジンさんのためにも、もうひと頑張りしますよ!」
「あまり無理はしないでくださいね、出発は遅らせることも出来るので」
「ありがとうございます!ですが、約束は守ります!」
ティムさんには何を言っても無駄なようなので、魔力貯蔵システムの所へ案内してもらった
案内して貰った場所は造船所の地下だった
「ここは魔道具の研究施設なんです」
俺がキョロキョロしていると、ティムさんが説明してくれた
「ここで作られた魔道具を売り歩いてるんですね」
「そういうことです!そしてこれが、ジンさんが乗る魔導船に搭載する魔力貯蔵システムです!」
ティムさんが重たい扉を開けると、そこには昨日渡したクラーケンの魔石を核にした機械があった
魔石には色々なケーブルが取り付けられている
魔道二輪のガソリンタンク付近に似たようなものが着いているが、魔道二輪のものより大きく、1m程ある
「これが、魔力貯蔵システム、通称『タンク』です!ジンさんが提案してくれなければ、思いつきもしなかった魔道具です!」
「魔道二輪についてるのを大きくした感じですね」
「その通りです!魔道二輪に搭載したタンクで補充できる魔力は精々、5人分が限界ですが、このタンクはその10倍まで補充する事が可能になりました!」
「なるほど·····頑張れば今日だけで溜めれそうだな」
「さすがのジンさんでも、これを1日で満タンにすることは出来ないですよ」
俺の独り言にティムさんが笑いながら言った
そんなことを言われると意地でも満タンにしたくなる
「それじゃ、魔力を流してみますね」
「初めは魔力回路を馴染ませるために、軽くお願いしますね!」
「わかりました!」
俺はゆっくりと、魔力を流していく
感覚的には、毎朝している魔力コントロールの修行に似ている
タンクの8割溜まったところで、気だるくなってきたので1度タンクから手を離す
周りが静かだ·····誰も何も言わない
ティムさんをみると、タンクを見つめて固まっている
周りを見渡すと、他の作業をしていた人達まで固まっている
「どうかしましたか?もしかして、故障させちゃいました?」
不安になり、ティムさんに問いかける
「い、いえ·····まさか、ジンさんの魔力量がここまでとは·····こんなに魔力があれば、タンクなんて必要ありませんよ·····」
ティムさんがブツブツ言っている
どうやら壊れたわけでは無さそうだ
「とりあえず、残り2割入れちゃいますね!」
聞こえてなさそうなので、返事を待たずに残りを入れていく
「さすがに魔力が枯渇寸前ですね!」
「「「「えぇーー!」」」」
俺が汗を拭いながら振り返るとこの部屋にいた作業員達が一斉に声を上げた
「ジンさん!一体、どんな体してるんですか!まさか50人分の魔力を一度に入れてしまうとは!その体のどこにそこまでの魔力を蓄えているんですか!」
ティムさんが崩壊寸前だ
「ジンくんだからね·····」
リオがティムさんを宥めている
·····俺だから何だ?
「とりあえず、これで出発の準備は出来ましたね!今晩は是非、イカ料理を堪能しに来てくださいね」
そう言って、俺達はギルド裏の広場へ向かった
ティムさん達は最後までブツブツ言っていた
「なんだこれ····」
「なにこれ····」
ギルド裏の広場に着いた俺達は驚愕した
まだ昼前だと言うのに100人は軽く超える人が集まっていた
「ジン!お前が言う通り人を集めたぞ!この倍ぐらいは増える予定だ!」
ギルドマスターのレスターが笑いながら近づいてきた
そう言えばビラを撒いてまで人を集めていたな·····
「ジンくん·····こんな人数相手に料理作れるの?」
リオが不安気に聞いてきた
「·····任せとけ!俺が捌き切ってやる!だが、料理の提供は·····そうだ!ギルド職員を数人貸してくれないか?料理を提供するのに人手が足らない」
「人手不足か?そうなるだろうと思って、もう職員には声を掛けている、料理を提供するだけでいいのか?」
「ありがたい!提供だけで十分だ!料理は俺が作る!今から準備をするから中央の箱には誰も近付けないでくれるか?」
「箱って、あの巨大な土の塊か?」
俺が昨晩、クラーケンを塩漬けにするために作った土の器だ
この器の中で料理をすれば、アイテムボックスを使ってもバレる心配はない
「そうだ、よろしく頼む!たぶん、5時間ほどで準備が終わるからそれぐらいに始まると伝えといてくれるか?」
「あぁ、わかった!最高に旨いイカ料理楽しみにしてるぞ!」
「任せとけ!リオ、上から入るから蓋を取ってくれ」
そう言って俺とリオは土の器に入った
器の中はイカの匂いが充満していた
俺はイカの状態を確認する
「ぬめりはかなり取れているな、アンモニア臭は·····やっぱり完全に取るのは無理だったか、仕方ない、生物系の料理は無しだな」
「私は何すればいい?」
「それじゃ、衣作りを頼む、この分量で作ってくれ」
そう言ってメモと材料をアイテムボックスから出して渡す
「ころも?とりあえず、この分量を計って混ぜたらいいの?」
「あぁ、頼む」
イカフライの衣作りはリオに任せて、俺は一口サイズにカットしたイカの切り身を1度アイテムボックスに収納する
「さて、久々の団体客だ!」
実家の定食屋を思い出すと自然と笑みがこぼれた
〜5時間後〜
「ジン!そろそろ準備は出来たかー?みんな待ちくたびれてるぞー!」
器の外からレスターが大声で呼びかけてきた
「あぁ!今できたところだ!」
そう言って、土の器を土魔法で消して、周りから見えるようにする
「「「おぉーー!」」」
「「なんだあれ!」」
広場に集まった人達がこっちを見て騒ぎ始めた
その理由は多分、キッチンだろう
実家のキッチンをイメージしてコの字型のキッチンを作った
その他にも、油が入ったフライヤーやコンロなどこの世界では見たことが無いものが並んでいる
ちなみにフライヤーやコンロの火力は全て火魔法で調整している
魔力が持ってくれればいいが·····
「さぁ!みんな!思い思いの料理を選んでくれ!みんなが見たことの無い、食べたことの無いイカ料理を提供してやる!」
作れた料理は5品だ
・イカフライ
・イカと芋の煮物
・イカ焼き
・イカの照り焼き
・お好み焼き
広場には各自で椅子やテーブル代わりの台などを持ち寄ってきている
みんなが座りながら、ギルド職員を呼んでいる
職員達は急いでオーダーを取ってこっちにオーダーを通してきた
「リオ、何してんだ?早くオーダーを取ってこい!取り終わったら今度は提供しろよ!」
「え?私も手伝うの·····?」
「当たり前だ!後でゆっくり食わせてやるから行ってこい!」
それからは戦場だった·····
何時間作り続けたか分からない、ただひたすらに料理を作りまくった
腹を満たした人達が、今度は酒を取り出して騒いでいる
「とりあえず、イカ祭りは終わりだな!みんなご苦労さん!」
ギルド職員とリオの分のイカ料理は先に作ってアイテムボックスに収納していたので、テーブルの上に出してへばっているみんなに声をかけた
「「「「「いただきまーす!」」」」」
みんなすごい勢いで食べている
相当腹が減っていたらしい·····
「ジンくん、お疲れ様!このイカフライ最高ー!」
口にお好み焼きのソースを付けてイカフライを片手にリオが言った
「最高に旨いイカ料理を食わせてやるって言っただろ?」
「うん!全部美味しいよ!」
みんな喜んでくれているようでよかった
その後も港町で飲食店をしてる人達がレシピを教えて欲しいと言ってきたので、各店に別々のレシピを教えることにした
それぞれの料理を、この世界風にアレンジして欲しいところだ
「明日は1日ゆっくりするか、リオもやりたいことがあるならやっとけよー」
「ジンくん、食べないの?」
俺が宿に戻ろうとした所をリオに止められた
「ん?俺は作りながら食ってたからな」
「えー!ずるい!」
「私たちが必死に働いてる時に!?」
俺が笑いながら言うと、みんなから非難された
作る側の特権だと思うが·····
みんなからの文句が止まらないので、俺は逃げるように宿に戻った
「あー疲れた·····さすがにきついわ·····明日は1日休んで明後日から船旅だな·····明日は·····魔導船でも見にいくか····」
宿のベットにダイブした俺は、明日からのことを考えながら意識を手放した




