第30話 ハイオークと魔剣
俺は魔物の群れに突っ込みながら、血刀を両手に構えて、光刀と闇刀を創って空中に浮かべた
魔物が見える距離まできた、オークの群れだった
それぞれに武器を手に持ち、すごい勢いでこっちに向かってきている
「流石にこの数はキツいか·····」
『ゴォオオオ!バァーン!』
俺の後ろから直径1mの火球が飛んできて、群れの真ん中に落ちた
リオが魔法で援護してくれているようだ
今ので3体程倒した様だが、倒れたオークの後ろからまたオークが現れる
「やるしかないな!」
そう言って、闘気を発動させる
一気に加速して、オークの背後から、確実に首を落としていく
魔力がゴリゴリ削られていくが、今の俺のスピードについてこれるオークはいないようで、反応できずに次々と倒れていく
倒しながら、火魔法で火球を作ってできる限り群れが集まっている場所に落とす
今の俺の最大出力は直径10m程だ
数にして、25体は一気に倒すことができた
「そろそろ辛いな·····」
魔力を使いすぎで、全身に脱力感が半端ない
流石に闘気と光刀、闇刀の同時使用は、かなり消耗が激しかったようだ
殲滅速度は落ちるが、全てを解除して、魔力を使わない血刀と身体強化のみでオークの群れに立ち向かう
何度か攻撃を食らったが、リオのバリアのおかげで無傷だ
『グォオオオオオオオァァァァ!!』
群れが半数になったかと言う時だった
群れの一番奥から叫び声が聞こえてきた
その声の方を確認すると、この群れのボスであろうオークがいた
その姿は普通のオークの倍ほどの背丈があった
鑑定すると
【ハイオーク】Lv.42 / Bランク
【スキル】剣術Lv.0.6 / 身体強化Lv.0.5 / 統率Lv.1
統率Lv.1·····
鑑定でLv.1ってことはこいつが持ってるスキルはLv.10ってことだ·····
【統率】
鼓舞して身体能力を向上させる
Lvによって鼓舞できる数、上昇値が変化する
鼓舞された者は狂戦士となる
このスキルはかなり厄介な様だ
「まさかさっきの咆哮が鼓舞なんじゃ·····」
疑問に思い、オークを確認すると、目が白目を向いて口からヨダレを垂らし、狂ったように武器を構えて突っ込んでくる·····まさに狂戦士だ
しかも、速度と力がさっきまでと比べ物にならないほど上がっている様で、俺の速度にもついて来る
「くそっ!魔力をもう少し温存しておくべきだったな·····」
そう言いながら、アイテムボックス内から溜め込んだ血液を取り出し4本の刀を作り出す
毎日、少しずつアイテムボックスに溜めているが、やっと4本分集まった
血刀を4本持つことは出来ないが、4本とも空中に浮かすことはできる
浮かせると言っても、髪の毛ほどの細い血が俺と繋がっている状態だ
血液制御は体に少しでも触れていれば制御ができる
俺は血刀を遠距離から振り回す
血刀に触れたオークがどんどん細切れになっていく
武器でガードしても武器ごとぶった斬る
オークを倒していき、残りはハイオーク1体となった
「·····」
ハイオークは片手に大剣を持って、何も言わずに、こちらを睨みつけてきている
俺も血刀を1つに集めて、1本の大剣を作る
態々同じ大剣を作ったのには理由がある
どう見ても、ハイオークが持っている大剣は普通じゃない·····真っ黒の大剣だった
鑑定結果は·····
【暗黒剣】魔剣
代償を支払うことで力を得る
製作者不明
魔剣だった·····しかも、やばい方の魔剣だ
魔剣にも種類があることは、カタクのギルドマスターのランディから聞いている
根本的に、魔剣とは使用者に特殊能力を付与する剣のことを言うが、付与される方法が2種類ある
片方は、『暗黒剣』の様に代償を払うことで能力が付与される、邪剣と呼ばれている魔剣だ
もう1つは、代償を支払う必要はないが、剣との相性が良くないと使えない魔剣、これは神剣と呼ばれている
どちらも、切れ味が凄まじいのが特徴だ
ちなみに、レクスの剣は神剣だった
先祖代々、受け継いできた剣らしいが、レクスはまだ能力を引き出せていないらしい
どういった経緯で、目の前のハイオークが邪剣を手に入れたのかは分からないが、まずは倒すことを優先しよう
俺は縮地を使い、ハイオークとの距離を一気に詰める
そのまま横一線に大剣を振る
「グオ!?」
ハイオークは一瞬驚いていたが、軽々と俺の剣を避けた
俺は剣を振り切った状態で硬直して動けない
隙だらけの俺に向けて、大剣が振り降ろされる
『ガッ!キンッ!』
俺は動けない体のまま、血大剣を逆さ持ちの状態に変形させて、ガードした
剣を無理やり弾き飛ばしてハイオークとの距離を取る
「見た目の割に、動きが早いな·····」
その後も、血液制御の能力をフル活用して攻めたが、有効打は与えれなかった
ハイオークも俺がちょこまか動き回るので、イラついているようだ
『グォオオオオオオオァァァァ!!』
ハイオークが鼓舞の時と同じような咆哮を上げた
「鼓舞?仲間がいなきゃ意味ないだろ·····ん?」
今回は仲間がいないので、イラついて叫んだだけかと思ったが、ハイオークの様子がおかしい
目が白目になり、口が半開きになって、ヨダレが垂れている
「自分を鼓舞しても狂戦士になれるのかよ·····出し惜しみしてる場合じゃないな!」
狂戦士状態のハイオークを相手にこのまま戦えば、力でもスピードでも勝てないのは明白だ
俺は残り僅かな魔力を絞り出し、闘気を発動させる
大剣を血刀に変形させ、体内から血液を1L程取り出し、2本の血刀と4本の小さめの血刀、合計6本の血刀を創り出し、2本は手に持ち、4本は浮かべた
能力付与で右手の血刀に光属性、左手の血刀に闇属性、浮かべた4本に火属性を付与する
これにより、剣戟と同時に魔法攻撃も行える
能力付与は今まで料理でスキルを得るためにしか使ってこなかったが、そもそも名前の通り、能力を付与するスキルだ
魔法には付与出来なかったが、物である血刀にであれば付与することが出来る
ハイオークは、狂戦士になったことで、理性を失っているのか、剣を振り回しながらすごい勢いで突っ込んできた
俺は浮かべた血刀4本でハイオークを相手する
斬った場所から燃えて皮膚がただれているが、ハイオークは痛みを感じていない様で、血刀に斬られても勢いを落とすことなく突っ込んできた
俺もハイオークに突っ込み、左手の闇血刀を暗黒剣にぶつけて血刀を滑らせる
体勢を崩したハイオークの腕を光血刀で斬り落とす
「ガッ!?」
攻撃手段を無くしたオークが、1歩後ずさる
「今楽にしてやる·····」
俺は2本の血刀で斬り込む
ハイオークの動きが止まり、首と胴体が切断され崩れ落ちた
「ジンくん!やっぱり凄いね!1人でほとんどやっつけちゃった!」
戦いの様子を見ていたリオが俺の元に駆け寄ってきた
他の同行者達もオークの死体を見ながら
「マジかよ·····」
「1人で倒したの?」
「夢じゃない·····よね·····?」
「これがBランクの実力·····」
口々に色々言いながら、近くまで来ている
「あぁ·····流石に疲れたけどな·····」
俺はリオに返事をしながら、血刀をブラッドチェーンに戻し、そのままリオに抱きつくような形でもたれかかった
「えっ!?ちょ·····えっ·····ど、どうしたの?」
リオがキョドってちょっと声が裏返っている
「悪い·····魔力使いすぎた見たいだ·····後は頼むわ·····」
それだけ言って、俺は意識を手放した
薄れる意識の中、暗黒剣がハイオークの手から砂のようになって消えていくのが見えた·····




