第8話 やりたいことなりたい自分
シロウは部屋に戻ってもなかなか寝付けなかった。自分達の戦いを思い返したりもするが、やはり先程の戦いが頭から離れない。
シンはハルトの抜刀に合わせて銃を撃った。当てること以外は考えていないとしか思えない相討ち覚悟の攻撃。シンとハルトが互いに倒れた後、カイともう一人は直ぐに降参した。
シンの事や武器の名前はカイが教えてくれた。病室で不安そうに待っているカイは、誰かと話をしていたかったのだろう。たまたま通りがかったシロウに話をしてくれたのだ。
「ごめん。今の多分話しちゃいけない事。内緒にしててね。シンな怒られちゃうから」
口の前で人差し指を立てたカイの仕草は、『秘密じゃ』と言う時のじいちゃんと一緒だった。
先に目を覚ましたのはハルトで、挨拶の後、少し話すと部屋に戻れと言われた。仲良くなるのは明日終わってからがいいと言っていた。ハルトはきっととてもいいやつだ。
いい加減に眠らなければならない。
シロウはベッドの上に座ると、魔力を体内に循環させる。
やはり気持ちが昂っているのだろう。魔力は波のように循環しており落ち着きがない。少しずつ整える。
しばらくすると、シロウは横になり眠り始めた。
翌朝
大きな歓声が上がる。先に入場した勇者達への声援。
入場口で待つセージは落ち着くために目を閉じる。
幼い頃に見学した大陸戦。歓声に包まれながら戦う姿に憧れ、そこで優勝することが夢になった。
だから幼い頃から必死に剣も魔法も学び、今ここに立てている。しかも今日戦うのは特別な三人。同じ年でありながら他国まで名が轟く勇者の孫達。
王都の学校に入るまでは、天狗になっていた。周囲の同世代を物足りないと感じ馬鹿にしていた。だけど孤独だと思いたくないし、人に思われるのも嫌で、明るく振舞い誰でも友達のように接した。
でも自分とは違う。弱いこいつらとは本当の仲間にはなれない。そう思っていた。
天狗の鼻を折ったのは、キファとシロウだ。王立学校では魔法でも剣でもトップになれなかった。必死に努力したが二人に勝てない。この二人はセージを物足りなく感じているし馬鹿にしているだろう。そう思っていた。
2人への気後から斜に構えたセージを変えたのもこの二人。魔法を教えてくれとうるさいシロウ、模擬戦しようとしつこいキファ。いつの間にか三人でいることが普通になった。
代表選考で揉めた時の『この三人でなければ、私は辞退します』キファの言葉が嬉しかった。
この三人でなければ。
『俺はこの三人で出ます』前までは絶対に言わなかった。言えなかった。
自分に仲間がいる。対抗戦に出ることより大切なものがある。
「私は勝ちたい」
キファが言った。勝つと言い切らないのは珍しい。
シロウがキファとセージと手を繋いだ。セージもキファの手をとる。キファの手は冷たい。
「あのとき二人が僕の手を繋いでくれたんだ。とっても嬉しかった」
それはセージも同じ気持ちだ
「三人なら勝つ。三人だから勝つ」
思わず言っていた。
なにそれ。とキファが笑う。
それいいね、もう一回みんなで言おう。とシロウも笑いながら言う。
《三人なら勝つ。三人だから勝つ》