第2話 手の温めかた①
「ファイア」
突きだした右手の先が温かくなる、、、それだけ。
同級生は火球を的に向かって飛ばしているのに、シロウだけは火球を具現化出来ない。王都の学園は各地からエリートが通うから魔法を具現化出来ないのはシロウだけだ。
「魔法はほんとダメだな」
右隣からセージが4個の火球を次々に的に当てながら言う。
「シロウには剣がある。私には魔力がある」
左隣ではキファが一際大きな火球をつくっている。
セージは中途半端と言いたいのかも知れない。
入学して解った事がたくさんある。
一番の驚きは自分が強いということ。
村の学校では強かったがルカには散々負けた。だから弱いと思っていたのに、剣の授業では今のところ負け知らずである。
ただ魔法は進歩してないようで、一番簡単なファイアすら出来ない。
手を温める時は、身体中の魔力をかき集めファイアと唱える。使い所がわからない、、。
セージとキファ、最近はこの3人でよく行動している。
セージはクラスの中心。よくしゃべる、魔法も剣も学年でトップクラス。灰色の髪と目。男のシロウが見てもかっこいい顔。入学当初から気軽に話しかけてくれた。
キファは綺麗すぎて最初は話かけにくかった。向こうから話しかけてくれるまでは、声をかけることが出来なかった。
金髪に青い目。魔法がダントツで出来る。
僕はシロウ。顔は悪くはないと思う。剣は強いが魔法はビリ。黒い髪と黒い目。
特徴を羅列すると、この三人が仲良く、何をするにも一緒にいるというのは違和感がある。主に自分に。
◇
「あの脳筋め、、」
1学年の主任師範であるリンダは頭を抱えていた。
そろそろ四王国学園戦のメンバーを決めなければならない。
キファとセージは確定。問題はあとひとり。
魔法が全く使えないシロウと、どちらもセージには負けるがトップクラスであるワッツ。
昨年は2位。今年こそはの思いは強い。
四王国が互いに学年毎の代表者を出し競い合う学園対抗戦は、一年で一番大きなイベントである。
しかも今年はこの国が主催で、負けられない戦いというやつだ。
頭を悩ませているのはシロウの存在である。
剣術師範のバーゼルにシロウが魔法を使えないことを相談したのだが、シロウが負けるのは想像できないとだけ答えた。
いやそれだけ?
そうじゃない、具体的に魔法への対抗策はこうするとか
そういうことを話したかったのに。
悩みだすともう一つの懸念が浮かび出す。
ワッツは公爵の息子。しかも当主が今年こそは勝て!とうるさく言っている一人で、ワッツは強いとうるさい。
馬鹿でも解る圧力。剣術師範のバーゼルは馬鹿中の馬鹿なのだろう。
アルコール度数の高い酒を一気に飲み干す。
降格するときは道連れにしてやる!と脳筋バーゼルを思い浮かべながら、リンダはついに3人目の名前を書いた。
翌朝。
学年主任から呼び出しを受けた。
部屋の前に行くと、セージとキファがドアの前に立っており、シロウを見た瞬間に喜んでいる。
「やったな!」
セージがそう声をかけてきた。
主任の部屋に入ると、颯爽とした美人なはずの主任がいつにない疲れた顔を見せている。
3人が机の前に並ぶと、3人で呼ばれたと言うことで内容は解っているな、と切り出す。
「今年は我が国の主催だ。いつも以上の期待がかかると思うが、気負わずにやってくれ」
世事に疎いシロウでも、学園戦の事だと解る。
代表になり活躍したいという気持ちはあったが、魔法が使えないシロウが選ばれる事はないだろうというのが、周囲の見立てで、シロウもそう思っていた。
「僕が1学年代表でしょうか?魔法が使えませんよ」
知らないはずはないけれど、思わず聞いてしまった。
「それはな、」
リンダがシロウの質問に答えようとした時、ノックと失礼するの声。
「代表が今日決まると聞いてね」
そう言いながら堂々たる体躯の男が入ってきた。