第13話 徳馬
大陸戦で登場人物を増やし過ぎました。少しずつ掘り下げ開始
クリスタルの向こうにはカイルが映っている。
徳馬が転移したのはエルフの国エストニア。カイルはその王であり、実年齢は150歳と聞いた。
「対抗戦はどうでしたか?」
「今日見たのが、彰吾や桜と同年代で一番強い者達であれば、2人は抜きんでた力を持っているのかも知れません。ただ」
「ただ?」
「勇者の孫、アヤさんは戦いの途中で聖剣に認められたと思います」
「そうですか」
「聖剣を使える勇者が現れた今、私達はどうしたら良いのでしょうか?」
「彰吾も勇者に違いはないはずです。彰吾が聖剣を使えるかの確認はして欲しい」
それは聖剣を奪えと言っているのでは?と言いそうになったが、そう聞いても答えは同じだろう。彼らが必要としているのはエルフの国を守る勇者だ。
先の魔王との戦いで、最も被害があったのはエルフの国である。エルフが戦っている間に、人間は勇者達を転生させ鍛えた。転移でなく転生させたことで、成長を待たなければならず時間がかかりすぎたのだ。最終的には魔王は倒され、彼らも滅亡は免れたが、人間達が自分達を犠牲にしたという思いが強い。
徳馬も世界が違うとはいえ人間であり、そうですか、わかりました。と素直に受け止めたわけではないが、真っ白なカイルの髪を見ると、解りましたとしかいえなかった。
◇
徳馬が転移した時に一番に気になったのは、彰吾と桜、そして静の事だ。静は今12歳。徳馬にとって歳の離れた妹であるが、彼女は5歳の頃に突然目が見えなくなってしまった。
静の眼をなんとか治そうと、名医と聞いてはどんな遠方でも訪問し、相談したがまだ解決出来ていない。
彰吾と桜を元の世界に帰さねばいけないとは思ったが、徳馬自身が帰りたいと強く思った。
だから、魔王を倒す事で得られる魔石があれば、帰れるというエルフ達の言い分に、はい、そうですか。と納得は出来ない。
直ぐ順応した彰吾や、少しずつ慣れていく桜と違い、自分だけは頑なに帰りたいと言い続けていた。
ある日、王であるカイルに1人だけ呼ばれた。その時のカイルは、150歳とは思えない精悍な顔立ちに真っ青な髪の青年という見た目であった。
徳馬が静の事を話し、どうしても帰らねばならないと強く訴えると、カイルはほんの少しの時間だけ帰ることが出来ると言い、これを使えと霊薬を渡してきた。
カイルがそう言った時に、周囲のエルフ達はカイルを止めようと騒ぎ出したが、徳馬は光に包まれたと思った次の瞬間には、静の部屋にいた。
◇
もうすぐ夜明けなのだろう、朝日が部屋に差し込み始めている。目の前で寝ている静のまぶたに、霊薬をそっと塗って、静から離れる
「お兄ちゃん?」
静の声。目が見えない分、静は感覚が鋭い。思わず返事をしてしまいそうになるが、自分が今にも消えそうな感覚があった徳馬は部屋の隅で見守る。
「お兄ちゃんがいたと思ったのに」
静は半身を起こすと、ゆっくりと目を開けた。
「あれっ見える。見えるよっ。おかあさーん」
その声を聞いた時には、再び異世界に戻っていた。
◇
「その涙。妹の眼は治ったのか?」
涙を拭い、声の主であるカイルを見てハッとした。髪は真っ白、肌は枯れ木の様に変わったカイルがそこにいた。
「世界を渡るのは消耗するであろう、一度下がるがよい」
カイルにそう言われて、自室に戻ったが、カイルの変容が気になって仕方がない。
他のエルフから、あれは魔力を使い果たした姿で、あそこまでやれば、もう魔力は戻らないと説明された。霊薬も今は作れない貴重なものであるとも聞いた。
「私達は何をすべきでしょうか?」
次の日にカイルの元に行くと、そう言っていた。
◇
さて、どうやって聖剣を彰吾に持たそうかと考えるが、余り良い考えが浮かばない。隣の部屋から大きな声が聞こえて来た、彰吾はいつも騒がしい。
部屋を出て、彰吾の部屋に向かう、流石の彰吾も一人で騒ぐはずはないから、桜もいるのだろう。
不純異性交遊禁止!と異世界でも言わなきゃいけないのかなと、どうでも良い事を考えながら、彰吾の部屋に入る
「徳馬、明日、聖剣触らしてもらおーぜ」
そこには、にかっと笑う彰吾とハルトが居た。
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