第11話 聖剣カラトボルグ
まだ底が見えていない。打ち合いの度に変化がある。そして鋭くなっている。シロウは打ち合いの中で成長しているのかもしれない。
危険な相手。一気に終わらせるべきであるが、剣を重ねる度にカラトボルグから何かを感じる。
アヤにとってカラトボルグは頑丈な棒でしかない。かつては魔王を倒したと言われる剣だが、アヤが力一杯に振っても何も斬ってはくれない。
「強力すぎる武器は平和を乱す、聖剣に相応しい者は剣が選ぶ」アヤの祖父はそう言い、カラトボルグを台座に刺した。
時がたち、強力な魔物が現れ出すと王国は剣を抜くものを探した。
誰よりも期待されたのはアヤの父であるが、父は剣の前に立ち、少しすると触りもしないままで抜けないと言い、去った。
祖父が亡くなり、父が魔物との戦いで命を落とすと、アヤは剣の前に立ち、剣を抜いたのだ。
それ以降は勇者の再来と喝采を浴び、同じ年のハルトやナナとともに魔物と戦った。
しかしカラトボルグは何も斬ってはくれない。
決して折れない棒として魔物を叩くだけだ。本当に強力な魔物とは戦った事がないし、祖父に聞いたような魔人も出てこないから、周囲に勇者と呼ばれているだけで、聖剣はアヤを勇者とは認めてくれていない。
何度も聖剣に語りかけたが何も感じることはなかった。
カラトボルグを振る事は、自分への失望の連続であり、いつの間にか、無表情になり口数も少なくなった。
そのカラトボルグから、シロウと剣を合わせる度に鼓動を感じる。
ドクン、ドクンと伝わる何かは、シロウとの打ち合いを止めてはいけないと言っているようだ。
◇
観客席はキファ達の戦いで大いに盛り上がった。自国の代表は惜しくも負けたが、キファもセージも代表に相応しい戦いぶりであり 負けたのは勇者の孫達にである。
凄かった、勝つかと思ったというようなキファやセージの健闘讃える声がそこかしこで聞こえていたが、その様な声もシロウ達の打ち合いの中で静かになっている。
観客席が静かになると、静かな周りとは対象的な二人組が目立つようになった。
「行くか! 」
「見にきただけ」
「見ただけでわかるかいな。百見は一戦に及ばずや」
「ないよ。そんなことわざ」
「桜はかたいなー。カイルが言ってた聖剣が目の前にあるんや。あれを手にすることが、最初の目標って言うてたやろ」
「そうだけど、そうじゃない。私達のゴールは魔王を倒すこと、人間同士で争うのは違う」
「まーまー、二人とも。皆が闘技場に集中して静かだから、目立っているよ。彰吾が俺に食べ物を買いに行かせたのは、その間に乱入するっていう作戦か?」
桜はこの声に安堵する反面、私は何もしてないのにと思ったが、口に出して抗議したのは彰吾だ。
「何だよ、徳馬も早く帰りたいんだろ。別に奪い取りたいんじゃない。説明するだろ、そしたら多分、実力を見せろってなる。一緒じゃないか」
「徳馬先生だ。彰吾。彰吾は考え方が短絡的になってるぞ。私達を召喚したエストニア内なら無理も聞くだろうが、ここは違う。確かに彰吾は勇者のスキルを持っているけど、あの子も持っているんだろうし、ここにいる皆が思っている勇者は彼女だ。焦るな彰吾」
諭すような徳馬の話の最後は、大きな歓声にかきけされた