第1話 じいちゃんとルカと僕
目標は完結。
じいちゃんは異世界から来た。でも勇者じゃなくて、そのパーティでもなくて、戦いが嫌で村人をしていたのだという。
じいちゃんはお酒に酔うとたくさん話をしてくれた。もとの世界のことや勇者達のこと、そして自分が弱虫だったこと。
話の最後にはこの話は男同士の秘密だと言って小指を出す。指きりはじいちゃんの元の世界では何よりも重い誓いの証。
◇
6歳の時にじいちゃんが死んだ。
最後の夜にじいちゃんに呼ばれ、指輪とアメリアをもらったらしい。らしいというのは、じいちゃんが「アメリアと指輪をあげるから大切にするんじゃよ」と言い机の上の指輪を指差したんだけど、アメリアについては何もなかった。
アメリアって何?と聞くよりも、死にそうなじいちゃんを見ることだけで精一杯だった。
◇
じいちゃんの葬式は村のみんなが総出でやってくれた。
その時には、この村をじいちゃんがつくったことや、村のみんながなんやかんやとじいちゃんに助けられたことをいろんな人が話してくれた。
じいちゃんの名前はイチロウ。
この村の名前はフタバ村。
母ちゃんの名前はミツバ。
そして僕の名前はシロウ。
きっと女の子だったらヨツバだっただろう。
じいちゃんらしい。
◇
8歳になった。
じいちゃんが生きている頃は、剣の素振りと魔力鍛練をじいちゃんの前でやっていた。今でも毎朝欠かさずやっている。
『踏み込みが甘い』
『魔力がきれいに循環していない』
丘上の墓の前でやると今でもじいちゃんの声が聞こえる気がする。
「剣はともかく、魔力は才能がないな」
僕もそう思う。じいちゃんが生きていた6歳頃には体内を駆け巡る魔力を感じていた。今も魔力の流れは感じるが、それは微々たるものだ。
「しかし、体内の魔力循環は出来ている。おかしいな」
僕もそう思う。
いや、声は実際に聞こえている。
声がする近くの木の上方を見ると、枝に少年が座っていた。
ヨッという声とともに少年は枝から飛び、シロウの前に降り立った。
「ルカだよ。宜しく」
にかっと笑いながら右手を出す。
「早く手を出しなよ。握手は友達の証。知らないの?」
そう言うとシロウの右手をとり、握手したままブンブン振り回す
「名前は?」
「シロウだよ」
変なやつ。それがルカの第一印象。
それからは、ルカと一緒に鍛練をするようになった。
ルカは変なやつだったけど、とてつもなく強かった。
魔法はともかく、自信があった剣でも勝つことが出来なかった。
◇
15歳になった。
来年の4月からは王都の学校に通う。
村の学校から毎年一人が王都の学校に通うきまりがあり、シロウが選ばれたのだ。
王都の学校は遠くて寮に入らなければならない。
その事をルカに言った日は大変だった。
行かなければいいとか、学校が無くなればいいなら壊してくるとか、最近は変なやつと思うことは無くなっていたが、学校を壊すと言った時のルカは本気だったと思う。
いつもの時間にルカは来なくなってしまった。
前は一人でやっていたなと思い、剣の素振りをする。
いつの間にか、ルカと剣を合わせていることを思い浮かべながら剣を振っていた。
一通り剣をふった後は、目を閉じて魔力を体内で循環させる。
相変わらず魔力の量は微々たるものだ。
「剣はともかく、魔力は才能がないな」
その声に目を開けると、にかっと笑うルカの姿。久しぶりに見るルカ。
「ルカの剣。貸してあげる。大きくなったら返して」
そう言うとルカは鞘ごと剣を上にほうり投げた。
慌てて剣をキャッチしたときには、ルカはもういなかった。
かなり前に2人で魔物と戦った時に、魔法が使えないシロウはこれを使えと言われ、この剣を借りた事がある。
腰に差す。前は身長が低く腰に差すと剣の先端が地面に着いてしまうから、背中に背負った。
今、腰に差せた姿をルカに見てもらいたかった。
◇
王都に向かう日が来た。
あれからルカには会えていない。
ルカがよく登っていた木に近づき見上げる。
生い茂った葉の間を注意深く探したけどやっぱりいない。
『大きくなったら返して』ルカはそう言っていた。
根元にじいちゃんの指輪を埋める。
もしかしたら違う人が手にするかもとは全く思わない。必ずルカが気付く。
「大きくなったら、返して」
木に向かって言うと、馬車の駅に向かって走った。
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