声を無くしたお姫様
初投稿
あるところに、それはそれは美しい声を持つお姫様がいました。
ひとつ歌を歌えば小鳥が集まり、ふたつ歌を歌えば民は陶酔し、みっつ歌を歌えば国が止まるとまで言われていました。
しかし、そんなお姫様にも悩みがありました。
それは普通の声が欲しい、というものだった。
そのお姫様の声は美しすぎるが故に人前で喋ることを制限されていたのです。
思いっきり歌ってみたい、いろんな人とお喋りがしたい、そう思いながらも叶わない日々、そんなある夜、皆が寝静まった城の中、お姫様の部屋をノックするものがいた。
それは、一人の老婆だった。
「お姫様、声は要らんかね、普通の声は要らんかね。」
お姫様は不振に思いながらもその言葉の魅力に耐えきれずその扉を開けてしまう。
「声を、下さるの?」
「えぇ、私は声売り、誰かの声を買い取り、誰かに売るものさね」
「それなら普通の声をちょうだい!もう喋れないのは嫌なの!歌えないのは嫌なの!」
「分かりました、でも1つ注意があります、失った声はもう2度と戻りませぬ、それでもよろしいかな?」
「えぇ!もちろん!」
「分かりました、ではこの飴をお舐めください、明日の朝には、声は変わっていることでしょう」
そう言って老婆は茶色い飴玉を1つお姫様に渡した。
「ありがとう!これでたくさんお歌を歌って、たくさんお喋りが出来るわ!」
そう言うとお姫様は飴玉をヒョイっと口の中に入れ、すぐに眠りについてしまいました。
「ヒッヒッヒッヒッヒ」
笑う老婆の手には、いつの間にか空色に輝く、綺麗な飴玉が握られていました。
「毎度、ありがとうございました、確かにお代は頂きましたよ」
そう言い残すと老婆はゆっくりと闇の中に消えてしまいました。
次の日の朝、お城は大騒ぎでした、あの綺麗なお姫様の声が失われたのですから。
偽物だ!風邪か?医者を呼べ!風邪ではない、なら呪いか!
有りとあらゆる手を使ってお姫様の声を取り戻そうとしますが、何の成果も得られなかった。
一方お姫様は自由に喋ることを許され、歌い、お喋りをすることが出来ました。
しかし、歌っても誰にもほめてもらえず、お喋りをしていても腫れ物扱い。
以前は歌を歌えばたくさんの人からほめてもらえた、お喋りをすればたくさんの人が自分のお話を聞いてくれた、しかし今では誰もお姫様の歌を、話を聞こうとするものはいませんでした。
お姫様は気づきます、誰も私の歌を聞きに来てたのではない、誰も私の話を聞きに来てたのではない、私の声を聞きに来ていたのだと。
そこでお姫様は思いました、どうすれば歌を聞いてくれるだろう、どうすればお話を聞いてくれるだろう。
お姫様は気づきました、私には歌を上手に歌うことも、相手を楽しませるようなお話も出来ていなかったのだと。
お姫様は王様に頼みました。
「歌が上手くなりたい、もっと皆で楽しくお喋りできるようになりたい!」
王様は悩みました、声が戻れば歌の練習をしなくても、相手を楽しませるような話術を持っていなくてもいいのだから。
しかし娘の必死の頼みを断ることが出来ず、娘に家庭教師をつけるとこになりました。
その数年後、ある国は笑顔が耐えることなく、普通の声だか、めっぽう歌が上手いお姫様がいると噂になった。
無くして初めて気がつくことがある、失敗してしまうこともある、大事なのは、そこからどう動くか、なのだろう。
お読みくださり、ありがとうございました。