その3
ほぼ、常態化した江戸川 智裕の通勤焼肉。この幸せな時間は続くのだろうか。
第3夜
なんだか、夕方からウキウキしていて、仕事を終えると、『牛の穴』に向かう智裕の姿があった。
最早、毎日でもいいと思えるくらい気に入又いた。
店に入ると、またまた同じ部屋に通され、相席の要請。快く引き受けるとウメガミ カホが今日も来た。
「こんばんは~」
『こんばんは』
ビールと数皿の肉をオーダーすると、会話ははじまった。今日は智裕が先手をきった。
『バイトって教えてくれたけど、お昼は何をやっているの?』
カホも、普通に友達に話すようにはじめた。
「学生をやっています。親元を離れているんで、それにお肉が好きなので、ここの店がよかったんです。ただ、夜遅くはできないので、いつも、このくらいの時間に帰ってます。」
やがて、肉の皿が出てきたので、しばし焼く方に集中して、2人で食べ始めた。
しばらくして、また、カホから口を開いた。
『私、少しコミュ障で、ここのバイトも最初はホールの方だったんです。でも、上手く喋れなくて、個室、今は、厨房なんです。』
いきなり、打ち明け話をされ、驚いたが、そんな風に感じるでもないので
「カホさんは、コミュ障じゃないよ。とても楽しく喋れてるし、寧ろ、お話上手だよ。」
『お店の方が、エドガワさんが最初いらっしゃった時、とても良さそうな人だから、思い切って話してみなさい。と言われました。』
少し、照れてしまった智裕だったが、
「そうだったんだ。僕も、普段は、そんなに喋らない方だけど、なんだか、とっても楽しいよ。」
カホは、少しうつ向き、
『ビールで酔ってらっしゃるから・・・・。』
すかさず、
「これくらいじゃ酔わないよ。僕は無敵だからね。」
などと、他愛のない話は続いた。
この後、土日を除いて、出張などがない日は、智裕の夕食は全て、焼肉になっていた。
月も終わりに近づいた月曜日、カホは、こんなことを言った。
『エドガワさん、明日もいらっしゃいますか?』
「もちろん、急な遅い仕事が入らなければ来るよ。」
『良かった~。私、少し休むので、明日どおしてもお会いしたかったんです。』
何だか、とても嬉しい気分になった智裕は、「それでは、明日。」
と言って店を出た。
つづく