イントロダクション
とある星のとある国。そこにはこことは異なる世界より「聖なる乙女」――通称「聖女」を召喚し、護国を神々に請願する巡礼の旅をさせるという、古よりのならわしがありました。
一年をかけて準備されるその神事は、いわば一大国家事業でありましょうか、国の威信と富国の願いをかけて行われるその儀式の名は時代によって変わりますが、ここではひとまず「聖女召喚の儀」と呼びましょう。
時代が移り変わり、王朝が変われど連綿と続くその儀式は、前触れなく異世界の地へと喚び出され、「聖女」と称され、旅に出される彼女らからすれば、なんともハタ迷惑なものでございましょうか。
けれども人間の欲望に底がないのと同じように、それらの集まりである国家にこごる欲は果てしがありません。ですから儀式はもう何百年も、何千年も続いているのでございます。
どうか繁栄の栄光を、発展の栄誉を、歴史に名を綴られ続ける誉れをくださいませ。
そんな願いを「聖女」らに託し、神々へと祈りをささげるのでございます。
それによってもたらされるは、豊穣のみとは言えますまい。国は人間の塊であるからして、そこに有象無象の悲喜こもごもも生まれるのであります。
さてさて、ここにしがない魔女がおりまして。
彼女の仕事は「魔女」などと称されるからして、イマイチ怪しげな術の類いを駆使することが生業であります。
しかしまあ、言ってしまえば自由業ですな。
思い立てば王宮になど顔を出して、「おお魔女さま」などと呼ばれては、様々な悩み事を相談される――そういうことをしておるのです。
彼女も彼女で、そこは物語に出てくる魔女のように冷酷狡猾とはかけ離れ、言ってしまえばお人好しなのでございますから、あれやこれやと悩みに悩む。人間の役に立とうとする、まあそれなりに善良な魔女でございます。
しかしそんな彼女にも苦悩や愚痴を吐き出す機会は欲しいというもの。
そういうときに訪れるのがあなた――友人であるあなたの元なのでございます。
さてさて、今日の魔女はいったいどんな話をしにくるのやら。
――「ねえ、聞いてよ」