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68 殿下に懐かれたようです

アリスちゃんを守ってラヴィスちゃんが死ぬ。

読んでいた当時は失恋の痛みを知ったラヴィスちゃんがアリスちゃんのピンチに身を張って助け、血を流しながらもいつも通りの笑顔でミシェルにアリスちゃんを任せる展開は本当に切なくて、その時だけアリスちゃん推しを一瞬忘れてラヴィスちゃん推しになってしまうような綺麗な展開だった。それでも読者はまさか少女漫画で死人が出るとは思ってなかったために賛否両論あったらしいけど。今考えればわかる。多分あれはテコ入れだった。

いまはそれも現実だ。現実世界でまで同じ轍は踏ませない。綺麗な死なんてそんなものはない。

悲しい結末を迎える当て馬はエミリアだけで十分だ。いや、エミリアも嫌だけど。そもそもなんで悪役より酷い末路を辿らされるんだ。可哀想すぎる。

これはアリスちゃんの代わりをすると決まる前から決めていた。アリスちゃんの危機も、ラヴィスちゃんの死亡ルートも絶対回避!回避ったら回避だ。


「おい、どうしたんだ?俺様の格好良さに見とれて声も出ないのか?」

「…あっ、ラヴィスちゃ…じゃなくてレッドメイン殿下」

「むぅ?」


一人で回想していたせいで脳内の呼び方でそのままよんでしまった!!!冷や汗が流れる。王族に対してラヴィスちゃんは普通に考えて馴れ馴れしすぎる。これはもしかしなくても死亡回避の前に私が国外追放されてしまう!!

ラヴィスちゃんは顎に手を当ててなにやら考えている。まずい。謝ろう。土下座するしかない。


「も、申し訳ございませんっ!!つい…」

「いや、…………いい」

「へ」

「……だ、だから。いいと言っているんだ。お前にラヴィスと呼ばれるのは、まぁ…その、悪くない」


真っ赤になりながらラヴィスちゃんが信じられないようなことを言っている。本来殿下のような高位の身分の人間を愛称で呼ぶことが許されているのはその親の陛下方か、もしくは婚約者だけだ。それも許可が出たあと。仮婚約者の私では、ミシェルのことも愛称では呼ばない。強いて言うなら愛称はメルちゃんだけだ。


「いえ、流石にそれは…」

「お、俺様がいいって言ってるんだ!命令だ!ラヴィスと呼べ!」

「か、かしこまりました。ラヴィス殿下」


一瞬は辞退しかけたものの、ラヴィスちゃんが機嫌が悪くなりそうな雲行きを感じて、にっこりと微笑みかけた。単純というかなんというか、一気にご機嫌な様子だ。うーん、かわいいなあ。


「ラヴィス殿下のことは、わたしがお守りします」

「そ、そうか。………まあ?この俺様は格好いいから!俺様もお前のことを守ってやろう!ふははははははは!!!」


早口でまくし立て大笑いするラヴィスちゃん。うーん、ちょっとうるさい。それでも国外追放にならなくてよかった…ラヴィスちゃんを怒らせたら国外追放どころじゃすまないかもしれないって考えを改めた直後に失敗をするなんて迂闊すぎる。

ある程度校内の紹介を終えるものの、ラヴィスちゃんはまだ私の傍から離れる様子はない。ずっと機嫌良さげに私に話しかけてくる。彼の場合は私が聞き流して適当な返事をしていても特に気にせず話し続けるためとても楽だ。

これがアレンなら私の大好きな可愛い顔でわざとらしいほどにうるうるさせて「僕の話、つまらなかったですか…?」って聞いてくるに違いない。長い付き合いでそれが腹黒の演技だとわかっているのに思わず罪悪感を感じてしまうのだ。可愛い顔ってつくづく得だ。


「エ、ミ、リ、ア」


ほらまた考えていたせいか可愛い声の幻聴が聞こえてくる。こんなジャストタイミングで聞こえるわけないのになあ。気にしないでいると、今度はつんつんと服の袖を引っ張ってくるような気配がする気がする。妄想力が恐ろしい。肩を叩くのではなく服の袖を引っ張るとかあざとい行動がいかにもアレンらしい感じだ。これも長年の付き合いのせいかもしれないなあ。アレンのあざとさのイメージが前面に出ている。


「なるほど、エミリアはそう思っていたのですね」

「はっ」


ようやく我に返ると、驚くべきことに本当にアレンがいた。にっこりとした笑みを浮かべているが、どこか寒気を感じる。ぶるっ。


「むっ!お前は…アレンか」

「トラヴィス王子、御機嫌よう」


ラヴィスちゃんの反応にアレンが優雅に頭を下げた。どうやらアレンたち王族は事前に挨拶を済ませていたようで簡易的でいいらしい。2人の様子を見るに、元から顔見知りみたいだし。


「エミリアがしっかりとトラヴィス王子の案内を出来ているか心配で、来ちゃいました」

「そ…そっか」

「ところでエミリア、先程トラヴィス王子のことを愛称で呼ぶ、などといったことを聞いた気がしますが、気の所為でしょうか?」

「う、うん。そうそう気のせいだよ。」

「ふぅん…」


明らかに信じられていないというかおそらくバレバレな気がするが大人しく認めたところで多分何も変わらない。自分の防衛本能のままに誤魔化しておくことにした。…どのみち人がいるような場ではラヴィスちゃん…じゃなくてラヴィス殿下と呼べるわけもないし、アレンの前でも愛称で呼ぶのはやめておこう。最後の足掻きだ。


「俺様が許してやったんだ!なんせこの俺様は格好いいだけじゃなく寛大な心をもっているからなあ!!」

「エミリア、嘘はいけませんね?」


まあ、わかりますよね、普通に。知っていましたとも。



ラヴィスちゃんはアホっぽいし、ナルシストだけど、性格が悪い訳ではない。婚約者が決まっていないこともあり、最初はラヴィスちゃんのテンションに引いていた令嬢も数日もすればハンターのように近づいていくようになった。目がギラギラしている。いくら最近フェミニストではと囁かれつつある私でもちょっと怖い。

しかしラヴィスちゃんは慣れているのか、一見すれば爽やかな笑顔を周りに振りまいていた。むしろ沢山褒められて機嫌がいいようだ。単純でかわいいなあ。

問題があるとすれば、私から片時も離れようとしないことである。お陰でアリスちゃんからの連絡に応じてシオンになることが出来ないどころか、他の友人たちとのお喋りすら制限されることである。

まだなんとかなっているが、クレアちゃんが我慢の限界にならないか割と心配している。今は落ち着いているとはいえ元ヤンデレだし、私を監禁したくなるくらいには好きでいてくれている。痺れを切らしたクレアちゃんがラヴィスちゃんになにかしてしまうのではないかち戦々恐々だ。


「エミリア、今日こそ一緒に学校に行こう」

「あ、おにいさ」

「今日もこの俺様が迎えに来てやったぞ!!!!!感謝するがいい!!!!」


誘ってくれたお兄様の空気が凍り付く。最初のうちは慣れていない学園生活だろうから頑張っておいでと笑顔で送り出してくれたお兄様が連日すぎる迎えに、明確とまではいかずともいらだちを募らせているのが丸わかりだ。

とはいえ他国の王子であるラヴィスちゃんに口を出すことはお兄様は勿論、関係を気遣わなくてはならないためアレンですら強気に出ることは難しいらしい。


「…トラヴィス」

「む?」

「一応、俺の婚約者だから、外聞も考えてくれるか」


ミシェルが私の腕を引っ張り、私を横につける。…珍しい。ミシェルは今まであまり私とラヴィスちゃんの行動に口を出すことがなかった。てっきり不満もないのかと思っていたし、それが少し寂しい気もしていたのでちょっと嬉しい気もする。…いや、もしかしたら外聞も悪いからと誰かに注意されたのかもしれない。というかその方がありえる。


「ああ、お前はエミリアの婚約者だったな…」

「そういう事だ。連日エミリアと一緒にいるのも外聞が悪い。今日は俺がエミリアと行く」


ラヴィスちゃんも流石に婚約者だと思い出すと少し考えることがあるようで、ふむと考えている。そのうちに特に返事も聞かずにミシェルは私の手を握り連れ出した。ポカポカだけど大きな手に握られながら、「イケメンって汗かかないのかな…」とこんなに温かいのに手汗がないことを疑問に思った。すべすべなお肌もイケメンの特権なのかもしれない。

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