51 デイヴ、聞いてください
「デイヴ…聞いて…」
自室に帰宅後、私を出迎えてくれたデイヴに力なく抱きついた。デイヴは一瞬固まったあと、いつも通りの優しい声音で「どうしましたか?」と尋ねてくれた。相変わらずデイヴは優しい。
「このままじゃぼっち街道まっしぐらなの…ひとり寂しく高校生活…辛い…」
「エミリア様がここまで友達を作る分野で手こずるとは思ってなかったですが…なんででしょうね?」
沈んだ私を慰めるようによしよしと撫でてくれるデイヴ。
実は昔から何かあった時はデイヴに泣きついていたりしなくもなくもない。1番身近な存在といえばお兄様とデイヴだったからね。お兄様に泣きつくと権力と金の力をつかって元凶を叩きのめそうとするのでだめなのだ。
…怖すぎるだろ。
そういった意味でデイヴは安心感の象徴であり、落ち着く存在なのである。…まあ、一年後には見捨てられ…るん、ですけど…。
「ちょっ、エミリア様!?」
「みんなに見捨てられ…そしてひとり追放…」
涙ぐんだ私にデイヴの体がぴくりと揺れた。見上げると驚いたように目を見開いている。
「…エミリア様、どうなさったのですか?」
「頑張っても、ひとりなの…きっといつかは…」
「あー…」
私の言葉に察したように苦笑いを浮かべるデイヴ。…うう、私のコミュ障がバレていたのか。ごめんね、こんなご主人で…。
デイヴの撫でる大きな手になんとなく落ち着いてきて余裕が出てくると、友達をつくるにはどうすべきかと相談を持ちかけてみる。こう見えてデイヴは使用人仲間にはとても慕われていて、友人も多いとか。
「そうですね…お嬢様の状況はある程度伺っておりましたが…。まさかそこまでとは思ってませんでしたね…」
「?デイヴ?」
「ああいえ、こちらの話です。申し訳ございませんが、現状況では新しいご友人は難しいかもしれません」
「なんとっ!?」
どうやら私の友人作りは絶望的らしい。まあ今更距離置いてもミシェルやアレンと仲がいいという噂は払拭出来ないだろうしなあ。ううん、現実は残酷だ。
「でも、エミリア様」
「なに?」
「セシル様やミシェル殿下、アレン殿下は離れていったりしないと思いますから、1人ではないですよ」
「…うーん」
「私も、エミリア様の元から離れるつもりはありませんから」
そういって優しく微笑むデイヴの顔に複雑な感情を抱いた。…実際には、違うのだ。いつかデイヴは、…見捨ててしまう。
「…デイヴ」
「はい」
「見捨てないで」
「はい」
このままエンディングでいいんだけどなあ。そんなことを思いながらデイヴの胸に体を預ける。
それなら、見捨てられる心配なんてしなくていいのに。
「…エミリ」
「クレアちゃん!」
暫くして、控えめなノックのあとクレアちゃんが部屋に入ってきた。クレアちゃんが訪問してくることは時々あるが、何故か大量に荷物を抱えていた。
「どうしたの、それ?」
「エミリ、忘れてるみたいだけど」
「うん?」
「もうすぐテストだよ」
「うぇっ」
悠長に友達作りしている場合じゃなかったようです。私の反応にクレアちゃんが「だと思った」と平坦な声で首をかしげてみせる。…すみません。
それから数日、クレアちゃんや双子王子、お兄様たちに勉強を教わり猛勉強をした。ちなみに成績は相変わらず平均。上位のメンバーも全く変わらなかった。やっぱり王子二人は化け物だと思う。
私を取り巻いている状況も変わらず。…いや、少し違うか。
「…あ、エミリア様…いえ、すみませんっ!勝手に名前を呼ぶなどおこがましいですよね!」
「ノエルちゃん!」
そうなんです。友人が1人勉強中にできたんです。
きっかけはといえば王子2人による勉強会。教えてもらおうと思った時にたまたま近くにいたので(半強制的に)連れ込んで一緒に勉強しているうちに(半強制的に)名前で呼び合う仲になったのだ!別のクラスだけど。
いやー、いいね。女友達今までヤンデレしかいなかったから私とっても嬉しい。いや、クレアちゃんも大好きだけどね。
「そうだ、テストの打ち上げを兼ねてわたしのお部屋でお茶しない?」
「お茶、ですか?すみません、私なんかがいってもいいんですか?」
「むしろノエルちゃんとしたいのっ」
「わひゃっ、う、うれしいです…!」
「…エミリ。私は?」
ノエルちゃんに抱きついてイチャイチャしていると、ヤンデレ美少女が無表情で割り込んできた。視線が熱い。お兄ちゃんへはもっと熱いんだろうなあと思うと恐ろしい。ロゼに何かプレゼントでも送って労わろう…。
「うん、勿論クレアちゃんも一緒!ね?」
「ふたりが、いいのに…」
「?何か言った?」
窓から暖かい日差しが強く差し込み、そろそろ夏が近づいていることを告げている。クレアちゃんとノエルちゃんを連れて自室へと向かった。
忙しく低頻度更新になると思いますが、こじんまりと続ける予定なのでゆっくりとまって下さるとうれしいです…!




